第5話 イベント対策しようよ(できなかったよ)
日を改めて、またアレクセント殿下が私の部屋に来た。
またしても二人きりで話がしたいと言うと、お姉さまは上機嫌で部屋を後にする。
「それで、アレクセント様」
「二人の時はアレクでいいよ、口調も崩して大丈夫」
「じゃあアレク、私の事はリリィって呼んでね。あれ?どうかしたの?」
「ああ、いや、ちょっと名前を呼ばれて、て、照れただけだ。気にしないで続けて」
いや、あんたが呼べって言ったんじゃない。
「じゃあ本題だけど前日譚の事で─」
前日譚の最初期の重要なイベントに『精霊災害』という物があった。
隣にあるロングナイト領主の横暴によって付近一帯が呪われるというもの。
呪いによって土地の魔力が全て枯渇、木々は枯れ、農地は荒れて農作物が育たなくなり、岩の雨が降り家々は破壊され、領都は毒の沼に沈むという、およそこの世の地獄のような状態となる。
その被害はファーネスト領の半分にまで及ぶという、はた迷惑なイベントだ。
そのイベントが起こるのは2年半くらい先になるけど、その時になって慌てては遅い。
これをクリアする為には精霊の怒りを鎮めるか、事前にその障害となるロングナイト侯爵(階位は公爵の下、伯爵の上)の悪事を暴き排除する必要がある。
ファーネスト領とロングナイト領の間には、精霊の森という広大な森がある。
お互いの領土内に分けて収め、不可侵としとしていたが、それは先代の約束だと言ってロングナイト側が開拓した。
その開拓は前日譚の10年前から始まっているとあったので、今も行われているという事になる。
「ふむ、そういう事情だったのか。俺様は開拓されたあたりに棲んでいたんだがよ、そりゃあ酷いもんだったぜ、このままじゃ精霊の怒りは間違いなく起こるぜ」
「フェンリル先生…」
「じゃあ、そういう事だから、王家の権限でサクッと解決できない?」
「いやいや、僕に何を求めてるの。そんなのできないよ」
「でもロングナイト領主のやってる事、かなりアウトだよ?不当な税金の引き上げ、闇奴隷市場の開催、婚約した令嬢の監禁暴行、禁呪の研究、精霊の森開拓を入れて5大悪事ね」
アレクは少し悩むが、あまりいいアイデアが出ない様で、申し訳なさそうな表情をする。
「表立って判明するのって、税金と開拓くらいでしょ?手を出しづらいなぁ」
「でもこれ、ゲーム中じゃルルゥと第四王子で解決するのよ?そこで初めて出会うのだけど、回避したくなるでしょ?」
「そうだねえ、前日譚が始まる前に解決してしまえば、シナリオ改変に繋がるな。検証する価値はあるね、それでゲーム上はどうやって解決するの?」
「………」
「もしかして、忘れたとか言わないよね…?えー?ポンコツかよ!まじかぁ…」
「えへへぇ、ごめんなさい」
だって、ノベルゲームって周回する時に一度読んだ文章ってスキップするでしょ?
このイベントって序盤に一回だけクリアする物だから、他のイベントに埋もれて忘れちゃうのよ。
「精霊の森かぁ、あそこな、奥の方に小さな泉があって、そこから精霊界に行くって話があるんだよ」
「精霊界!?何それ行きたい!精霊に会えそう」
「いやいや、やめとけ、浦島太郎になるぞ」
「うげー、そんな設定なの?そんな所、誰が好んで行くのよ」
「それがね、呪いで意識が戻らない
「何の為に?」
「精霊女王に会って治してもらう為に行くんだよ、戻ったら1年経過してたよ」
本編の知識がない事が悔やまれる。
呪いをかけるのはきっと
治療だけの為に時間を無駄にするのって何か勿体ないよね、治療中って第四王子何してたんだろ?
リアル1年が経過する間、食っちゃ寝生活?
うーん、今の私の生活とあまり変わらないなぁ。
「そうそう、ちょっと気になっていたんだけど、ちょっとデリケートな質問していいかい?」
「うーん、いいよ?」
「トイレってどうしてるの?部屋から出れないって言ってたけど、ここトイレ無いよね」
「あ、あー……」
ほんっとーにデリカシーの無い質問をしてきた。
ありえない、ほんと、ありえない!
「ま、魔道具です、それ以上は秘密です」
「え~?教えてよ、ほんと気にになるんだ」
「だめ、絶対教えない!}
その魔道具『レストパンツ』ですが、排泄物を出しそうになるタイミングで消滅させる物で、問題はその形状。
下着のような形をしてれば良いのですが、そこまでコンパクトには出来なかったのか、オムツその物にしか見えない。
そんなの言える訳がないでしょ!
これ、かなり高いそうなんだけど、おへその下に貼るだけのタイプ『レストシール』が冒険者には人気で、私もそれが良いんだけど、今のよりかなり高い上に寿命が短いのがネックなのよね。
「じゃあ、湯あみはどうしてるの?」
「それは使い捨て魔晶使って…それ以上は内緒!」
魔属水晶、通称魔晶は魔法を封じ込めて好きな時に誰でも発動できる便利な使い捨てアイテム。
比較的お安くて便利なので冒険者にも大人気だが、毎日使うとなるとそれなりの負担になる。
湯あみの代わりになる『リフレッシュ』魔法が封じられた魔晶、製品名『紅花Ⅳ』を愛用してる。
ああ、よくよく考えれば、私ってほんと金食い虫よね。
「けーち、けーち、て、痛い痛い」
「もう、知らない!」
五月蠅い殿下にはクマの腕を振り回し、ポカポカと攻撃しつつシーツに包まり不貞寝した。
その少し後に、背後からもぞもぞとシーツに潜り込む感じがした。
いつもの様に先生が入って来たのかと思った。
抱きながら寝るとモフモフが気持ちいいから癖になっている。
そんな甘えん坊の先生を抱きしめようと振り返ると、ありえない状況になっていた。
「ねぇ、どうして殿下がベッドに潜り込んできてるの、モラルないの?」
「誘われたのかと思ってさ」
「なわけないでしょ!」
「あ……、あんたたち何してるのよ」
いつのまにかお姉さまが部屋に入って来てた。
アレクは首根っこ掴まれたまま引きずられて退場、その後、正座で説教となりましたとさ。
王族に説教ってすごいね。
さすが公爵家の娘。
この時、精霊災害はまだ年単位で余裕があると思って、対応を棚上げ。
そのまま忘れてしまった。
◇ ◇ ◇
(国王視点)
一方、その頃の王都はとても騒がしかった。
「陛下!ドラゴンが!ドラゴンが城下に降り立ちました!街への被害が甚大です!」
「魔法兵団は何をやっている!?」
「それが、魔力切れを起こして、もう攻撃できません!」
「ええい、役立たずが!生徒も動員して、どうにか撃退せよ!」
「はっ!」
突如、王都上空に現れたドラゴンがついに街に降り立った。
どうやら、精霊の森近くの山岳地帯から飛んできた様だ。
あのあたりには昔からドラゴンの目撃情報が相次いでいる、それを統べるのは天竜とも呼ばれるホワイトドラゴンという事は伝承にあった。
今回現れたのがグリーンドラゴンだから、まだ討伐可能なレベルだが、ホワイトドラゴンでなくてもブラックドラゴンが来たら我々ではどうにもならないだろう。
魔法兵団がもっと活躍するには、魔力ポーションが必要だ。
今回、たまたま在庫が少なかったせいで、残念な有様になったが、次、同じ事を繰り返さない為にも在庫を確保しなくてはならないな。
だが、早急に在庫確保を進めると、冒険者どもの不評を買ってしまう。
困った、本当に困ったな、ああ、ホントこんな時に英雄とか現れないかなぁ、漫画なら絶対現れるのに…。
「陛下!!!!」
「今度はなんだ!」
「第四王子が、エレンラント第四王子殿下がドラゴンを討伐しました!」
「おおお!でかした!宴じゃ!盛大な宴を開くぞ!宴!宴!宴の始まりじゃあああ!(半狂乱)」
それから王都では、ドラゴン討伐を馬鹿みたいに盛大に祝った。
それは第四王子という英雄の出現、ドラゴンスレイヤーの称号を授かった少年を祝っていたが、その者はまだ8歳と若すぎた。
後にドラゴンがなぜ王都に来たのか、その謎を解明する為、第四王子を筆頭とした調査団が精霊の森の奥地に向かう事となる。
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登場人物紹介
・エレンラント・グレイスラント(第四王子、前王妃の最後の子) 8歳
この国唯一のドラゴンスレイヤーで、素手で倒す事も出来る。手加減が苦手。性格は良くも悪くも子どもで戦う事しか頭にない。
・オーディウム・グレイスラント(国王)
中肉中背、威厳はそこそこあるが、経済、軍事面においては素人、優しい人格者。派閥争いに頭を痛めている。そして王には誰にも言えない秘密があった。
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