第6話

scene6 神棚


おいしい朝ごはんに一息ついたところで、ナナさんが言いました。


「ところで。どう思う、この神棚?」


「ええ?どうって?神棚ですよね?

でも、実は気になってたんですが、お狐さまのお供えってお酒や油揚げですよね?このお狐さまには、片方にチーズがあるんですけど?」


そうなんです。

神棚の両脇にはかわいい陶磁器のお狐さまが。

で、その前には、盃のお酒や油揚げがお供えのはずなんですが。

向かって右のお狐さまの前には私もよく食べるキューブ型のチーズがあるんです。

まるで狐さんに供えられたみたいに。


「ああ、それ?この子がチーズが大好きだからよ」


「ええー?まさかー!」


ナナさんらしいおもしろい冗談だなぁと思い、笑う私。

すると、先生も続けて言うんです。


「狐がチーズを好きでも別に問題はないよ。瑠璃子くんだって、チーズは好きだろう?」


「そりゃ、私もチーズは大好きですけどね。でもお供えにチーズって、、」


なぜか納得できない私。


「では瑠璃子くん、この神棚を見てどう?」


ナナさんに続いて先生までも同じのような質問を投げかけてきました。


「えっ?先生も?」


あらためて不思議な問いだとは思ったんですが。

先生の専門は私も受講している史学。

フィールドワークというように、実生活に根ざしたものをよく知ることで学問が広く身につくものだと思います。

であるのならば、神棚のお狐さんのチーズにも何か深い意味があるんじゃないかと。

こう思ったりもする私です。


「実は初めてこの神棚を見た時から、なんか気になっていたんです」


思ったことを正直に伝えました。


「まず、さっきのチーズの好きなお狐さまですけど、このお狐さま、口のまわりになんかチーズの粉みたいなのが付いてますよねー。なんかナナさんの芸が細かいっていうか。それともどこかの地方の風習か何かでしょうか?


「うんうん、それで」


「それで、それで」


先生も、身を乗り出したナナさんも、なんだか楽しそうに私の話を催促します。

まぁ笑われてもいいやと、もう一つ思っていたこともついつい話してしまいました。


「お狐さまの奥、神棚の奥がなんかぼやーっと光ってるみたいなんですよねー」

「やっぱりお狐さまの口もとのチーズのかけらが気になるし。

でもこっちのお狐さまは賢そうなお狐さまだけど、チーズのかけらが口についたお狐さまは、なんかあんまり賢そうに見えないし」


まぁ、面白おかしく話したつもりだったんです。


ぷー、わはは〜

あはは〜


先生とナナさんのふたりは、顔を合わせて大爆笑です。


「そっかー、こっちの子はアホっぽいわけねー」


涙が出るくらいお腹を抱えて笑うナナさん。

やっぱり私が笑われたんだと恥ずかしくなりかけましたが、ナナさんは神棚のお狐さまを見て言いました。


「だって。玉ちゃん」


「た、玉ちゃん?」


ナナさんが語りかけたそのときです。


モクモクモクモクモク〜ど〜ん!


煙の中にいるように、神棚のお狐さまがみるみるうちに、ねこサイズの狐になりました。

それも2匹!

私の前にちょこんと座りました。


「ええ〜!ホンモノー!?」


「でもかわいい〜!」


不思議とびっくりはしなかったんです。

だってびっくりするよりも可愛かったから。

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