第370話 ジャンポール侯爵家の娘

ファラ達と合流した後はデーヴィド、マローネ、ベルゼリアに改めて会場の案内を行った。


バルディア領で開発した料理、飲み物、木炭車、懐中時計と皆は楽しそうに目を輝かせてくれる。


特に、木炭車の試乗はとても喜んでくれていた。


また、マローネ達はドワーフや獣人族の子供達に会うのが始めてだったらしく、エレンや狐人族の子達との会話も楽しんでいたようだ。


しかし、マローネとベルゼリアの褒め言葉でエレンが調子に乗ってしまい、「ふふ実はですね。雷属性の……」と話し始めた。


「エレン⁉」


慌てて声を掛けると、彼女はハッとする


「あ⁉ す、すみません。つ、つい……あはは……。皆様、今のは聞かなかったことにしてください」


「わかりました。ふふ、バルディア家はまだまだ色々な商品をお考えなんですね」


マローネの言葉に、デーヴィドやベルゼリアも苦笑しながら頷いてくれた。


なお、エレンがうっかり口を滑りそうになったのは、『雷属性の魔力を宿して保持できる物』を秘密裏に研究していることだ。


その開発に成功すればバルディア領が世界に先駆けて発展できることだろう。


エレンは苦笑しているけれど、こちらは内心冷や汗ものだ。


幸いと言って良いのか、マローネ達は今のやり取りから事情を察してくれたらしく、何も聞かないでいてくれた。


その後、場所を変えて机を囲んで軽食を取りながら談笑する。


同じ帝国貴族と言っても、家によってやはり考え方や国から受け持っている業務が違う為、中々に有益な話ができたと思う。


ただ、やはり気になるのはベルルッティ侯爵の娘という『マローネ』だ。


彼女は、話す限りではとても好印象である。


当たり障りなく話せるし、場の雰囲気も読める上、察しも良い……でも、だからこそ底知れない何かを感じていた。


それに、『マローネ』という名前も気になる。


その名は『ときレラ!』のメインヒロインである『マローネ・ロードピス』と同じだ。


しかし、彼女はベルルッティ侯爵の娘だから、姓名は『マローネ・ジャンポール』である。


問題はこれを偶然と片付けるか、運命の歯車に変化が起きたと捉えるかだ。


だけど、『ときレラ!』における悪役令嬢こと『ヴァレリ・エラセニーゼ』が僕と同じ転生者だったという事実を考えれば、偶然と片付けるのは安易だろう。


そう考えをまとめると、皆で和気藹々と話す中で話頭を転じる。


「ところで、折角こうして皆で話せたのも何かの縁だから、手紙のやり取りでもしてみない?」


「まぁ、それは素敵お話です」


マローネが嬉しそうに微笑むと、ベルゼリアもコクリと頷いた。


「は、はい。僕も良いと思います」


「うん。僕が住む領地とバルディア家は距離もあるから、手紙の方がやり取りは簡単だね。是非、こちらからもお願いするよ」


続いてデーヴィドも同意してくれたことで、この場にいる皆で手紙のやり取りをすることが決まった。


これでバルディア領と正反対に位置する中立派のケルヴィン家に加え、帝都における革新派の筆頭であるジャンポール家との繋がりがマローネ達とデーヴィドを通じてできたわけだ。


ジャンポール侯爵家は油断ならない相手だけど、だからと言って何も繋がりが無い状態の方が危険だし、下手をすると気付かないうちに足元を掬われかねない。


勿論、『マローネ・ジャンポール』の動向を窺うことも兼ねている。


そして、保守派の筆頭である『エラセニーゼ公爵家』の情報も『ヴァレリ』を通じて得られるだろう。


これにより、帝国貴族の大まかな動向が少し見えやすくなるはずだ。


まぁ、彼等が簡単に情報を漏らしてくれるとは思わないけどね。


その時、「なんだか面白そうな話をしているな」と呼びかけられる。


その声に振り向くと、皇太子であるデイビッドとヴァレリがこちらにやってくるのが見えた。


すると、即座にマローネとベルゼリアが席から立ち上って畏まり自己紹介を行う。


その後、デイビッドとヴァレリも自己紹介を行った。


「なるほど、ジャンポール侯爵家の者か。こうして直接会うのは初めてだな」


「私も初めてです」


ヴァレリがデイビッドの言葉に頷くと、マローネとベルゼリアが再び畏まる。


「こうしてご挨拶できたこと、光栄に存じます。デイビッド様、ヴァレリ様」


「み、右に同じく、光栄に存じます」


「はは。そんなに畏まらなく良い。それよりも、何の話をしていたんだ」


デイビッドはそう言って、この場にいる皆に軽く笑いかけている。


それとなく観察する限り、彼はマローネを見ても顔が真っ赤になるとか、一目惚れしている様子はない。


彼女が『ときレラ!』の『マローネ』と同一人物であれば、主役級のデイビッドと出会うことで何か起きるかも……そう思ったが特に変化はないようだ。


「……ここにいる皆で手紙のやり取りをしてみようって話だよ。デイビッドとヴァレリも参加するかい?」


思案しながらデイビッドの問い掛けに答えると、彼は「ふむ」と頷いた。


「それは面白そうだな。時折で良ければ、私も参加しよう。ヴァレリはどうかな?」


「そうですね……。では折角ですから、私も参加してみます」


こうして、皇太子のデイビッドとエラセニーゼ公爵家のヴァレリも手紙のやり取りに加わることになった。


基本的には月一回程度のやり取りだけど、何かしらの情報を得れれば儲けものだろう。


その後、改めて皆で談笑を行いそれぞれに年齢も近いこともわかったので、もっと気軽に話そうと名前も呼び捨て良いということになった。


そうこうしている内、その日の懇親会は閉会の時間となり、皆はそれぞれの親と帰宅の途に就く。


別れ際には、デイビッドを始めとしてどの子も「すごく楽しかった」と言ってくれたけど、ヴァレリだけは浮かない顔で耳打ちをしてきた。


「ねぇ、リッド。ジャンポール侯爵家の『マローネ』って言う子なんだけど……ただの『同姓同名』なのかしら」


「……その事は僕も気になっているから、調べるつもりだよ」


「そう……わかったわ。私もわかる範囲で調べてみるから、何かわかったら連絡するわね」


「うん。僕も何かわかったら連絡するよ」


そう答えると、彼女は少し安堵したらしくホッとした表情を浮かべていた。


エラセニーゼ公爵家が会場を後にすると、他の貴族達も続くように帰途に就く。


ようやく会場に訪れた静寂に緊張の糸が緩むの感じつつ、近くの椅子に腰かけて「ふぅ……」と息を吐いた。


「……さすがに、少し気疲れしたね」


その呟きに、近くに居たファラが笑みを溢した。


「ふふ。お疲れ様でございました。リッド様」


「ありがとう、ファラ」と答えると、視線を傍に控えるディアナに移した。


「それに、ディアナもね。君のおかげで色々と助かったよ」


「とんでもないことでございます」


彼女は畏まり会釈する。


懇親会の最中、ディアナはずっと傍に控えてくれており色々と気を利かしてくれて本当にありがたかった。


彼女の器量の良さは本当に素晴らしいから、恋人のルーベンスは幸せ者だろう。


貴族の若い男性の一部は、ディアナのことをチラチラ見ていたみたいだしね。


すると、ファラが申し訳なさそうに話頭を転じた。


「あの、リッド様。ところで、先程はヴァレリ様と何をお話されていたのでしょうか?」


「え? あぁ、マローネのことだよ。彼女ことでちょっとね」


 そう言うと、彼女は何かを察したようでスッとこちらの傍に近寄り耳打ちをしてきた。


「その件で私もお話したいことがあります」


「え……?」と小首を傾げるが、彼女は耳打ちを続けた。


「マローネ様はベルルッティ侯爵様にその器量の良さを認められ、一年程間に養女として迎え入れられたとのこと。そして、マローネ様が養女として迎え入れられるまで過ごしていた場所は、『ロードピス男爵家』が運営する孤児院だったそうです」


「な……⁉」


彼女が得てくれた情報に驚愕する。


『ロードピス』という姓は『ときレラ!』に登場する『マローネ・ロードピス』と同じであり、『男爵家』であることも一緒である。


そのロードピス男爵家が運営する孤児院にいた『マローネ』となれば、おそらく同一人物である可能性は高いだろう。


「……ちなみに、その情報はどこから?」


思わず尋ねると、ファラの表情が曇った。


「リッド様がベルルッティ侯爵様とお話をしていた際、マローネ様ご本人から伺いました。裏取りは必要かと存じますが、おそらくは間違いないかと。皆様がいる状況では中々にお伝えできる機会がなく、すぐにお伝えできず申し訳ありませんでした」


ファラはそう言うと、深く頭を下げようとしたので慌てて止める。


「いやいや、そんな貴重な情報を得てくれただけでもすごく助かったよ。ファラが謝る必要はないし、むしろお礼を言うのこっちだよ。ありがとう、ファラ」


お礼を言ってニコリと微笑み掛けるとファラは顔を赤らめる。


そして、彼女は俯きながら嬉し恥ずかしそうに「お役に立てて、良かったです」と小声で呟いていた。





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