第12話 インスタント絆
第3層に上がった。
廃監獄をイメージとしたデサインのフロアだ。
通路の幅は狭く、ヒトがすれ違うくらいは一応出来るかって感じで武器を振りにくい。
まあ、本来これが、屋内で戦うって事なんだけどね。
都合よく広い空間の取られていた今までの方がイレギュラーだと言うか……そう言う、リアル志向の観客のニーズに応えたフロアなのかな?
あとは、前フロアのボス“愚かしいデーモン”が普通に量産されて、多数襲ってくるって言うね。
さすがにHPだけは雑魚バージョンに抑えられてるけど、他のスペックは全く一緒。魔神王、ホントに容赦ないよね。
で、これも反復して殺すうち、難なく処理できてしまうあたり、人間の慣れってのも凄いよねって思う。
まさしく、レベルアップした気分だよ。
さて、2、3回の実戦を経て、好感度上げイベントの成果が見えてきた。
元々アタマの良いカリスはともかく、他の三名がボクの行動にいちいち疑問を挟まなくなったお陰で、かなり戦術の幅が広がっていた。
通路の前後から、いかにも「死刑・拷問、やってます」みたいなフード付き黒ローブ姿のヒトが大挙して迫ってくる。
手には、刃こぼれと皮膚病みたいにサビが浮いた処刑用大剣だの、斧だの、まあそれらしいものばかり。
こーいう“ヒト型”モンスターってどうやって作ってるんだろ? と思って一度、死体の服を剥いでみた事がある。
まあ、最低限の“ヒト型”を整えただけの、マネキンみたいな奴だったね。
人造人間、ホムンクルスとか、あのあたりなのかな。
まあ、服を剥いでみないとそれがわからない程度には、良い動きをしてくる。
ボクはまず、アルフと肩を並べて立ち塞がった。
当然、狭い地形に対応し、斧は分離して二刀流にしてある。
リーザが遅滞無く跳躍する気配を、背中に感じた。
半身を覆うタワーシールドを構え、アルフが真っ向から
ボクはその隣で、彼のタックルから逃れた個体に殴りかかる。アルフの巨体と盾に打たれた時点で、奴らの足並みは乱れている。大体は、二合程度で頭を叩き潰せてやれた。
アルフは、殊更ボクを気にしていない様子で、自分も攻撃に参加している。
だけど、ボクが「さすがに多いな」って思った時のみ、ちゃんと察してフォローしてくれる。
信頼と盲信の違いを弁えた、良い判断だと思う。
ボクの補佐でそれなりに余裕があるのか、あの変幻自在な武器でちょくちょく反撃もしている。
何か、先端が星型の、いかにもな魔法のステッキが出てきたよ。
キラキラ、ポーン★
何か、安っぽい星型の立体映像が処刑人どもに向かって飛んでって。
物凄い勢いで爆発した。
弾ける黄金の
熱っ!? 通路で逃げ場の無い熱波が、ボクの肌まで容赦なく焼いた。
爆心地では、処刑人どもの血と四肢も飛び散る。
結果、かなり殲滅できたけど……あぶねーよこれ!
あんな武器もランダムで出てくるのか……やばいね。
で、死屍累々の向こう側に巨大な影。
中ボスだろうか? 見上げる背丈で通路の大半を占拠する、大斧持ちの個体が満を持して現れた。
流石にボクの方も、斧を連結して大斧にスイッチした。
さて。
実はもう、詰んでるんだよね、キミ。
奴の背後に、リーザが着地。
それは奴も理解してて、背後のリーザと前方のボクを忙しく見比べている。
逃げ場は無いし、どちらかに構えば、もう一方の一撃をもらわざるを得ない。
で、結局はボク目掛けて、電柱もかくやという斧を振り下ろしてきた。
ボクはこれを難なく回避。
リーザが奴の頭の高さまで跳躍。
絶影の太刀筋が真っ直ぐ、抵抗無く奴の首を通過して、切り落とした。
多分、キレーな断面してそうだよ。やっぱ、速さは力だよね。
広い部屋に出た。
振り子型ギロチンが無数に往復している。
そんな中、処刑人ルックのあいつらが、嫌らしい配置で待ち構えてるわけだね。
魔法使いも結構居るらしく、ボール状に凝縮されたかのような火炎球をポンポン投げてきている。壁に着弾すると、衝撃刃を放射して破裂した。これだけでも結構な威力だな。
埒が明かないから、結局ギロチンの間を通り抜けつつ、やり合わないといけないわけだけど。
「レイさん!」
そう言って、ナターリアさんが例のスケートボード・ソードを滑らせてきた。
ボクはそれを足で受け取ると、武装を斧からチェーンソーに入れ換えた。
「君臨者、
メンバー達に怪しまれないよう、さりげなく詠唱しとく。
やっぱフョードルって“心の友”だよね。何だかんだで使いやすい。
「秘密アイテム、いってきまーす!」
ナターリアさんに手を振ってやってから、ボクはスケートを滑らせた。
そして、チェーンソーをけたたましく鳴らす。
「チェーンソーのスケーターだァ!」
アッハァ!
処刑人どもにも若干の感情はあるのか、恐らく今まで見た事も無かったであろうボクの暴挙を前に、テンパり気味になっていた。
だが、仕事はちゃんと出来るらしい。
ボク目掛け、火炎弾を次々投げつけてくる。
ブンブン野太い音で大気を抉りながら、ボクの側を無数のギロチンがすれ違う。
工事現場のクレーン車が本気で襲ってきたら、こんな感じだろうか。
何と言うか、これに対して何も恐怖を感じなくなったボクもボクで、この世界に毒されてきてるのかもね。
とにかく、処刑人どもの火炎弾や、直接斬りつけて来るのを、スムーズな弧を描きつつ回避。
奴らの死角へ一瞬で滑り込むと、チェーンソーでスッパリ斬首してゆく。
処刑人を斬首とはこれいかに。
あるいは、思い切り宙返りついでに、ボードから伸びた刃で縦割りにしてやった。
さすがドワーフの鍛えたブレードだ。接触時の抵抗も皆無でスッパリ斬れて、安全そのものだよ。
そして、見事着地!
処刑人に扮した疑似人間どもも、かなり高精度の、文字通り“人工知能”を与えられているらしいが、流石に「ブレードのついたスケボーで蹴られる」なんてケースは想定出来ていないらしく、ほとんど無抵抗だよ。
無双ってこんな感じかぁ!
フロントサイド180オーリー!
その名の通り、ジャンプしてボードと一緒に半回転する技だ。また一体、処刑人が喉を引き裂かれてもんどりうった。
後方から、リーザの掩護射撃もあって、処刑人はかなり混乱してくれている。
ボクやギロチンを悉く避けて、リーザの矢の横殴り雨が処刑人達を打ち倒していく。牽制どころか、奴らのHPがみるみる蒸発して、ポンポン爆死してゆく。
これも素直に神業だと思う。
ボクもフョードルを何度も憑依してワーキャットの知覚の鋭敏さはわかっていたつもりだけど……本物は練度も違う。
さて、仕上げだ。
ボクはチェーンソーを止め、例のトランプを取り出した。
思うんだけど、この魔法、その内使わなくなるかも。
何でかと言うと、毎回トランプを作るのがすげーめんどくさい。
ボクって、日常生活のタスクを出来るだけ減らしたいタイプなんだよね。
ま、そもそもこれ、ロマン技ですし?
そんなわけで、ボクは処刑人達にカードを大盤振る舞い。
潰れたり、引き裂かれたり、酸の滝を浴びたり……ダイヤ◆を引いた奴の身体からは白い靄が放射。
たちまち霜に包まれていく。
そこへ。
カリスの放った雷光が、凍った処刑人に伸びて爆殺。
青白い雷光と薄金色の雷光、そして砕けた氷が飛び散って入り雑じり、美しい花火になっている。
どーいう仕組みなのか、一人目を殺した雷光は別の冷凍処刑人へ向かって反射して同じように粉砕した。次のも、次のも、次のも。
ボクのトランプの◆を引いて凍ったやつだけを、次々に反射して器用に壊していく。
まるでビリヤードだね!
カリスは、言わずとも理解してくれたようだ。
ボクのトランプで生じた冷気は、この世の最低温“絶対零度”を更に下回る。
これによってあれこれ物理法則が狂って、犠牲者の電気抵抗はゼロになるわけだ。
カリスのお陰で、討ち漏らしはゼロ。
これで、このギロチン部屋は制圧出来た。
処刑完了、っと。
まあ、やっぱ“信頼”って大事だと思うよ。
さっき言ったように、お互いの行動に疑いを挟まないと言う事は、連携のレスポンスに関わる。
同じターゲットを同時に斬りつけるような連携も、お互いを信じていないと、自分に誤爆されないかビビってしまい、ままならないだろう。
だから、作れば良いんだよね。
信頼だとか絆だとかと“同質”の状況を。
仕事って、そこまでの過程がセオリーと違ってても、最後に効率よく狙った形に収まってればいいわけ。
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