第403話 訓練の再開と気付き

「さて、リッド様。訓練を早速始めましょう」


「うん。お手柔らかにね、クロス」


今日は数日ぶりの訓練だ。


勿論、訓練の目的は身体強化・弐式に体を慣らすこと。


そして、その先にある『烈火』をいずれ使いこなせるようになることだ。


なお、身体強化と属性素質を組み合わせる魔法の正確な名称は『身体属性強化』と言うらしい。


本来であれば、この訓練は父上と行う予定だったんだけどね。


でも、ヴァレリからの手紙で得た情報を執務室で父上に報告した時のことだ。


「ふむ。その件は、私もバーンズや懇意の貴族達からも連絡が来ている。あまりよく方向に向かっているとな。それ故、襲撃の件を兼ねて急ぎ陛下に謁見するつもりだ。すまんが、数日の内には帝都に立つだろう」


やはり父上も帝都の状況にきな臭さを感じているらしく、いつも以上に厳格な雰囲気が漂っている。


「畏まりました。あ、でも、そうなると私の訓練はどうなるのでしょうか?」


首を傾げると、父上はニヤリと笑った。


「案ずるな。私の代わりとして、クロスに指示を出している。あいつも、弐式と烈火が扱うことができる騎士の一人だからな」


「え、そうなんですか?」


「あぁ、奴も伊達にバルディア騎士団の副団長をやっているわけではないからな」


「承知しました」


それが、つい先日の事だ。


そんな父上とのやり取りを思い返しながら、改めてクロスに上から下に視線を注ぐ。


彼は騎士団員の中では小柄であり、目元も優し気であまり騎士という印象を受けない。


どちらかと言えば、頼りになるお兄さんのような雰囲気だ。


「ん? どうかされましたか?」


「いや、何でもないよ。それより、父上からクロスも弐式と烈火を扱えるって聞いただけど、その認識で良いんだよね?」


確認するように尋ねると、彼は「はい。その通りです」と頷いた。


「……というより見せた方が早いですね。では、烈火を発動するので、ディアナのところで見ていて下さい」


「わかった」


返事をして頷くと、少し離れた場所で見守っていたディアナのところに移動する。


なお、ファラとカペラは宿舎の執務室で事務作業をしてくれているので、此処にはいない。


だけど、「くれぐれも、無理はしないで下さいね……絶対です!」とファラから釘は刺されているけどね。


それから程なくして、クロスが深呼吸を行ってから目を見開いた。


すると、辺りに軽い魔力波が吹き、彼は全身に赤い魔力を纏う。


その姿は、まさに父上が見せてくれた『烈火』そのものだ。


「おぉ、すごい!」


思わず駆け寄ると、クロスは目を細めて笑う。


そして、「ふぅ」と息を吐いて烈火を解いた。


「あれ? もう止めちゃうの?」


「はは。流石にこれは消耗が激しいですからね。この後、弐式の訓練を行うとなれば無駄に消費できませんから」


確かに、弐式や烈火に用いる魔力量は通常の身体強化よる遥かに多い。


それは僕も身を持って知っている。


「それも、そっか。じゃあ、改めてお願いね、クロス」


「はい。お任せ下さい」


こうして、身体強化・弐式と烈火の訓練を始めていく。


まずは、『弐式』に体を慣らすことを優先するということで、烈火は当分お預けとなった。


いざ弐式を発動すると、すぐに前回とは違うある異変に気付く。


「あれ……この感じ」


首を傾げていると、クロスが心配そうにこちらの様子を窺う。


「リッド様、どうかされましたか?」


「いや、何か今までもより魔力を凄く身近に感じる気がしてね。前に発動したより、負担もないんだ」


弐式の発動時には、メモリーにも呼びかけている。


でも、それを加味してもやはり体が前より楽だ。


すると、クロスが口元に手を当て少し思案してから言った。


「確か、リッド様は弐式と烈火を同日に発動して丸一日、寝込まれていたんですよね?」


「うん。そうだね。だけど、目が覚めても薬を飲みながら寝たきりだったから、実際には丸二日は寝込んでいたかな」


「ふむ。ちなみに、その薬とは『魔力回復薬』でしょうか?」


「そうだけど、それがどうかした?」


質問の意図がよくわからず、思わず聞き返す。


ちなみに、バルディア騎士団の団長のダイナスと副団長のクロスは『魔力回復薬』の存在を知っている。


当然、父上から固く口止めされているけどね。


すると、彼は「ここからは、あくまで推測ですが……」と前置きした。


「弐式と烈火の発動により、リッド様の体には多大なる負荷がかかりました。おそらく、通常であれば数日でここまで動けるようにはならないでしょう」


「あれ……そうなの?」


「はい。私も弐式と烈火を会得するまでに、かなり苦労しましたからね。昔の話になりますが、弐式に慣れた上で烈火を始めて発動させた時のことです。私はその反動で一週間ほどまともに動けませんでした」


「え⁉」


その説明を聞き、呆気に取られてしまった。


クロスはおそらく、大人になってから弐式や烈火を扱えるようになったはずだ。


それで、一週間程も動けなかったということは、弐式と烈火が術者に与える負担は想像以上に凄いという事だろう。


彼はそのまま、説明を続けていく。


「魔力に耐え得る体を造りの方法は、主に三つです。一つは、年齢による身体的な成長。二つ目は、体を鍛える。そして、三つ目は、魔力による負荷を体に馴染ませる。以上のいずれかです。今回の場合、リッド様は三つ目を意図せず行ったことになるのでしょう」


「なるほど……」


確かに彼の言う通り、弐式と烈火の発動は三つ目に該当する。


しかし、クロスは途端に肩を竦めて首を横に振った。


「でも、常識で考えれば、三つ目は誰も行いませんがね」


「どうして?」


聞き返すと、彼は真面目な顔つきとなった。


「魔力による負荷を体に馴染ませる……言うのは簡単ですが、下手すると反動で数日どころか、一ヶ月近く身動きが取れなくなる可能性もありますからね。リッド様の場合、魔力回復薬をがぶ飲みされたのでしょう? その結果、これだけ早く身動きが取れるようになり、結果的に魔力が体に馴染んだ……というのが私の見解です」


「あ、そういうことか! あはは、まさに怪我の功名というやつだね」


合点がいき、ニコリと笑う。


その時、背後から刺すような視線を感じて背中に悪寒が走る。


ハッとして振り返ると、ディアナが冷淡な瞳で鬼のような形相をしていた。


「リッド様。周りに心配をおかけする事が無いよう、怪我のない功名をお願い致します」


「う、うん。ごめん、気を付けるよ」


彼女の言動にたじろいでいると、クロスが咳払いしてから口火を切る。


「ゴホン……まぁ、何にしてもです。リッド様の魔法の才能と魔力回復薬のおかげで、弐式の負荷に体が多少馴染んだということでしょうね。さぁ、それを踏まえて訓練を再開します。よろしいですね?」


「うん。わかった。じゃあ、改めてお願いします!」


そう言うと、弐式を発動してクロスに立ち向かうのであった。





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