17.気持ち悪いタイプのゴブリン

 ダンジョンの暗い通路を松明が照らす。

 シュシュミラが灯りをもって先導し、その後ろをハイドラとティガがひけ腰でついていく。


 「それで? 欲しいアイテムってのはどこにいけばあるのさ?」


 先頭をずんずん歩いていくシュシュミラが後ろのハイドラに聞いた。

 ハイドラは鞄からダンジョンマップや出現モンスターが書かれた資料一式を取り出してシュシュミラの側へ寄った。


 シュシュミラが松明の灯りを近づける。

 資料をぱらぱらめくってボスモンスターの記述があるページを広げた。


 「あった。こいつよ。こいつが持っている秘薬がほしいの」

 「なになに? ボスモンスター、レッドオーク? ふーん。で、こいつはどこにいるのさ?」


 「この資料によるとボスモンスターには二種類いるのよ。拠点防衛型と徘徊型。前者は特定の場所にとどまり侵入者がいればこれを排除しようとする。大抵はダンジョンの一番深い層にいるの。後者はダンジョン中を徘徊しているわ。レッドオークは後者。だからいきなり目の前に現れる可能性も0じゃないから気をつけなさい」


 「えー。それって逆を言えばどれだけ探しても見つからない可能性もあるってことじゃん。めんどくさー」


 「仕方ないでしょ。それでも探さないことには話がはじまらないのよ」


 「お前ら声大きいよ。モンスターに聞かれてたらどうすんだよ」


 最後尾のティガが小声で注意してくる。

 ハイドラの服の端を掴んでひょこひょこついてきていた。


 「ちょっと歩きにくいんだけど? なによ冒険者志望のくせに怖いわけ?」

 「ここここここ怖くなんてねえし。というかハイドラこそビビってんじゃねえのか?」

 「わわわわ私が、この私がビビるわけないでしょ適当なこと言わないでちょうだい」


 「いや二人とも声うわずってるじゃん」

 シュシュミラが白けた目で二人を見る。


 「というかあんたはなんでそんな平気な顔してるのよ。ここダンジョンよ。次の角曲がったらモンスターがいてもおかしくないのよ?」


 「別に。人間と違ってモンスターは殺していいんでしょ? だったら怖がる必要ないよ。ボクはダンジョンより町を歩くほうが怖い。」


 平然とそんなことを言うシュシュミラ。

 二人は唖然とする。


 「難儀なやつね」

 「オレはモンスターよりお前が怖いよ」


 3人はどんどんダンジョンの奥へと進んでいく。

 洞窟内の道幅は狭く二人すれ違えるかどうかといった程度だ。

 時折分かれ道が出てきてはマップをチェックし行き止まりを避けて進んでいく。

 マップには都度曲がった方に印をつけて迷わないようにした。


 いつの間にかシュシュミラが先頭で歩き、ティガがマップを確認しつつ後に続き、最後尾をハイドラが後方警戒しながら進む陣形が出来上がっていた。

 ティガが真ん中なのは前も後ろも怖がったからだ。


 本来であれば前衛職となるティガが先頭を歩き、魔法使いである後衛のシュシュミラは最後尾をついていくのがセオリーなのだが、彼らが冒険者のいろはを知る由もない。

 ただの度胸順だった。


 そうして子一時間ほど歩いただろうか。

 思っていたよりもダンジョン内は静かで自然の洞窟となんら変わりはない。

 モンスターには一度も遭遇せず、3人の警戒心が薄れてきたころそれは起きた。


 ぴちょん。


 ティガの肩に上から水滴が落ちてきたのだ。

 「あん? なんだ? 雨水でも染みてきてんのか?」


 思わず立ち止まるティガ。

 肩に手をやると、その水滴がどうにも生暖かいし粘度がある。


 「なんだこりゃ?」

 ティガが上を見上げるとそれはいた。


 洞窟の天井にコウモリのように逆さまになって三人を見下ろす緑色のモンスター。

 ゴブリンだ。


 「「「ぎゃあああああああああ!?」」」


 三人の絶叫。それが戦闘開始の合図となった。

 ゴブリンがティガめがけて落ちてくる。


 武器を抜く間もなかった。というか武器を持っていることすら忘れた。

 ゴブリンはティガの頭にしがみつくとそのまま噛み付いた。


 「いだだだだだだだっ!?」


 ティガは半狂乱になって暴れる。

 ゴブリンは振り回されつつも噛み付いたまま離さない。


 少し小突かれただけでも泣いてしまうティガだ。

 これに耐えられるわけがなかった。

 あっという間に表情が歪み涙がぽろぽろと溢れてくる。


 「ぐずぐず」


 ポンッと間の抜けた音とともにティガの魔法が解け子どもの姿に戻ってしまう。


 ゴブリンは噛み付いていた頭がいきなり小さくなったことに驚いたのか、ホールドを解いて後方へ飛び退いた。


 「グルルルル……」

 ゴブリンの低いうなり声。


 全身緑色の人型のモンスター。

 小柄でその体長は子ども姿のティガと同じくらいか。

 頭部が異様に大きく各パーツも相応に大きい。

 長く尖った耳と鼻。まぶたのない両目がぎょろりとこちらを向く。

 手足は細く枯れ木のようだが下腹が出ており餓鬼のようだ。


 「この!」

 最初に反応できたのはハイドラだった。弓を構え間髪いれずに射る。


 「グゴガア!」


 ゴブリンは跳躍し矢を回避。

 そのまま壁に張り付いて天井に這い上がる。

 

 「ゴキブリみたいに逃げ回るんじゃないわよ」

 ハイドラは続けて矢を放つがゴブリンには当たらない。

 壁や天井を使って移動する三次元的な軌道に狙いをつけ辛いのだ。


 「なにやってんのさ。ハイドラのへたくそ!」

 「うっさいわね。こう素早く動かれたんじゃ狙いが定まらないのよ」


 上へ下へ動き回るゴブリン。

 見かねたシュシュミラが前へ出る。


 「ボクがやる。モンスターなんて燃やしてやれば――ひゃーーーー!?」


 呪文を唱え終わる前にゴブリンが突進。

 シュシュミラの胸に飛びついた。


 「離して! 離してよー!」

 「グギャヒャヒャヒャ」

 ゴブリンの長い舌がシュシュミラの頬を舐めようと伸びる。


 そこへハイドラのハイキックがゴブリンの頭部を捉える。

 「離れなさいこの変態!」


 ハイドラとゴブリンの体格差は大人と子どもだ。

 頭を思い切り蹴り飛ばされたゴブリンはボールのように地面を跳ねて転がった。


 「ハイドラありがとー!」

 「いいから。早く魔法であいつ倒して」

 「了解。今度こそ!」


 シュシュミラが両手を前に突き出し、呪文を唱える。

 同時にゴブリンが起き上がり――。


 「グギャギャギャギャァ!」

 突然狂ったように叫び出した。


 「なんだー!?」

 小柄な体格もあいまってまるで子どもが大声で駄々をこねるようなその絶叫にハイドラもシュシュミラも固まった。


 唾を飛ばし、血走った目で虚空に怒鳴るゴブリン。

 すると洞窟の奥から呼応するように獣のうなり声が聞こえだした。


 「なんなの?」


 うなり声は一つや二つではない。

 それがどんどん近づいてくるのが分かる。


 洞窟の奥。

 松明の灯りが届かない暗闇の中に無数に光が見えた。


 それらはすべてゴブリンの目玉。

 壁にも天井にもびっしり張り付いたゴブリンの群れだった。

 

 「「仲間を呼んだー!」」


 シュシュミラが一目散に逃げ出した。

 ハイドラもベソをかいて役に立たないティガの首根っこを掴んで走り出した。


 ティガは子どもの姿に戻った際に荷物を全て落としていた。

 それを拾う余裕はなく3人は大混乱のまま逃げてしまった。


 ティガはかろうじて肩に引っかかっていた肌着以外の装備を全てロスト。

 その中にはここまでの道順を記したマップも含まれていた。

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