第18話 組み立て - perspective C-1

 トラックは大河原飛行場の入り口に着いた。土手へ上る傾斜の向かいに事務所がある。もちろん今は誰もいない。吉田は助手席の加藤に言った。

「入り口のチェーン、外してもらえるかな。これ鍵」

「がってん」

 加藤は助手席から滑り降り、ヘッドライトに照らされる入り口に近づく。チェーンにつけられた錠前を外す。じゃらじゃらとチェーンが外され脇へよけられた。手招きする加藤の合図に従って吉田はトラックをゆっくり進めた。トラックは土手を上り、ここで加藤を待つ。

「カズさん、お待たせ」

 加藤が乗り込み、トラックは反対側の傾斜路を下る。土手の下の道は未舗装の砂利道だ。ところどころ凹んでいるところがあり、そういうところを通過すると大きく揺れて機体を痛めてしまうかもしれない。吉田は慎重に進路を選びながら、しばしトラックを西側へ進めていった。800m位進んだところで、左の道ばたに見落としそうな小さな看板がある。これが飛行場への入り口を示す。看板に続く左への道を折れると舗装された50メートル四方の場所がある。トラックと乗用車は更に奥に進み、右折してまた西側へ進行方向を向けると、草地の中央に細い滑走路が見える。吉田はトラックを止めず、さらに滑走路に沿って進み西端まで移動した。今日は東風になるだろう。ほとんど吹かないかもしれないが。中川の乗用車もトラックに続く。2台は滑走路の先に停車した。


 吉田はトラックのエンジンを止め、運転席から降りて風を感じた。といってもほとんど吹いていない。空には星が燦然と輝き月は見えない。雲は無い。これは予報通りになるか・・・と、ぼんやり考えた。今日はきっちり終わらせたい。前回のような急に降ってくる雨はこりごりだ。さて、時間通り付いたけど西村もまた来ていないしどうするかな。


* * *


 乗用車から降りた中川が近づいてきて、吉田に尋ねる。

「今日は東風ですか?天気はばっちりですね」

 中川の確認は鋭い。さっきは風弱そう、と言っていたけど天気図も確認したのだろう。

「う~ん、たぶんね。朝はあまり風が無い見込みだけどたぶん日本海側の低気圧の引き込みと逆にながれる気流の影響がでるかな」

「じゃあここで組み立てですね」

 中川の確認で吉田は腹を決めた。様子見の必要も無い。

「よし、それじゃ下ろすか。ちょっとトラック位置調整するから離れて」

 吉田はトラックに乗り込みエンジンを始動した。機体を下ろした先が滑走路に近いよう、またテストフライトで車両が邪魔にならないような場所を考えている。トラックを滑走路へ寄せるように動かし、滑走路外の草地に滑走路と平行になるようにした上で滑走路端の10m先に止めた。トラックが止まったのを確認した中川は乗用車の向きを変え、ライトがトラックの後部を照らすように動かした。


02:04

 吉田と加藤はトラックから降りた。さっきのように何となくではなく荷下ろしをするためだから動きははっきりしている。まずは翼箱を荷台に固定しているラッシングベルトを緩めていく。それが終わったら、二人はトラックの横板のロックを外し開放する。荷台にはテストフライトで使用する脚立などいくつかの補助器具が乗せられている。二人はそれらを引き出し、トラック脇に積み上げた。

 それが終わると加藤は翼箱の下から4mはある金属の板を引き出した。もう一本を吉田が引き出す。これは箱を下ろすためのスロープになる。加藤と吉田は板を荷台に引っかけ、手際よくスロープの下に脚立を滑り込ませた。脚立はスロープの途中の支えになるのである。

 乗用車の4人も集まっている。吉田はウインチを手に言った。

「それでは箱を下ろします。加藤の指示に従って、ゆっくりお願いします」

 荷台の前方によじ登った吉田はウインチを取り付け、加藤に合図した。

「それでは翼箱、動きます。せーの」

 加藤は合図をして、翼箱の側面で押し出した。ゆっくりと箱が動き出した。同時にカ、カ、カ、とウインチのラチェット音もする。

「ウインチで吊っているけど、すぐ止められるよう箱の前で監視して。あと車輪の向き。ああ、立つのは正面じゃ無い。進行方向は避けて」

 加藤が続ける。

 翼箱は頭を下げてゆっくりと降りてきて、そのまま草地に降りきった。加藤はウインチのフックをアイから外し荷台に載せた。吉田はウインチを巻き上げる。

「あっという間だな」

と、吉田は独りごちた。

「じゃあスロープを掛け替えるよ。」

 加藤の指示で、残りのメンバーはスロープをもう一つの箱の車輪に合わせて再調整した。

「カズさん、次の箱いけるよ?」

「じゃあお願いします・・・ちょっと待って」

 ポケットに入れたスマホが振動している。電話を取ると後輩の西村の声がした。

「吉田先輩?今到着しました。」

「ああ、入り口についた。分かった。中川さんに迎えに行ってもらう。」

 乗用車を回すしかない。迎えの担当は中川さんしかいない。

「中川さん、西村が入り口まで着いたらしい。鍵を開けてもらえるかな。下ろすのは残りの人で大丈夫だと思う。」

「分かりました。荷物下ろしてから、行ってきます。藍ちゃん、ちょっときて」

 乗用車へ向かって歩きながら中川が言った。

「吉田先輩、車がいなくなったときの灯り、忘れているわ」

「ですね。LEDのあれですね」

「そう、投光器」

 中川と榎本は乗用車を滑走路端に移動させ、載せていた荷物をおろした。そのあと、中川の乗用車は滑走路入り口へ向かって走って行った。あたりは真っ暗になったが、榎本はスマホの懐中電灯を頼りに投光器の入った箱を見つけ、中から二つ取り出して点灯チェックした。問題ない。

 トラック側は灯りがなくなり真っ暗だ。星々の輝きが一層際立ったが、吉田にすれば中川の気遣いに感謝しかない。榎本の持ってきたLED投光器のスイッチを入れるとトラックが再び照らし出された。

「それじゃ、作業再開だ」

 トラック組は箱を下ろす作業に戻った。


* * *

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