第23話 アレク(先生)が頑張るよ
(アレク視点)
今、僕達は必死になって、リリィを追跡している。
先生がクマを操縦し、僕とエレンが同乗している。
一応、僕が操縦してる事にしているのは、エレンが居るからだ。
その先生との会話も小声で話さないといけない。
「(フェンリル先生、確かにこっちなのか?)」
「(ああ、魔力の残滓で分かる、間違いない、だがこの先は精霊の森だな)」
「(精霊の森だとマズイのか?」
「(ああ、もしかすると、残滓が魔物に吸収されてれて追いかけれなくなるかもしれない)」
誘拐犯の目的はルルゥだった。
リリィのベッドに置かれていた手紙がルルゥを誘拐したと明記している上に、同封された隷属の指輪(プレミアムバージョン)をエレンに身に着けろと脅している。
その上侯爵には、元ロングナイト領の自由自治の要求と、その地域への不干渉を約束しろと要求してきた。
僕達が焦っているのは、そんな要求なんかよりリリィの体調面から、また高熱を出している可能性を危惧してだった。
時は少し戻り朝食が終わった頃──
僕がリリィに会いに行くと、ルルゥが泣き崩れて見てられない状態となっていた。
そこで僕がエレンを探しに行くと、案の定エレンは街で聞き込み調査をしていた。
僕は近くに寄って耳打ちした。
「敵がリリィを誘拐したぞ」
「おおおお!敵が出たのか!」
その時のエレンの目の輝き様といったら、もう純粋な子どもでしかなかった。
屋敷に戻ってすぐにフェンリル先生と相談して後を追いかけれるか確認すると、任せろの一つ返事。
そのまま、クマに乗って森に突進したという訳だ。
「敵はそろそろ現るのか?」
「そんなすぐじゃねえよ!」
「(いや、すぐそこに見える小屋にいるみテェだぞ)」
「あ、あったあった!あの小屋みたいだ!」
「よっしゃぁ、一番のりいい!」
そういってドアを蹴破って入るエレンは光に包まれた。
爆音と共にエレンが吹き飛ぶ。
「兄上!大丈夫か!?」
エレンからの返事がない、もしかしてと思ったが、そんな事で死ぬタマではなかった。むくりと起き上がっては「あーあー」と発生し、すぐに「耳が聞こえない!」と叫んだ。
中に敵がいるのなら、爆発なんで起こす訳がない。
「(フェンリル先生!リリィがどこかに移動していない?)」
「(まって、ん-と、わかんネェ、いや、匂った!こっちだ!)」
「敵は逃げたみたいだ、先に行ってるよ!」
「ああ、俺はちょっと厄介な方を退治しとくよ」
上空を見ると、10頭ものドラゴンが降りてこようとしている。
それを一人で相手にするのかと、感心してしまう。
さて、こちらは追いかけている敵にそろそろ追いつきそうだぞ。
クマの移動が速いせいか、敵の移動速度が遅く感じた。
敵は3人、身なりの良いのがリーダー格なのだろう、先生はリリィを担いでいる一人に向かってクマパンチを繰り出す。
腕が短いクマのパンチが届く訳もなく、と思っていると、まるで大きな杭でも打ち込んだかのように、太ももの一点から勢い良く出血した。
「フェンリル先生!超かっけー!」
「そうだろう、そうだろう」
とか言ってる間に、リリィを置いて2人が逃げてしまった。
リリィを担いでいた者だけが残ったが、最早戦う意思は無さそうだ。
先生は、植物魔法でも使ったのか、蔦を敵に巻き、身動を封じた状態で担いで小屋に移動する。
その最中、先生は神妙な表情でつぶやいた。
「これはいよいよヤバいかもしれネェぞ、助からないかもしれない、ここに居るだけでもヤバイ、魔力が駄々洩れだ」
確かに服の上からでもわかる程にリリィの体は熱くなっていた。
リリィが死ぬのか、これもシナリオの強制力か……。
「先生、そんな事言わないでよ。そうだ、精霊女王ならどうにかならない!?」
「どうだろう、行ってみる価値はあるけど、入るとすぐには出れないぞ」
「僕はそれでもいい!ついて行くよ!」
時間の進行が違う事は分かっている。
だけど、一人にさせる訳にはいかないし、交渉が必要かもしれない。
それなら僕が行くしかない。
「兄上!リリィが危険な状態なんだ、精霊女王のところに連れて行く!いつ戻れるか分からないから、心配しないで!」
「わかった!ドラゴン倒したら追いかける!」
「来なくていいよ!」
ドラゴンとの戦闘中の遠巻きの会話だからどこまで伝わったか分からないけど、こっちは急いでるんだ、確認している暇はない。
敵の一人を、ドラゴンと戦闘してる付近に置き去り、さらに精霊の森の奥に進んだ。
そしてたどり着いたのは淡く光る小さな泉だ、と思った瞬間にはクマごと飛び込んでいる。
先生!余韻とかそういうの全く無いんですか。
そんな不満を抱きつつ、私達の体は泉の底に沈んで行く。
それは水の中の様でいて、溺れる訳ではなく、息が出来る。
最初は真っ暗な視界だったが、次第に明るくなる光に包まれ、やがて巨大な木と一面のお花畑の世界にたどり着いた。
この中に精霊女王が居る筈だ。
僕に見えるのかという疑問はあったけど、そこは信じるしかない。
「やっぱり見えねえんだな、しゃあネェな、ほらよ」
先生が僕の頭にかじりついた。
すると、そこら中に手のひらサイズの精霊が飛び回っている。
「すごい、こんな夢みたいな世界があるんだな」
「ああ、夢みたいだろ、これ全部精霊なんだぜ」
あまりにも現実とかけ離れた風景に、茫然として見ていると、人間の大人の女性が近寄って来る。
見た目はかなりの美人なのに服が奇抜すぎる、ワンピースに生きてる蔦を張り巡らせ、いくつか花を咲かせている。
そして半透明で巨大な羽根がついているから、彼女が精霊女王なのだろう。
「貴方は、何用でこちらに来らたのか」
「この子、リリィを助けて欲しいんだ、人間界の方では打つ手がなく、最早死を待つばかりで─」
精霊女王はリリィに手を掲げると、少し考えた。
「この者、呪いがかかっておる、しかもこの世界の呪いではないな」
「じゃあ、治らないのですか?」
「しばらく、揺り籠に入れておくが良かろう、呪いは取り払えなくとも、対抗できるほどの生命力が身に着くであろう」
精霊の揺り籠、その効果は生命力の増強。
巨木の根元にぽっかり空いた空間は大人でも入れるくらいのサイズがある。
そこにリリィを運び入れると、優しい光につつまれて宙に浮いていた。
「これで、いいのかな」
「あとは、時が解決するでしょう」
「ありがとうございます」
さて、リリィはここで養生するとして、僕は何をすれば良いのだろうか。
前日譚では語られていなかった、連れて来た側、つまりエレンが待っている間に何をしていたか。
今ここに明かされ……。
ただひたすら、精霊女王に見つめられていた。
その視線、無視する事が出来ない。
何か言ってくれればいいのに、ずっと無言だ。
「あの、僕、なにか変ですか?」
「人間を観察していたのだ、ここでは珍しいからな、ほら相方の方にも下級精霊が集まっているであろう?」
「ほんとだ、なんだか、微笑ましい雰囲気ですね」
それは、何かお伽噺の一ページを切り抜いた様な感じがした。
やっぱり、僕はリリィが良いんだ、そう改めて思った瞬間だった。
そしてふと、思いついた。
このまま1年2年とここに居れば、ルルゥとエレンが婚約するのではないか。
それはルルゥ本来のシナリオに戻る事になる。
ただ違うのは、リリィが生きている事だ。
前日譚が始まった時点でリリィが生きているとわかれば本編で婚約破棄される可能性は低い。
心の傷が無くなるのだから、それだけで回避できたと考えれるのでは?
つまりは、ルルゥとエレンは幸せになり、リリィは僕の物になる。
ふ、完璧だな。
じー。
「あの、そんなに見つめられても何も出ませんよ」
「お主の思考が面白くてな、私に気にせず続けたまえ」
全部読まれていた。
ハズカシー。
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おまけ『欲しいものはなに?』
リリィの場合
リリィ「ふわっとスカートが広がるドレス!」
ルルゥ「クリノリンドレスかな?長時間立ってられるようになったらね」
エレン「無理じゃんwww」
ルルゥの場合
ルルゥ「巨大なクマの縫いぐるみかしら」
リリィ「おそろいだね!」
レニ 「私も私も!」
アレクの場合
アレク「なんだろう、愛かな」
エレン「くっさっ」
リリィ「おませさん」
ルルゥ「年相応の願いにしなさいよ」
エレンの場合
エレン「超強い敵!」
アレク「魔王でも倒してこい」
エレン「そんなのが居るのか!?どこだ!連れてこい!」
レニ 「素敵……」
リリィ・ルルゥ「(ドン引き)」
レニの場合
レニ 「王子様!」
リリィ「(アレク、ほら、呼んでるよ)」
アレク「(僕じゃないでしょ、エレン呼んでるよ)」
エレン「は?俺は物じゃないぞ」
リリィ・ルルゥ・アレク「(ドン引き)」
レニ 「素敵……」
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