第82話 新たな出会い

「ディアナ殿、是非今度、手合わせ願いたい‼」


「……アスナ殿、申し訳ありませんが謹んでお断り致します」


「アスナ、ディアナ様が困っていますから……」


僕達はまだドワーフ姉弟のお店にいる。


先ほどの店に来た三人組の下卑た男達はディアナが吹っ飛ばした……ではなく、追い払った。


戦いぶりに感動したアスナが手合わせを申し込み、ディアナが断って、ファラが止める。


そのような構図が、先ほどからずっと繰り返されていた。


僕はその様子を呆れて見ていたが、そこにエレンが話しかけてきた。


「ティア様……だっけ? 君のメイドのお姉さんすごいね。あんなやつらでも、腕が良くて僕達は結構怖かったのに簡単に倒しちゃうなんてさ」


「ディアナは普通のメイド兼護衛……だと思う」


暗器も使えるらしいが、黙っておこう。


それよりも、エレン達の今後が気になった。


「エレン、彼らはどうして君を連れて行こうとしたのだろうね? 返済期日はまだあるんでしょ?」


「……そういえば、そうだね。以前も来たことあるけど、あんなことを言われたのは初めてだよ」


僕はあのモヒカン男が言っていた言葉を思い出していた「マレインの旦那が急いでいる」と言っていたはずだ。


アスナの言う様にノリスと繋がりがあったなら、ひょっとすると立場が危うくなっているのかな?


どちらにしても、エレンとアレックスをバルディアに連れていくために避けては通れない道だ。


僕は小さく頷くとエレンに向かって力強く言った。


「エレン、僕達をマレインの屋敷に案内してくれないかな? 君たちの借金を返さないといけないしね」


「……うん。じゃあ、僕が案内するね。アレックスは片付けと留守番お願いね」


彼女は僕に返事をするとアレックスに向かって言った。


「わかった。姉さん、気を付けて」


僕はまだ繰り返しループしている三人に声をかけて、僕達は新たな目的地のマレインの屋敷に向かった。



マレインの屋敷はエレン達の店からちょうど反対方向にあり一旦、町を経由する必要があった。


僕達はもと来た道を戻る流れでいま、町まで戻って来た。


「ファラ、大丈夫? ごめんね。沢山、歩かせてしまって……」


「大丈夫です、リ……じゃなくてティア。これぐらいは何ともありませんから」


ファラは少し耳を上下に動かしながら返事をしてくれた。


その様子に僕が安心したときだった。


前方で騒ぎが起きているようで大声が聞こえてくる。


なんだろうと思ったその時、騒ぎの一団の中から小さな黒い影が飛び出して一目散に僕に向かってきた。


その動きを察知したディアナは僕の前に出て、その影を捉えようとした。


だが、なんとその影は彼女の動きを見切って、そのまま僕のスカートの中に入った。


「なっ‼」その動きに僕とディアナは驚愕の表情をした。


すると、影の動きを追ってきた男達は僕達の前にやってきた。


彼らは人族で服装もレナルーテとは違うものだ。


彼らは僕のスカートの中に影が入ったのを見ていたようで高圧的に言ってきた。


「嬢ちゃん、そいつはここら辺では有名なマレイン様のペットなんだ。早く返してくれねぇか?」


男達は僕に近づくといきなりスカートをめくり上げようとした。


それを見たディアナは容赦なく、その男の顔に拳を叩きこんだ。


「ぐぼぁあああ‼」


スカートをめくり上げようとした男は殴られた衝撃で吹っ飛んだ。


そして、道の真ん中で気絶した様子だ。


そんな、彼らにディアナは軽蔑の目を向けて言い放った。


「……いきなり女性のスカートをめくり上げようとするとは何事ですか?」


僕は内心、女性ではないけど。と思いつつも同意した。


いくら何でも初対面の相手にやることが無礼すぎる。


その時、隣にいるファラから黒いオーラを感じた。


これは、僕が何度も経験しているものと瞬時に悟った。


恐る恐る隣にいるファラを見ると、頬を膨らませ可愛い顔をしながら怒っていた。


ファラは黒いオーラを出しながら、アスナに指示をした。


「アスナ‼ あの無礼者たちを成敗致しなさい‼」


「承知致しました‼」


その時、僕は急いでアスナに言った。


「殺しちゃダメだよ‼」


「ティナ。私も行って参ります」


「へ……?」


僕はアスナに言ったつもりだったのだが、ディアナはアスナの後を追いかけて男達に向かって行った。


男達も気絶した仲間に目がいっていたが、アスナとディアナの動きに気付くと怒号をあげた。


「……‼ なめんじゃねえぞぉお‼」


彼らは飛び込んでくる二人を返り討ちにしようと迎え撃った。



そして、数分後……


「ご、ごめんなひゃい……ゆるひて、くらはい」


「はい? 何を言っているのか聞こえませんね?」


許しを請う、男の声にディアナは止めの拳を彼の顔にぶち込んだ。


同時にその場に、鈍い音が響く。


その後、彼はしゃべらなくなった。


僕は首を横に振りながら呆れた様子で言った。


「やり過ぎだよ。殺しちゃダメだって……」


「ティア様、大丈夫です。息をしておりますから、死んでおりません」


ディアナはニコリと笑顔で言うが目が笑っていなかった。


その時、別の男の悲鳴が聞こえてきた。


「も、もう勘弁してくれぇええええ‼」


「……この程度で音を上げるとは情けない‼ 貴様らはそれでも男か‼」


アスナは叫びながら男の服だけを刀でひたすら切り裂いている。


僕が父上に受けた胆力訓練と似ているかもしれない。


気付くと男達はアスナに服だけを切られてパンツ一枚だけになると、その場でへたり込んで気絶してしまった。


アスナはその姿をみると、刀を鞘にしまい吐き捨てるように言った。


「ふん、三下が……」


「アスナ、さすがです‼」


アスナの活躍にファラは喜んでいる様子だった。


アスナとディアナの活躍を見ていたエレンは、青ざめた顔で僕をゆっくり見ると言った。


「……君たちは何者なの?」


「ごめん。それはまだ秘密かな」


さすがにメイド服を着た状態で、エレンに正体を明かしたくはなかった僕はごまかした。


男達が全員気絶すると、様子を見ていた町の人達が喜んだ様子で話しかけてきた。


「あんた達、やるねぇ‼ あいつら倒してくれてせいせいしたよ‼」


「そうだぜ。あいつらはことあるごとにマレインの名前を出してくるんだ、いい気味だ‼」


どうやら、マレインとその仲間達はこの町では嫌われているらしく、僕達の行動は好意的に見ていてくれたらしい。


ファラはあまり褒められたことがないのか、恥ずかしさで赤面している様子だった。


その時、僕は騒動の原因となった存在がまだスカートの中にいたことを思い出した。


そっとその場から動くと、スカートの中から二つの影が出てきた。


現れた姿に皆の注目が集まると、僕とディアナ以外の全員が目を丸くして驚いていた。


その様子に二つの存在も驚いたのか、片方が上目遣いをしながら「ンン~……」と可愛い声で鳴いた。


もう片方は静かにしており動く気配は無い。


ちなみに僕がその姿を見て最初に思ったのは、黒猫とスライムだった。

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