第16話 人魚のお悩みは根本的な問題だ

「えぇ?婚活相手を探してるですって?」


 まさかの結婚相談に、そんなことのために水溜りに引きずり込まれたのかと思うとため息混じりになってしまうのだった。








 ***








 あれから風魔法を使い温めた風で服を乾かしアンバーとフラムの手をきれいに拭いていたら、露出狂人魚が『話を聞いてくださいぃぃぃ!』と私に飛び掛かってきた。するとフラムが『ふぁいあーっ!』と言いつけどおり炎を吐いて人魚をこんがり丸焼けにする。フラムはお約束が守れるとっても良い子だ!


『ううぅ、ひ、酷いぃぃぃ……。ひぃっ?!ドラゴン怖いぃぃぃ!!』


 香ばしい匂いをさせた人魚をアンバーが無言で見ていたら何やら怯えだした。そういえばアンバーはよく焼いた肉が好物だったので魚肉も興味をそそられたのかもしれない。まぁ、その瞬間にも再生能力で尾ヒレの焦げはきれいに治っているので匂いがしなくなればすぐに興味も消えるだろう。


「アンバーにはちゃんと安全なごはんをあげるから、変なもの(露出狂の変態)は食べちゃダメよ」


『ぴぎぃ』


『こんがりしまちた!でもたべまちぇん!』


『酷すぎるぅぅぅぅぅっ!』


「わかった、わかったってば」


 まぁ、そんな訳ですっかりきれいに治った尾ヒレでベッチベッチと地面を叩きながら泣きわめくので話を聞くことにしたのだが……。





『ワタクシ、人魚界隈では異端児でして全然モテナイんです』


 しょんぼりと肩を落としながら語られた内容はなんとも世知辛いものだった。


 人魚界……。所謂“マーメイド”と呼ばれるのは全員、女性の上半身に魚の下半身を持つ者たちの名称である。マーメイドたちは美しい容姿(上半身)や魅惑の力を持つ歌声で人間の男を惑わす存在だ。


 そう、マーメイドは……メスしかいない。


 ではどうやって人魚は繁殖するのかというと、もちろん人魚界にもオスがいる。だが、人魚のオスは“マーマン”と呼ばれる半魚人のことなのだ。人間と同じ足はあるものの、その皮膚は全て硬い鱗に覆われマーメイドとは逆に魚のような顔をした半人半魚。美しいマーメイドと相反するように存在する醜いマーマン。


 でも、だからこそーーーーマーメイドはマーマンを愛し子孫を残す。



 ぶっちゃけると、マーメイドは外見よりも内面派だということだ。


 なにせマーマンは、それはもうマーメイドに尽くすと言われている。妻となってくれたマーメイドのためならそれはもう本当になんでもする。子育てだって完璧にイクメンなのだ。なんてったってマーメイドは女王様気質。マーメイドとマーマンの関係はバランス良く成り立っている。


『ご覧の通りこの姿ですから、人魚界のオスなのにマーマンとは認めてもらえません。美しいワタクシはマーメイドたちに結婚相手には見てもらえず適齢期を過ぎてもずっと独り身なのですぅぅぅ』


 どこの世界にもある話だが、突然変異体とはなかなか仲間とは認めてもらえないようだ。


「マーメイドの姿を持つマーマンなんて初めて見たわ。というか、人魚自体が珍しいし」


『たぶんワタクシは新種の人魚なのだと思うのです。ワタクシのような存在は希少……もっと崇められてもいいと思うのですが仲間たちから相手にしてくれません。孤高の美しいワタクシも素晴らしいとは思うのですが、さすがにこのままでは子孫を残せません。この素晴らしいワタクシの遺伝子を後世に残すためにもなんとしても結婚相手を探さねばならないのです!どうか、賢者様のお力を貸して頂きたく願う所存でございます!


 だって、人魚の中でワタクシが1番美しいじゃないですか!それなのに変異体だからってモテナイのはおかしいでしょう?!』


 その後も自分がどれだけ美しくて素晴らしい存在なのこを恍惚と語る人魚。そして、美し過ぎてモテナイのだと嘆くのだが……。うーむ……。




 いや、変異体だとか関係なく、尽くされるのが大好きなマーメイドからしたらこんな自分大好きナルシスト男なんて論外なだけなのでは?


「えーと、あのさぁ」


『え』


 私の素直な感想と推論を口にすると人魚はがっくりと項垂れた。どうやら思い当たる節があるらしい。


 そして、なんとも情けない顔で涙をこらえながら私を見た。



『……それならば、どうかワタクシがモテるオスになれるように賢者様の元で修行させて下さいぃぃぃぃぃ!』


「えぇぇっ?!」





 ーーーーこうして、人魚のしつこい泣き落としにより、旅の仲間が増えたのだった。







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