第38話 守護ってみたいよ
神父様から十字架を両手で持ち、祈るように言われる。
言われた通りに十字架を持って祈った。
所で、祈るって何を考えればいいんだろう?
健康になりますように?皆さんが幸せでありますように?
神社とかならわかる、現世の幸せを願う事だった筈。(ゲームで勉強した)
実際、この世界に来れたのは神様のお陰なのだと思うし、体が不自由な事を除けばとても幸せだ。
いや、体が不自由であっても、十分幸せです。
ありがとう、神様。こんな感じでいい?
たったそれだけで、十字架は少し青白く光るが、それ以上に何も起こらない。
これは、合ってるの?間違ってるの?
「初めてで十字架に願いが込める事ができただけで十分ですよ」
「そうですよ、素質が十分ありますよ、今光ったのは祈りが届いた事を意味します。
祈りは蓄積され、必要な時に使用する感じですね」
ぶっちゃければチャージ式って事ね。
後で聞いた話、チャージできる量は十字架によって変わり、高級な十字架程、沢山チャージできて強い力が発動できて、今持っているのも十分高級品らしい。
ただ、どれだけ頑張っても本人の能力限界以上は使えない、出力が限られているって事かな。
それなりに適性があるというシスターが見本として実践してくれた。
シスターは祈りの言葉を口ずさむ。
祈りの言葉はわりと短い。
『天にまします我らが神よ、古来より結びし盟約を以て我らを護り賜え』
たったこれだけで、2~3人がすっぽり収まる位の円形状で白い膜が生成されている。
外から触ろうとすると、それは堅いガラスの用な感覚がする。
成程、こんな感じのバリアなんですね。
先生からは『既存の魔法は使えないけど、聖女のそれは魔力とは別物だから大丈夫じゃね?』って言われていた。
その事が証明されて、少し気が緩んだのか、肩の力が降りた気がした。
というか、適性があるだけで十分嬉しい。
良かった。
本当に良かった。
きっと私に力を授けてくれたのは皆さんのお陰です。
ありがとう、ここに連れて来てくれた神様、色々教えてくれた教会の人、応援してくれた街の人、色々と支えてくれたお父さま、車椅子を作ってくれたクリム様、あと、なんとなくエレンにも感謝です。
これで、実際に護れるともっといいのにな。
「「あ…」」
ふと、手元を見ると赤く光る膜が十字架の周りに生成されていた。
さっき見た膜に比べるとかなり小さいけど、これは間違いなく私が作った物だ。
その中は温かく、安らぐ感じがする、これが守護の力なのだろうか。
といっても、指や手が素通りするので、機能的には発動できてない感じかな?
それとも、発動者は素通りできる様になっているとか?
「赤色、いや、深紅…!」
「深紅ですね、しかも祈りの言葉なしで、これは…」
神父様とシスターの動揺する。
中には膝を付いて祈りを捧げ始める人や、尻もちをつく人までいた。
どういう事?まさかとんでもなく悪い予兆とか言わないよね??
ゲームでこんな色出てこなかったよお??
「深紅?赤いとダメなのですか?落第ですか?清楚な白がいいんですか!?」
「落ち着いて聞いてください、深紅の守護膜は絶対守護の証です、どんな攻撃でも破られる事の無い絶対的で特別な守護力ですよ。出現例が1度だけしか無い極めて珍しい物です」
「これなら、魔道具が割れたのも納得ですわ。むしろ、魔道具も壊れて本望だった事でしょう。本部にも連絡入れましょう、深紅の聖女が現れたと」
「深紅の聖女!?」
なんだか、悪役っぽい?
特別と言われるのは悪い気はしないけど、なんだかちょっとね?
というか、魔道具の本望って何よ!?
「今日からでも修道院で修行なされませんか、既に発動まで出来ているなら短期間で成長できるでしょう」
「え、えっとぉ、お父さま、どうしたら」
それから、修道院で修行して、どのような事が出来る様になるのか教えてもらった。
膜と言っていたのは、結局の所は結界だった。
守護結界を発動した状態で食事等、日常生活が送れる様になる。これは精神的鍛練になる。
瞬時展開は必須技能らしい。その理由として、展開状態からの大きさの拡大縮小が可能なのだけど、結界の際に居る人が建物と結界にはさまれて消滅かグロイ状態になるという。
その他にも、守護結界の範囲の拡大縮小(一応禁止)に、守護結界の多重展開、術者が移動しても結界が動かない定点展開、特定の人を封じ込める反転展開、敵対者を選別し入れなくする排他展開等が出来るようになるらしい。
さらに最終形態とされるのが代謝展開で、不意打ちされても防御できるようになる。ただし、無祈展開が出来る事が条件で、それぞれに才能が必要だとか。
あと、教会や修道院に近い場所である程、その成長は早いらしい。
だが結局のところ、お父さまの許可が降りない為にその修行は見送りとなった。
その代りと言っては、屋敷の庭に女神像を設置する事を検討し、それまで卓上に置けるサイズの女神像を用意すると言って頂けた。
シスターは嬉しそうに「女神像が出来たら、私達が通うので訓練してくださいね」と言ってやる気を出す。
神父様もそうだけど、目が輝いてるんですよね。
後で聞いた話、本部から常駐者を派遣すべきだとか考えているらしい。
もしかして、そうなるとお姉さまも一緒に
いいねいいね。そうなる事を望みます!
また、一緒に暮らせるかもっ。
屋敷に戻った私は落ち着きが無かった。
自分も成長できる何かが見つかった事にテンションが上がっていた。
誰かにこの事を話したい。
そこに丁度良く、クリム様が来た。
適性について話すと、彼女も喜んでくれた。
あれ?もしかすると、歓迎したのは初めてかもしれない。
さらに、クリム様の提案でエレンにも話に行く事になった。
そうだよね、折角車椅子があるんだから、行ってもいいよね?
そこからの行動は早く、父に許可を貰ってすぐに馬車に乗り込んだ。
フレールの街まで馬車で移動して、そこから車椅子で駐屯地まで向う。
馬車で直接乗り込まないのかって?
だって、折角、車椅子があるんだし、ついでに街中見て回りたいじゃない?
話をしたい逸る気持ちと好奇心を天秤にかけて、ちょっとくらい見てまわってもいいよね?って結論に達した訳です。
フレールの街は賑わっていた。
アレノクアの街と比べて人も多い。
すれ違う人達も、私を見て特に反応はない。
私がどういう人なのか、微塵の興味も湧かないのだろう。
そんな若干の居心地の悪さを感じながら、魔具店に入った。
店内はアレノクアのと比べてとても広く、車椅子でも問題なく見て回れる。
あ、でも情緒的には、アレノクアのお店の方が好きよ?
「こんなところで買うなら、僕が作ってあげるのに」
「ありがとう、じゃあ見るだけにするね、どんな物があるのか見るだけね」
「あー、買わないなら出て行ってくれんか」
うん、やっぱり居心地悪いね。
当初の目的通り、駐屯地を目指した。
店を出てからは、私に向けられた視線が少し、ねっちょりしていて気持ち悪い。
私、何か悪い事でもしたのかな?
何だか嫌な感じがするからエレンに元へ急ぐ事にした。
駐屯地に入るとエレンと会えた喜びから、再びテンションが上がる。
「エレンー、みてみてー、車椅子貰ったよー!あとねー」
「あっ!?」
エレンにきつく睨まれて、体が硬直する。
私は嬉しさのあまりテンションを上げ過ぎて、挨拶もせずに駆けつけてしまった。
そうだ、エレンは今お仕事中なのだ。
「うぅ、ごめんなさい……」
涙が出そうになったのを堪えながら謝る。
それでも、迷惑かけたのだから、ここで泣いちゃダメだ。
踵を返して馬車に戻る事にした。
「あ、リリィ……」
「ごめんなさーい!}
「ちょっとリリィルア嬢!待って!」
泣き顔を見られたくなくて、全力で車椅子を走らせた。
景色が溶ける程の速さで走ってたのはきっと、涙目のせいだ。
婚約者だと言っても相手は王子。
先触れも無しに気軽に会いに行って良い相手ではなかった。
最近、仲良くなった気でいたから、相手の立場を考える事すらしていなかった。
そうだった、お互いに婚約者が居るという立場を利用する関係だったんだ。
改めて、自分の置かれた状況を理解した。
自惚れ、傲慢、慢心と言った言葉が脳裏をよぎる。
友達になった気でいた。
友達が増えて幸せなったつもりでいた。
そもそも私は幸せになってはいけない人間だったのに。
自分の罪深さを思い出し、気が滅入った。
そして、車椅子は停止する。
気付けば一人になっていた。
周りを見渡しても知ってる人が居ない。
そこでようやく、クリム様を置いて来た事に気付いた。
どうしようか、考えていると、路地の奥から手招きする人がいる。
「私に御用ですか?」
「リリィルア・ファーネスト様ですよね?殿下がお呼びです、こちらへどうぞ」
エレンの部下と同じ服を着た人だったから、疑う事はしなかった。
きっと私を追いかけたいけど、お仕事が忙しくて部下に連れ戻すように言ったのだと思う。
結局、私は何の警戒もせずについて行ってしまった。
それが闇組織の手先だと知らず。
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