【第4話】これ、武器じゃない!

 長老は木箱の蓋をゆっくりと開いた。木箱の中身を早く見たい僕は、ゆっくりと蓋を開ける長老に少しばかり苛立ちを覚えた。

 長老が木箱の蓋を開けきった直後、僕や長老、使用人たちもが木箱の中身を窺った。期待に胸を膨らませていた僕は、木箱の中身を見た瞬間、期待を裏切られた気持ちになった。なぜなら、大きな木箱の中身に似つかわしくない小さな箱が入っていたからだ。その小さな箱は手のひらほどの大きさだった。


「長老、これ何ですか?」


「さて、何かのう?」


 僕は木箱内部の中央に置かれた小さな箱に触れようと手を伸ばした。次の瞬間、手を伸ばした僕の手首を長老が素早い動きで掴んだ。


「安易に触れるでない!」


 僕は驚いて長老の顔を見つめた。


「良いか、オリスティン。宝箱には常に罠が仕掛けられている、と考えるのじゃ」


「は、はい」


 長老のもっともらしい助言に対して、僕は素直に頷いた。さすが伝説の盗賊の末裔だけのことはある、と感心さえした。


「これ、この小さな箱を手にしてみなさい」


「え、私がですかぁ?」


 長老は使用人のひとりに命じた。箱を手にしてみろ、と命じられた使用人は明らかに拒絶反応を示していた。

 僕は呆れながら長老の横顔を見つめた。

 てっきり罠があるかどうかを長老自ら調べてくれると思ったら、使用人に罠があるかどうかを箱に触らせて試させるなんて! もし本当に罠があったら使用人がケガするじゃないか!

 僕は、箱を手にしてみろ、と命じられた使用人の顔を一瞥した。使用人は泣きそうな表情になっていた。


「早くせんか!」


「長老、もし罠が仕掛けられていたら······」


「もしケガをしたらアノルノ婆さんに回復魔法をかけてもらえば良いじゃろ!」


「そ、そんなあ」


「何をグズグズしておるのじゃ! 今月の給金なしでも良いのか?」


 僕は長老と使用人の顔を交互に見つめた。使用人は恐怖に怯えて今にも泣き出しそうな表情だ。一方の長老の顔は、まるで悪の魔法使いのように両目が妖しく光っていた。

 そんな長老を見ながら「このクソジジイ!」と思い少し腹が立った。


「じゃあ、僕が取ります!」


 長老と使用人のやりとりがまどろっこしく感じた僕は、木箱の中に置かれた小さな箱を素早く掴んで取り出した。僕の突然の行動に対して、長老は驚いて両目を見開き、使用人は安堵の表情を浮かべた。


「オリスティン、何ともないか?」


「はい、大丈夫です」


 僕は長老の顔を見ながら頷いてみせると、手に取った小さな箱に視線を移した。


「じゃあ、開けますよ」


 僕は小さな箱の蓋を開いた。小さな箱は鍵がかかっていないので、すぐに開いた。小さな箱を開くと、中には人差し指の長さほどの金色に輝く細い金属棒が入っていた。金色の細い金属棒の先端は針の先のように尖っている。


「これ、武器じゃない!」


 僕はさらに期待を裏切られたショックで思わず叫んだ。


「うむ、どうやらこれは爪楊枝つまようじじゃな」


「爪楊枝、ですか?」


「伝え聞くところによると、伝説の勇者は食後に必ず爪楊枝で歯の隙間を掃除していたそうじゃ。この黄金の爪楊枝は、まさしく勇者が使っていた爪楊枝じゃな」


 長老はそう説明すると、満足気になって嬉しそうに何度も頷いた。

 僕は黄金の爪楊枝を見つめながら呆然となった。


「爪楊枝で、どうやって魔王と戦えっていうんだよ······」


 僕は落胆した。

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