第3話

暫くして老紳士が真っ黒いローブを着た医者には絶対見えない人を連れてきた。

茶髪をオールバックにした老紳士と同い年くらいの男性だ。

髪はしっかり整えてるのに無精髭が生えてる。

髪を整えるなら髭を剃ればいいのに。


「魔術医のクローケンをお連れしました。さ、クローケン、お嬢様の様態を見てください」


クローケンと紹介された男性は目を細めて私をじーっと見つめる。鋭い眼光に胃が痛くなった。


「お前さん、お嬢じゃねぇな」


渋い声で告げられた言葉にびくりと肩が跳ねる。

信じられないけどこの容姿は確かに私じゃない。元の私は癖のある髪をした田舎くさい丸顔の人間だ。

こんな美少女……いや美幼女であるはずがない。


「ど、どういうことですかクローケン!」


老紳士が慌てふためく。

慌てたいのはこちらも同じだ。


(もしかして小説みたいにどこかの誰かに憑依したとか?だとしたらこの体の子は今どこに?それ以前に私はやっぱり死んだ?)


不安な気持ちがぐるぐると回り胃が痛くなる。


「魂の色が違う。ケビン、とりあえず旦那に伝えてこい。これは俺にも治せねぇ」

「わかりました!すぐに!」


老紳士はケビンという名前らしい。

慌てながら部屋を出ていった。


「さて、お前さん。どこの誰だ?」


問われてまたびくりと肩が震える。

私だって憑依したくてしたわけじゃない、気がついたらこの美幼女の体だった。

私が困惑し震えているのに気がついたのかクローケンはベッドの傍までくると、そっと屈んで視線を合わせ先程とは違い落ち着いた声で話しかけてきた。


「俺は魂の色が見えるんだ、俺の知ってるお嬢は薄い紫なんだがお前さんの色は違う。だが、何も取って食おうってわけじゃねぇんだ。ただその体の持ち主は、俺の主人にとって大事な人だからな。どうしても確認しないわけにはいかねぇんだ」


わかってくれ、と頭を下げられ私は戸惑いながら頷いた。

今の所、危害を加えられたりはしなさそうだ。

私は彼を信じて簡単に今の状況を説明した。

電車の事故にあって意識がなくなり、気が付いたらこの体にいたのだと。多分、元の体は死んでいると。

電車という言葉の意味が伝わらなくて、箱に乗って移動する乗り物だと告げると「馬車みたいなもんか?」と言われたのでとりあえず頷いておく。

馬車と電車はかなり違うが他にうまく説明できる自信がない。


「怖い思いをしたんだな」


よしよしと優しく頭を撫でられて少し驚く。

外見は幼いけれど中身は20歳を越えているのだ。

普通だったら見知らぬおじさんに撫でられれば嫌悪を抱くが不思議なことに嫌だと思わなかった。

クローケンの目が優しく細められていたからだろうか。


「クローケン!旦那様をお連れしました!」


そこへ慌ただしくケビンが戻ってきた。

後ろに背の高いとんでもないイケメンを従えて。

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