第30話 謎が謎を呼んだようだが、解明される日は遠そうである

 どうしよう、やっぱり様子がおかしいわ。なんだかそわそわして目が左右に泳いでるし、熱はないのに顔が赤いし。なぜか時々私のことをチラッと見てあわあわしてるし。


 ……もしや、なにか特殊な病気かしら?


 私は錬金術師の額に手を当てたまま「うーん」と頭を悩ませた。……実は私は賢者のくせに人間の病気にはあまり詳しくないのである。どちらかと言うと薬に関してなら錬金術師の方が詳しそうだ。


 ーーーーよし、元気はありそうだしきっと自分でなんとかするだろう!


 私は放置することにして錬金術師の額から手を離そうとしたのだが……なぜかその手を錬金術師に掴まれてしまったのだ。


「……ま、まって……!」


「え」


 真っ赤に染まった紅色の瞳が真っ直ぐに私を見つめる。そして、その瞳に刻まれた錬成陣が光った気がした。


『ぴ?!ぴぎぃっ……!!』


 さっきまで私に叱られてしょんぼりしていたアンバーが慌てて錬金術師に突進しようとした瞬間。




「セクハラは禁止だよ、この馬鹿弟子ぃ!」


「ごふぉっ?!」



 錬金術師の頭上に突然裂け目が現れてその中から白衣を着た人物が出てきたかと思ったら、なんと錬金術師に踵落としをキメたのである。


「え?へ?なに?」


 流石の私もこれにはかなり驚いてしまった。魔法にしたってこんな空中に裂け目を作る魔法なんて知らないし、寸前まで何の気配もしなかったのだ。


 白衣の人物はそのまま倒れてしまった錬金術師を踵で踏みつけながら「育て方を間違えたかな」と肩を竦めている。その顔は分厚い眼鏡で隠れていてよくわからないが怒りや呆れたような感情が見え隠れしているように思えた。そしてボサボサの黒髪をかきあげてため息をつくと、私に顔を向けると「君、大丈夫かい?」と声をかけてきた。


「へ?えっと、はい。大丈夫ですけど……逆にその人は大丈夫なんですか?」


 そう言って白衣の人物が踏みつけている錬金術師を指差す。なんか、顔面が地面にめり込んでるんだけど……。


「ん?あぁ、へーきへーき。こんなの修行時代には日常茶飯事だったし、これくらいで死ぬような軟弱な弟子を持った覚えはないよ」


「……そ、そうですか」


 弟子?ってことは、この人はこの錬金術師の師匠的な人ってことでいいのかしら?確かに強そうな感じはするけれど……なぜ白衣?というか、この状態が日常茶飯事な修行って一体どんなことをしていたのだろう。


「さて、どうしたものか。馬鹿弟子のマントが外された気配を感じたから様子を見に来たらとんでもない現場を目撃してしまうとは……。ところでそこの君、こいつの目を見ちゃった?」


「えっ?あ、はい……。見ました、けど……」


 分厚い眼鏡がギラリと光を反射させて私を射抜くようにこちらを向いた。なんとなくよろしくない雰囲気をヒシヒシと感じてしまう。ーーーーこの人、どんな魔物よりも強い気がする。


 思わず身構えるとアンバーが急いで私の肩に登ってくる。アンバーも何か察知しているのか白衣の人に向かって牙を剥いていた。


「そっかぁ、見ちゃったかぁ……。うーん、どうしたものかな。ーーーーまったくヴィーの奴、この世界にはボクを上回る力を持つ者はいないって自信満々に言ってたくせに覚えてろよ。後でお仕置き決定だね。それにしても#あいつら__・・・・__#にバレちゃったかなぁ……あー、もうめんどくさい」


 そして頭を抱えるように何かを呟くと大きくため息をつき……私に手を差し出した。




「ボクの名はユーキ。これでもちょっと訳ありなんで、申し訳ないけど弟子共々しばらくやっかいになるよ」


「へっ?!」


『ぴぎぃ?!』


「よろー」


 驚いている間に握手をされ、どうやら交渉成立されてしまったらしい。


 こうして謎の白衣の人物……ユーキさんが一緒に行動することになったのだが……結局この人は何者なんだろうか???










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