25話 テンプレを殺すセンエース!


 25話 テンプレを殺すセンエース!


 思いっきり殴りかかってきたガチムチ。


 ハッキリ言う。

 全然見えん。


 こいつのパンチ、めちゃくちゃ早い。

 もちろん、アポロやヘブンズキャノンの攻撃よりは下だが、


「うげはっ!!」


 よけることなどできず、

 豪快に吹っ飛ばされる俺。

 カベに激突して、血を吐いた。


 こんな状況だっていうのに、まわりは完全に見て見ぬふり。

 というか、楽しそうに、ヤジウマしている。


 冒険者ギルドの職員も、

 『はいはい、いつものこと』

 みたいな感じで、完璧にシカトしてくれている。


「……ははは……」


 この状況が、あまりに面白すぎて、

 つい、笑ってしまった。


 俺は立ち上がって、

 ガチムチの方へと歩いていく。


 ガチムチは、ニタニタと笑いながら、


「このダーバン様の一撃をくらって立ち上がれるとは、なかなか根性があるじゃねぇか。しかし、次は、さすがに耐えられないぜ」


 などと言いながら、もう一度殴ってこようとしたので、


「おい、ダーバンさんよぉ。今度はこっちの番だろ」


 にぎった拳をチラつかせながらそう言ってやると、

 ダーバンは、ニィと小バカにするように笑って、


「いいだろう。その『枝(えだ)キレ』みたいに細い腕で、力いっぱい、殴ってこい。ほれ、ほれ、どうした。どこでもいいぞ」


 『ウザい顔』で煽(あお)ってくるダーバンさん。


 俺の怒りが臨界点(りんかいてん)を突破(とっぱ)する。


 それでは、これより『俺を小バカにした愚(おろ)かさ』を清算(せいさん)してもらうか。

 そうだな……ここから『5日』ぐらいは粘着(ねんちゃく)してやるか。

 こいつが、泣いて謝ってももう遅い。

 『頼むから帰らせてくれ』と、

 土下座する勢(いきお)いで謝っても、もう、許してやらねぇ。


 俺の怒りがおさまるまで、

 とことん、『殴り合い』に付き合ってもらう。

 俺の拳ごときじゃ、お前はダメージを負わないだろう。

 だが、俺も、お前ごときの拳では、

 何千発もらっても死なないのだよ、ふふふ。


「さあ、いくぞ。ダーバンさんよぉ。絶望を数えろ」


 そう言いながら、

 俺が、にぎりしめた拳を、

 ダーバンの胸部にブチ当てようとしたところで、



「ふぇ?!」



 俺の背中から、

 ヘブンズキャノンが生えてきた。


 俺のヒョロパンチをサポートするように勢いよく飛び出して、

 ダーバンの胸部に、ズガァっと、風穴を開けてしまった。


「……ど、どぇえええ……」


 おどろく俺とは対照的(たいしょうてき)に、

 ダーバンは、静かなもので、

 白目をむいて、


「……ご、ふっ……」


 と、一度、大量に吐血すると、

 そのままバタリと倒れこんでしまった。


「あ……ぁ……」


 あまりにも唐突(とうとつ)すぎる『人を殺してしまった』という事実に呆然としていると、

 『後ろにいる酒神(さかがみ)』が、呑気(のんき)な声で、


「おお、さすがでちゅね、お兄(にぃ)。それが、噂のヘブンズキャノンでちゅか。すごいでちゅねぇ。オイちゃんのセブンスアイでも詳細が見通せないほどの力。いやぁ、ほんと――」


「んなこというとる場合か! アルブム、すぐに治してくれ! すぐにぃい!」


「オイちゃんたちは、お兄(にぃ)の冒険に手を出したらいけないんじゃないでちゅか? お兄が、そのカスに殴られた時、正直、そのカスの頭をカチ割ってやろうかと思ったんでちゅけど、お兄の言葉を思い出して、グっと我慢した、そんなオイちゃんの気持ちはどうなるんでちゅか」


「グダグダうるせぇ、黙ってろ、酒神! ――アルブム、はやく!」


「かしこまりました、セン様」


 返事をすると同時、

 アルブムは、


「欠損治癒(けっそんちゆ)ランク10」


 『存在値200ぐらいのヤツ』が使いそうな魔法で、

 ダーバンの胸部を回復させる。


「ごほっ……」


 ギリ死んではいなかったようで、

 どうにか、一命をとりとめたダーバン。


 周囲の人間が、ザワついている。

 『ダーバンを殴り倒した俺』に、

 奇異(きい)の目を向けている。


「え、あのガキ……今、なにした……?」


「まさか、あのダーバンを……一撃で倒したのか?」


「嘘だろ? ダーバンは、七つ星の英雄だぞ……」


「あっちの女も……今、ランク10の魔法を使ったか?」


「ランク10の回復魔法とか……最低でも、九つ星級の実力者ってことじゃねぇか……」


「ど、どういう連中なんだ……」



 時間とともに、

 周囲のザワザワが増していく。


 いたたまれなくなった俺は、

 ダーバンが『間違いなく生存(せいぞん)していること』を確認してから、


「最初にカラんできたの、そっちだから! 俺は悪くないからぁあ!」


 と、叫びつつ、

 逃げるようにして、

 冒険者ギルドを飛び出した。



 ★



 ある程度、離れたところで、


「ふざけんな、ちくしょう! なんで、こんなところで、ヘブンズキャノン、発動するんだよ! 3000回に1回じゃなかったのかよ!」


 と、つい、怒りを口にしてしまう。

 すると、酒神が、ヘラヘラしながら、


「3000回に1回しか発動しない力を、常時(じょうじ)、発動させることができるとは、さすが、お兄。恥ずかしげもなく『この上なく尊い命の王』を名乗るだけのことがありまちゅね」


「そんな、イカれた称号(しょうごう)を自分から名乗ったことは一度もねぇ!」


 俺は、『運』の方も『凡人』で、

 いつだって、良くも悪くもない『普通』のはずなのに、

 どうして、あんな最悪なタイミングで役満(やくまん)を引いてしまうかなぁ……


 どうせなら、『すごく強い敵』と戦っている時とかにしてくれよ、まったく……


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