第19話 人間ベルマーク
アッちゃんこと、アークデビルの部屋の前に“リサイクルボックス”ってシューターがあったの、覚えてる?
これ自体の事は、ボク、一階で準備してた時から知ってたんだよ。“リサイクルボックス”って正式名称こそ知らなかったけどね。
これだけ大勢のヒトにプレイされている
このリサイクルボックスにプレイヤーの死体を投げ入れると、引き換えに上のシューターから武器が出てくるんだよ。
さながら、人間ベルマークだ。
で、ボクが以前、カリスの剣のヘルプメッセージに“リサイクル品”って書いてあったのに言及した事も覚えてるかな?
つまりは、そう言う事。
そして、持ち主を始末した今、リーザの愛用していた弓矢剣を覗いてみた。
やっぱり“リサイクル品”だったね。
そして、対HP攻撃力はいずれも500もあったんだよ。
道理で、ギロチン部屋の人造人間とか、掩護射撃でサクサク殲滅出来てたわけだよ。
やっぱり、この攻撃力ってのも普通は武器の重さや扱いづらさに比例して高く設定されてる。
だから、こんな軽くてシンプルな剣に付加された数値としては破格だよ。
やっぱ、神剣と呼ぶに相応しかった。
さて、次の検証。
ボクは一番軽いリーザの死骸を引きずり、リサイクルボックスに放り込んだ。
すると、がちゃこん、ごとり。
戦闘用大バサミみたいなのが出てきたよ。
攻撃力を見る。
たったの126だった。
それもそのはず。
このリサイクルボックスから出てくる武器の形状と攻撃力は、捨てたヒトと捨てられたヒトとの親密度に依存するらしい。
多分、全てのプレイヤーにIDみたいなマスクデータ、あるいは隠しステータスがあるんだろうね。
さて、親密さなんてもの、どうやって計測しているのかだけど……恐らくは行動を共にした時間の長さって所だろう。
更に。
最初に説明してなかったけど、このダンジョンで活動するパーティの人数はおよそ5、6人が理想とされている。
これは、ダンジョンと言う閉鎖空間で互いに連携を乱さない為の限界数だからだ。
さて、恐らくアルフのランダム武器と、メスドワーフの爆発ハンマーに関してはリサイクル品では無いだろう。代償に対して使いづらすぎる。
カリスのパーティが元々6人だったと仮定しよう。
ボクと出会った時は4人。
6-2=? 彼女らパーティの所有していたリサイクル武器は何本だったでしょーか。
恐らくこれ、アークデビルから敗走して死者を出したパーティへのプレゼントなんだろうね。
アークデビル自体が生け贄を要求してこず、そこの無機質な箱に“自分だけの意思”で入れる形になってるのがまた、えげつないよね。
一回だけなら、アークデビルにやられたショックで気が動転していたって言い訳も、まあ通らなくもない。
いや、あんな強大な悪魔を相手に、ヒトの死体ってお荷物を背負って逃げるリスクを取った時点で、やっぱり天秤は傾いてるよ。
「どうせもう人員として使い物にならないなら、シュートしちゃおう」ってね。
あまつさえ、それが二回。
同じくらい付き合いの長い仲間を再度放り込んだのか。
あるいは、適当に拉致した野盗をそれなりの時間、監禁してから放り込んだか。
いずれにせよ、二回目ともなると、まともな人間のやる事じゃないよ。
そしてこれは何ら罪に問われない“ルールに則った行為”であることもポイントだ。
……こんなパーティに入れば、明日は我が身に違いない。
密室状態のボス部屋で何があったかなんてわからないし、もしかしたら、やむを得ない理由もあったかもしれない。
でも、ボクを含めた他人ってさ、そのヒトの“真実”なんてどうでも良いんだよ。
関り合いになると、殺されるかもしれない“事実”の方が大事なんだよね。
例え、どんな人間らしさ、意外な一面、優しさを内に秘めていたってさ。
リーザと引き換えに出てきた大バサミはボックスに突っ返した。
性能もゴミだし、例え攻撃力が999とかあっても、金輪際パーティに参加できない・パーティに誰も加入しない呪いがかかってるんじゃあ、ねえ?
代わりに何かが出てくる事もなかった。
彼女ら、誰も自分の事なんて見ていないって卑屈になってたんだろうけど、ちゃんと見られてたんだよ。
だから、ボクが来るまで誰も入らなかった。
人員不足でパーティが機能しなくなっていた。
最初のハーレムづくりが想像以上にチョロかったのも、これで得心が行ったよ。
奴ら、ホントに餓えてたんだね。ヒト恋しさに。
ヴァンパイアですらも。
身勝手すぎるよ。
でもまあ、ボクとしては別にいいんだよ。
このリサイクルボックスを活用する、それ自体は立派な戦術だ。何だかんだで、村八分になる代償はしっかり支払ってもいた。
問題は、ボクまでもが知らず知らずのうちにカリスと同じに見られつつあったこと。拠点での他パーティの態度を見ればわかった。
もう少し早くに気付いて抜けていれば……殺さずに済んだかもね。
それに。
目標ってさ、ちょっと高すぎるくらいの方が、より良い結果になるもんだと思うよ。
1000万円貯める! って決めたヒトは実際には800万くらいは貯められるでしょう。
けど、目標額が800万のヒトは、500万どまりだったり。
あるいは、世界征服! って決めたヒトは大陸くらいは平定できるかもね。
けど、一国のトップになる! 程度の目標じゃあ……ってこと。
このダンジョンで言えば。
ボクの目標は魔神王と遊ぶわけではなく“ロレンツォ”を殺す事。
いや、そもそも、そこから先も君臨者を狩り続ける使命があった。
こんなテーマパーク、通過点も通過点だよ。
けど、カリスらの目標って所詮はアークデビルどまりだったんだよね。
あのままボクが統率して、ボクが、価値のある武器引換券に熟しきる前にクリアを目指す……にはあまりに力不足だった。
一人一人の能力は素晴らしかったよ。
カリスを上回る魔法使いはついぞ、居なかった。
アルフもリーザも、何度も称賛してきた通りだ。
メスドワーフにも、見るべき所は多かった。
けど、カリス、あんたの言う通りだよ。
一人一人がどれだけ天才的でも、足並みが揃わなければ、あのダンジョンでは無意味だった。
同じ罪を共有する仲、と言えば聞こえはいいけどね……心から信じ合うなんて、無理でしよ。
そして、ここに至るまで、カリス達からボクに一切真実を明かされなかった事が、処断の決め手となった。
ボクは、ロレンツォを速やかに殺さねばならない。
それには、最上階を攻略出来るパーティに参加せねばならない。
ただ、それだけ。
このダンジョンに私情を挟むなど、言語道断。
これからボクは、疑惑のパーティで辛くも生き延びた生存者として拠点に帰る。
周りとしては、色々と想像が捗るだろうね。
でもボクの持ち物に“リサイクル品”なんて無い。
これを、積極的にアピールしていこう。
だからさ。
ボクに“真の仲間”なんて、どだい無理だって、そう思っていたよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます