この退屈な世界地図を描き変えるの! とクラスメイトが世界へ宣戦布告をした
真田しのぐ
神宮寺雪音の宣戦布告
この世界は、人類領域と人の文明が阻害される幻想領域の二つに別れている――
そしてこれはまだ、俺こと周防塔矢がリベルタス機械共和国のもみじ小学校に通っていた幼かった日の出来事だ。
もみじ小学校の社会の時間。電子黒板に映された世界地図。
クラスメイトの神宮寺雪音が電子黒板に歩み寄り、世界地図に描かれた重要な境界線に赤のばつ印を描く。
「この線、気に食わないわ!」
神宮寺雪音が気に食わないと言ったのは、世界を半分に分ける人類領域と幻想領域の境界線だった。
この境界線が明確に人類領域と幻想領域を分けている。
これは三千年以上前から確認が取れている、この世界の常識だ。
そして、この三千年は、この常識を受け入れてきた人類の歴史でもある。
その三千年を気に食わないと言った神宮寺雪音を見て、俺は思う。――何言ってんだこいつ? って。
「それに、この線とこの線とこの線も気に食わないわ!」
次に彼女が気に食わないと言ったのは、人類領域をリベルタス機械共和国が支配するリベルタス大州、アストラル教国が支配するアストラル大州、グランエバ聖帝国が支配するグランエバ大州の三つに分ける線だった。
「人類領域と幻想領域を分ける境界線、人類領域を三つに分ける線! こんな地形を無視した非効率的な線があるから世界は窮屈なのよ!」
そう言って神宮寺雪音は電子黒板を叩いた。
しかし、彼女が非難している線にも意味がある。
だから俺は机に肘をついて呆れたような声で話す。
「でも世界が分かれているからこその平穏があるんじゃないのか? 幻想領域に住む幻獣が人類領域に侵入してまで人を襲うことが少ないのは、幻想領域と人類領域の境界線を越えると弱体化するからだ。……人類が他の大州の国へ戦争を仕掛けないのも同じだろ、大州と大州を隔てる線を越えると人は弱くなる。この【境界線の法則】があるから世界は平和なんじゃないのか?」
神宮寺雪音は世界地図を見上げながら話す。
「平和? 違うわね! ただ他の大州の人々と関われないだけよ! 対話もなく、交易もなく、理解もない、争いがないだけで何の生産性もない平和なんて私は認めないわ!」
神宮寺雪音は振り返る。
黒髪短髪の彼女は力強い意志が宿った目をしていた。
不敵な笑顔を浮かべた彼女は世界へ宣戦布告をする。
「今、決めたわ! 私が大人になったらこの世界の境界線を全部取っ払って私好みにしてやるわ! つまりこの退屈な世界地図を描き変えるの!」
それは三千年以上前から続く、この世界の歴史に喧嘩を売るような発言だった。
邪魔なものはなぎ倒し、気に入らないものは力づく正してしまう。
男勝りでガキ大将のような彼女だが、言ってることは壮大だ。
そして彼女は両手を大きく広げて盛大な子供のわがままを楽しそうに宣言する。
「そして、この広い世界を面白おかしく盛り上げて、遊び尽くす旅に出るわ!」
神宮寺雪音の宣言は、無知で無謀な子供の戯言だった。
しかし彼女には、本当に世界を変えてしまいそうな何かがあった。
教室にいる同級生たちだけでなく教師まで、ただの女子小学生の神宮寺雪音に圧倒されていた。
それは俺も同じだった。
はっきり言おう……俺は世界を変えようとする神宮寺雪音のカリスマ性に惹かれていた。
そして、その後、小学校を卒業して中学二年生の時、俺は(株)冒険者ギルドを企業した。
彼女の存在がなければ、俺は冒険者ギルドなんてものを設立しなかっただろう。
(株)冒険者ギルドの経営理念『常に世界を驚かせる側でいよう』
俺こと周防塔矢が決めた、この経営理念、小学校時代の神宮寺雪音に影響されていることは間違いなかった。
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