北海道編 第2話 登山
自然の恐ろしさは体験する人にしかわからない事だ。どんなに対策しても、訓練しても、計画を立てても、何にも意味がない。何故なら今俺がそれを経験しているからだ。
俺は北海道陸軍元帥の源田涼。そしてその隣にいるのが知事であり、俺の叔父である源田努。叔父はもう80手前ではあるが未だに元気で趣味の山登りもお手のものだ。今日は休みということもあり、釧路市の山の中で鹿狩りをしていた。昨日が大雪ということもあってか大量の雪で足が取られそうになりながらも山頂を目指して歩いている。周りの景色は言葉が出ないほど幻想的で木の鮮やかな緑と真っ白な雪、上を見上げたらその間に日が差し込んでいた。そんな景色に見惚れていたら
「こら、真っ直ぐ見て歩かんか」
と叔父に注意された。
「確かに見惚れるのはわかるが、ここは自然だ。いつ事故が起こるか分からんぞ」
私はその声で冷静さを取り戻し、再び歩き始めた。生憎ほぼ、毎日札幌で事務をしているからこそ、その景色が新鮮そのものだったのだ。
今思えばその時点から異変があったと叔父に言うべきだった。登っている最中に何か大きな音が聞こえていたのだが、俺は生まれながらにして言葉を発することが苦手で頑張れば、話せるが緊張しすぎて何も出ないのがほとんどだ。そんなこともあり俺はただただ叔父の背中を追っていた。
そうこうしている内に、目の前に木々の間から強烈な光を目の当たりにしたのだ。
「もう少しで山頂だ、涼。辺りが少しずつ明るくなってきたぞ。」
俺もその光を目指して登り、ついに山頂が目の前に迫っていた。私は日頃の体力をフル稼働させ、そして、、、、、、
「よっこいしょっと。、、、うし、着いたぞーー!」
俺が叔父の隣に行くとそこにはとんでもないほどの絶景が広がっていた。上にはギンギンに輝く太陽。その下には多くの山脈が連なっていて、ここまでの疲れを全て吹き飛ばしてくれた。俺はそれに目を奪われていると
「これが俺らが生まれ育った地元。北海道の大自然だ。綺麗だろ」
その言葉に大きく頷いき、白い吐息を吐いた。
「そうか、ならお前をここに連れてこれて正解だったわ」
その後2人で景色を眺めていると、
「その、実はお前に伝えなちゃならないことがあるんだ」
景色を十分満喫した俺は叔父の目を見た。真っ直ぐで曇りのない目を。
「お前も分かるとは思うが、わしは今年で80歳になる。だから、儂もそれを区切りにこの知事の職を降りようと思う。」
俺はそこまで驚かなかった。なにせ、その年で知事という忙しい職業をするのには限界であったからだ。それで終わりかなと思った次の瞬間、叔父から衝撃的な言葉が発せられた。
「だから、儂の後任としてお前に次の知事をやってもらいたいんだ」
危なかった。あまりにも衝撃的過ぎて足を滑りそうになったのだ。俺は脳みそが雪のように真っ白になりながら、口を半開きしていた。それを見かねた叔父は、
「そこまで驚かなくていい。お前は多分"なんで自分みたいな喋るのが苦手な奴がトップになるんだ。もっと他に適任がいるだろ。"と思っている顔だな。、、、安心しろ。お前は自分が思っているほど小さい男じゃない。相手のことを誰よりも思い、責任感があり、そして人々を導く力がある。そんなことできるのは、涼!お前しかいないんだ」
流石の私もつい言葉が出てしまった。
「、、、、、でも、俺なんかにそんな大役、、、出来るのか、、、分からんよ、、」
そう言い終わると、叔父は私の肩に手を置いて、
「大丈夫だ。なに、1人でやれと誰が言ったんだ?、、そんな時には仲間を頼れ。言葉が無くても行動に移せ。そうすればきっとみんなお前に着いてくるから」
最後に叔父はこう言った。
「俺たち先祖から守ってきたこの美しき大自然。、、それを残していってくれよ、、」
全てを言い終わった叔父は、真っ直ぐで嬉しそうな顔をしながら下山し始めた。だが、俺はそんな顔なんてできるわけがない、、、
不安で、体が押しつぶされそうだった。俺なんかが本当にできるのか。そう下を見ながら、歩いていると再び大きな地鳴りがした。しかもその音は俺たちにどんどん近づいてきているのだ。叔父が声を上げようとしたが遅かった。後ろを見ると大きくな雪の津波が襲いかかってきたのだ。、、、
そう、俺は雪崩に巻き込まれてしまった。
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