第26話 奴隷身分だよ2
さてはて、奴隷商人の元から解放されたが、未だに奴隷身分のヒロインスミレ。
気楽に考えている様だがどこで働けるというのだろうか。
旧ロングナイト領ではとっくに噂になっていた。
青く長い髪の少女が狂って呪いをかけて回っていると。
そうなると、主人であるゼゼドにも害が及ぶ。
結果、宿を追い出され、街中を歩くだけで影口を叩かれる。
だが、意外にもゼゼドは気にしなかった。
ここがダメなら、別の場所に行けば良い。
のんびりふらふら野宿の旅でやり過ごす。
何処に腰を落ち着けるのかと、次第に不安になるスミレ。
そして偶然にもたどり着いたのは、ファーネスト家のお膝元。
そこは拡張前のファーネスト領内で最も栄えていた街だった。
その街の名はアレノクア、際立って栄えているわけではないが、人情味あふれたその街には彼女の噂は届いていなかった。
(スミレ視点)
新しい街についた。
私の噂がここには全くなかった、それどころか、すれ違う人々が私を見ている。
それはあふれ出す美貌が、可愛さが、可憐さがそうさせているのだと思う。
「美しさって罪ね……」
「寝言は寝て言うでゲス、それより姐さん、今日はこの宿屋に泊まるといいでゲスね」
そう、これまで散々断られ続けていた私達は、最早、宿屋に泊まれるというのは常識ではなくなっている。
泊まれるかチャレンジしてみようといった感覚だ。
「あのー、今日、ここに泊まりたいのですが」
「あら、歓迎するわ、何泊かしら?1泊?1カ月?1年でもいいのよ?」
なんだか、奇妙な感覚に疑問符が頭上を回転し始めた。
歓迎なんて言葉、1年以上聞いた事無いよ。
もしや、私達を罠にかけて奴隷落ちさせるつもりなんじゃ!?
って、奴隷落ちじゃ今と変わらないね。
「お代はいくらですか?私と、成人男性一人です、できたらベッドは二つ…」
「アンタなら特別に1泊500ラントでいいわ、朝夕食付きでね」
「やすい!!!本当にいいの?相場の何分の1?嬉しい、ありがとうございます!」
嬉しさの余り手を握りぴょんぴょん跳ねてしまった。
泊まれるというだけで、それほど嬉しいのは、やはりこれまでの迫害があったからだ。いくら悪評が立ったにしても、やりすぎだと思うような事が多かった。
断られるだけならいざ知らず、泥水を掛けられたり、卵をぶつけられたり、酷いときは、蹴られる事もあった。
「どういたしまして。あら、ちょっと長旅だったのかしら?だいぶ汚れてるわね、服をあげるから水浴びしてらっしゃい」
「貰えるのですか、神様過ぎる…」
タダで水浴びをさせてもらった上に、何故かピッタリの服を貰った。
しかも、女将が直々に髪を洗ってくれる。
何なの?この高待遇。
髪の毛をタオル拭いてもらいながら、話を聞いた。
話を聞くと、この青い髪はとあるお方に似ているから、皆が親切にしてくれるという。
「そのお方って、もしかしてお屋敷のお嬢様ですか?」
全くの当てずっぽうだった。
同じ髪色をした人なんて、あのお嬢様しか知らない。
実はこの街の名前も領主も何も知らなくて、あのお嬢様が同一人物と分かっていた訳ではなかった。
誘拐されたお嬢様がここの領主の娘だった事に驚愕を隠せなかった。
でも、それは何かの運命だったのかもしれない。
「そうなのですね、1年前にお会いした事あるのです、優しいお方でした」
「へえええ、羨ましいわぁ、リリィルア様は殆ど誰ともお会いしていないから、本当の姿を皆知らないのよ」
「でも、青くて長い髪と言うのだけは知ってるのですね」
「ええ、リリィルア様には姉が居て、そのお方が教えてくれるのよ、この街が未だに好景気なのもリリィルア様のお陰なのよ」
なるほど、だから親切にしてくれてるのか。
もしかすると、私の事をお忍びで来てるリリィルア様かもしれないと思ってるのかもね。
「また会いたいですね、今も近くのお屋敷に?」
「それがね、1年ほど前かしら、誘拐されて失踪したままなのよ、もしかしたら記憶喪失で放浪してるかもって領民全員が心配してるのよ」
「へ、へぇ、誘拐」
思わず声が上擦ってしまう。
ああああ、あの誘拐のあと、未だに見つかってないんだああああ。
し、知らんぷりするしかないよね、追い出されたら困るし。
「早く見つかるといいですね」
「そうね、でもみんな信じてるのよ。いつか帰って来るって。この街にはそういう神隠し伝説があるからね」
神隠しの伝説って殆どが誘拐されて帰ってこないか、魔物に襲われて殺されているかだ。でも、帰ってくるという事を信じているというのは、実際に帰って来た例があるという事。
それなら、また会えるかもしれない。
「私も、帰ってくるように神に祈りたいと思います」
「そうね、皆で祈ってれば、その声が届くわ、ありがとね」
女将さんは、まるで我が子を待つように優しい微笑みをしていた。
宿の部屋に戻り、小奇麗になった私を待っていたのは、ゼゼドだった。
これが王子様なら最高なのにね。
「姐さん、綺麗になったでゲスね」
「そうでしょ、元がいいからね」
「ここの方たちは優しいでゲスね、良い街でゲス」
「うん、私、暫くこの街で暮らしたいな」
「あ、それは無理でゲス」
なんで?どうして?
ここ良いじゃない、みんな優しいし、水浴びも無料だし、さっき飴ちゃんくれたし。
それに、朝夕ご飯もついてるのよ、あの値段は破格だよ?
「金がないんでゲス、そろそろ姐さんも稼いでほしいでゲス」
「ここなら、バイト見つけれる気がする、探してみるわ!」
「そうでゲスねぇ、アッシもそうするでゲス」
そして夕飯時、併設された食堂で女将に聞いてみた。
「バイトねぇ、月に1度の魔力ポーション作成のバイトに入れたら、結構なお金になるのだけど」
「それっていつなのですか!?」
思わず食い気味にきいてしまった。
はしたなくて恥ずかしい。
「ええっと、確か一週間後ね。それまで、この宿の手伝いでもしてみる?手伝うなら宿代タダでもいいわよ」
「良いのですか?嬉しい、女将さんまじ神!」
そんな風に良い感じになっていると、外が騒がしくなってきた。
鎧を着た人達が、ずかずかと入って来ては「居た!」と言って私を指差す。
そんな状況でも、女将はにこやかにしている。
私、何か悪い事した?捕まるの?
不安が不安を呼ぶ。
もしかすると、罠だったりするう?
やめてよお、もう牢屋はいやあ。
ひぃぃぃ。
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