第220話 『鉢巻戦』会場設営
「さて、この辺で良いかな」
「また何をされるおつもりでしょうか? あまり無茶をされると、また騒ぎになります」
「大丈夫、大丈夫。まぁ、見ていてよ……」
僕とディアナは狐人族の二人との話が終わり、宿舎の敷地横の空き地に来ていた。
アリア達がすぐ来るかと思ったが、マナー講習が始まったそうなので先に『鉢巻戦』の舞台と会場を作ろうというわけだ。
なお、カペラは執務室で待機をしてもらっている。
その場にしゃがむと、僕は両手を合わせて魔力を圧縮していく。
そして、ある程度の魔法核とイメージを作り上げると、両手を地面に付け魔法を発動する。
(大地想見)
心の中で呟くと、大地に僕の魔力が吸い込まれていく。
それと同時に、地面が轟音を立てながらうねり、うごめき始めた。
まさに大地が生きているようである。
「な、な……」
ディアナから何やらたじろいで驚いている様子の声が聞こえる。
しかし、僕は魔法に集中しており彼女の様子は伺えない。
轟音はやがて収まり、僕とディアナの前には円形状の大きな武舞台が出来上がる。
武舞台の周辺には、少し高いところから全体が見渡せるように観覧席や観客席も作った。
円形武舞台の端には空堀を作っており、東西南北に橋が架かっている。
「よし、後は空堀に水を入れないとね」
再度、両手を合わせて魔法を圧縮して、手の中に魔法核を作り出してから心の中で魔法名を呟く。
(水槍・放流)
発動と同時に大量の水が魔力で生成されて轟音と合わせて空堀に水が溜まっていく。
あっという間に空堀は『水堀』となる。
『鉢巻戦』とはいえ、逃げ回るばかりの結果ではつまらない。
水に落ちたら場外というルールもあった方が面白いだろう。
地面に落ちたりすると危ないから、水が緩衝材になるはずだ。
あとは、騎士達に水堀に落ちた子はすぐに拾い上げるお願いしておけば良いだろう。
「ふぅ……思ったより、魔力を消費したけどこんなものかな。どう、ディアナ? 結構いい感じの武舞台でしょ」
僕はニカっと笑みを浮かべ、彼女に向かい遊び半分に決め顔をして見せる。
しかし、彼女は僕の顔を見るなり、額に手を添えて俯き、呆れ顔で首を横に振った。
「はぁ……これは、確かに素晴らしいですが……また、怒られますよ」
「え……⁉ で、でも、バルディア領で魔法を習った子達は、これぐらいは出来るようになる予定だからさ。それも彼らのやる気に繋がると思うんだよね」
そう、魔法は正しい修練を行い、ちゃんとした教育をすればこの程度は誰でも使えるようになる可能性は十分にある。
でも、肝心の教育機関はまだ存在していないからその先駆けであり、試金石としてこの宿舎を作ったのだ。
しかし、ディアナは、呆れ顔のまま再度ため息を吐くのであった。
◇
僕とディアナは武舞台と観覧席を魔法で作った後、細かい部分を確認しながら仕上げをしていた。
魔法で作ったと言っても、あくまで大雑把に作ったに過ぎない。
あちこち見て回ると結構、デコボコがあったりする。
その為、最終的な確認が必要というわけだ。
地道な作業だけど、もうすぐ終わる。
後で、騎士の皆にも念のために確認してもらえば大丈夫だろう。
僕は背伸びをしながら、両腕を空に向かって伸ばした。
「うーん……これで、ほぼ完成かな」
「お疲れ様でございます。しかし、これだけの舞台をこんな短い時間でお創りなるとは、リッド様の魔法はやはり素晴らしいと存じます」
「あはは、ありがとう。でも、魔法は誰でも使えるから、僕が素晴らしいのは『今だけ』だよ」
ディアナの言葉に僕は笑みを浮かべて答えた。
僕だけが魔法を扱えても領地を発展させることは出来ない。
人が一人で出来ることには限界があるし、魔力だって無尽蔵ではないからだ。
それに、僕は領主の長子でもあるから、雑用であちこち行くわけにもいかない。
僕には、僕のすべきこともある。
だから、僕と同様の力を持ち、信頼できる子達を育てようと思ったわけだ。
と、その時、ふとディアナに提案したことを思い出した僕は、彼女に視線を向ける。
「あ、そうだ。ずっと言おうと思っていたんだけどさ。今回の件が落ち着いたら、ディアナも一緒に僕と魔法を勉強してみない?」
「私も……ですか?」
思いがけない言葉だったのか、ディアナはきょとんとした表情を浮かべている。
「うん。これから獣人族の子供達が魔法をどんどん使えるようになると思うからね。ディアナも魔法を使う幅は広げて置くべきだと思うんだ」
ディアナとの訓練の中で感じていたことがある。
それは、今より魔法がうまく使えれば、彼女はもっと強くなれるということだ。
でも、中々に忙しくて伝える機会を失っていたのである。
良い機会だから、獣人族の子達に魔法を教える時、ディアナにも基礎を学んでもらおう。
それに、彼女ならすぐにコツを飲み込んでくれるはずだ。
彼女は、思案顔で少し俯くが間もなく顔を上げ、ゆっくり頷いた。
「そう……ですね。魔法はあまり得意ではありませんが、リッド様の従者としては、再度学ぶべきかもしれません」
彼女の答えに、僕は満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう、ディアナ‼ じゃあ、『鉢巻戦』が終わってから一緒に勉強しようね。ちなみに、ディアナって属性素質は何をもっているんだっけ?」
「私ですか? 把握しているのは『火』だけですね。後は使えた記憶はありません」
「そっか。じゃあ、まずはそこから調べてみないとね……ふふ、楽しみだね‼」
僕の予想では、属性素質が一つということはあまり無いと思う。
きっと、ディアナが気付いていないだけで、火の属性素質以外も何か持っているはずだ。
それを理解して使いこなせるようになれば、彼女はさらなる高みを目指すことが出来るだろう。
ちなみにこの時、ディアナから向けられた怪訝な眼差しに気付くまで、僕は不敵な笑みをしばらく不気味に浮かべていたらしい。
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