【第14話】勇者からの提案

 まさか伝説の勇者が装備していた剣や盾、鎧など装備品一式が、酒場のマスターによって鋳造所で溶かされて調理道具に変えられていたとは······全く予想もしていなかった。だけど、今さらどうにもならない。伝説の勇者が使っていた剣や盾などは、今では鍋や包丁などに変わり果ててしまっている。それに、今回の事件の首謀者であるロンドを村の治安組織である自警団に引き渡せば、村一番美味しい、と評判の『踊る火龍亭』を潰してしまうことになる。それでは村人たちの楽しみを奪ってしまうことになる。それは世界を救う使命を持つ勇者がすることじゃない。そんなこと16歳の僕にでも分かることだ。だからといって、ロンドをこのまま許すわけにはいかない。


 僕は、土下座を続けるロンドの前でしばらく考え込んでいた。そんな僕の様子を見守っていたマルコロが口を開いた。


「オリスティン、今回の事件の首謀者はロンドだが、俺の親父も共犯者に等しい。ロンドを罰するなら俺にも責任を取らせてほしい」


 マルコロからの思わぬ言葉に、僕は驚いて彼の顔を見つめた。


「オリスティン、マルコロの親父さんと同様に今回の事件は俺の親父も関わっている。なんといっても、勇者の装備品を溶かして調理道具として鋳造したのは俺の親父だしガキだった俺も手伝ったわけだからな。だから、俺にも責任がある」


 アレンの言葉に、僕は彼の顔を見つめた。僕はさらに考えた。


 今回の事件はマルコロやアレンの協力があってこそ解決したんだ。それにこの2人は事件の当事者じゃない。この2人にも責任を負わせるなんて、僕にはできない。

 そのとき、僕の脳裏にワクワクする提案が閃いた。


「じゃあ、こうしよう。マルコロさんとアレンさんは、魔王を倒すために今後も僕と一緒に行動してほしい」


 僕の提案を耳にしたマルコロとアレンは驚いて顔を見合わせた。


「オリスティン、一緒に行くのは構わないが、質屋の俺は商人だ。俺に何ができると?」


「マルコロさんは質屋だけあって様々な武器や道具に詳しいじゃないですか。それに物知りでもある。だから、その豊富な知識を役立ててほしいんです」


「そういうことか! よし、それならオリスティンに協力しよう」


 僕からの提案にマルコロは笑顔で同意してくれた。次は、アレンだ。


「オリスティンの提案、受け入れよう。俺は鋳造で鍛えたこの筋肉で魔王討伐に貢献できるはずだ」


「ありがとう、アレンさん! 様々な武器を扱えるアレンさんがいれば心強いです!」


 アレンが快く引き受けてくれたことに対して、僕は喜びながら感謝した。その後、僕は土下座しているロンドに顔を向けた。


「ロンドさん」


「は、はい!」


「勇者の装備品を溶かして調理道具に変えてしまったことは許せないけど、もうどうにもならない」


「オリスティン、本当に申し訳ない!」


「だからといって、ロンドさんを自警団に引渡したら、村一番の美味しい料理を村人たちが食べられなくなる」


「そんなことはない。わしがいなくなっても、あの調理道具があれば誰でも美味しい料理が作れる」


「僕はそうは思わないな。ずっと前に、母さんの誕生日祝いでうちに来て料理を作ってくれたことがあったよね。あのときロンドさんは、うちの調理道具で料理を作ってくれた。あのときのロンドさんの料理、すごく美味しかったんだよ」


 僕の言葉を耳にしたロンドは、顔を上げて僕を見つめた。僕は言葉を続けた。


「ロンドさんは伝説の調理道具がなくても十分に美味しい料理が作れるんだ。そんなロンドさんを自警団に引き渡すことはできない。だから、このまま踊る火龍亭のマスターとして美味しい料理を作り続けてほしいんです」


「しかし、それでは罪滅ぼしができない」


 僕は屈むと、ロンドに顔を近づけて微笑んだ。


「その代わりに······魔王を倒すまでの間、僕たち3人の食事代を半額にしてほしいんだ」


「半額だなんて、ずっと無料でも良いくらいじゃ」


「それはダメだよ。そんなことしたら、逆に僕らが村人たちから変な目で見られるし、ロンドさんに対しても疑惑を向けられかねないよ」


 僕の提案にロンドは納得したようだった。ロンドは再び頭を下げた。


「その提案、ありがたく受け入れよう。ありがとう、オリスティン!」


「ロンドさん、これからも美味しい料理をよろしくね!」


 僕は笑顔でそう言うと立ち上がった。顔を上げたロンドの目には涙が溢れていた。マルコロやアレンもにこやかな表情を浮かべている。


 こうして、勇者の装備品が調理道具に変えられた事件は、円満に解決したのだった。



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