第10話 帰り道

「うまく、いきましたか?」


別邸の馬車に向かって歩いていると、ルーベンスが心配そうな顔をしながら声をかけてきた。


「うん。想像していたよりも喜んでくれたし、これからはクリスティ商会と色々出来そうで楽しみだよ」


「おお、それは良いですね。ご無理はだけはされないようにして下さいね」


僕が少し浮かれていると思ったのか、ちょっと釘を刺された。


まぁ、まだまだ前途多難な状況だから、浮かれている余裕はないけどね。


何もしないと待っている未来は追放、処刑などおっかないことこの上ない。


脳裏に最悪の将来がよぎると、背筋がゾッとして体が少し震えた。


「あら? どうかされましたか?」


「いや、大丈夫だよ」


「そうですか、少し日が落ちてきましたので寒いときは仰ってくださいね」


「ディアナ、ありがとう」


僕が震えた様子を寒さのせいだと思い、声をかけてくれたらしい。


優しい護衛っていいな。


「……ん?」


道を歩いていると、前方に僕より少し小さい女の子がいた。


高級な感じの洋服を着ている様子から、どこかの令嬢と思う。


女の子は少し怯えた様子で周りを見渡していた、その姿を見ていると緊張が伝わってくる。


貴族の令嬢が迷子になったらあんな感じだろうか? 


どちらにしても、そのままにはしておけない。


僕は護衛の二人と一緒に、女の子に近づくと怖がらせないように「大丈夫?」と声をかけた。


驚いた様子で僕達に振り返った彼女は褐色の肌に紺色の髪、吸い込まれるような紅い瞳をしていた。


近くで見ると、すごく可愛い女の子だった。


「あ……」


「ごめんね、いきなり声をかけられたら怖いよね?」


「い、いえ。大丈夫です……」


すごく怯えられているのがわかる。


僕ってそんな怖い顔だっけ? 鏡があったら覗きたい。


彼女はかなり警戒していたが、僕達が辺境伯所属の騎士団所縁であることを伝えた。


困っているのであれば力になりたいと説明した。


彼女は緊張した様子で事情を話してくれた。


一緒にこの街に来た人達と、気付いたら離ればなれになってしまったらしい。


「やっぱりか……」と思いながら他の人達と離れ離れになったしまった所に、僕達が彼女を案内することにした。


幸い、彼女と離れ離れになった人達はすぐに見つかった。


恐らく他国の人達で、彼女の従者なのだろう。


従者と思われる人たちは皆、彼女と同様に褐色肌をしていた。


彼女が一人で町中に立ちすくむ姿を見つけて心配になり声をかけた。


状況を聞くと一人にはしておけず、心配だったので護衛をしながら従者の皆さんを探していた、と伝えた。


すると、少女が僕の前に出てきてお礼を言ってから頭を下げた。


「ありがとうございます。本当に助かりました」


「いえいえ。頭を上げて下さい。困っている女の子を助けるのは当たり前のことですから……」


僕の言葉を聞いて、迷子の女の子は顔を赤らめて俯いていた。


僕に頭を下げていた少女は頭を上げると、迷子の女の子に振り返り近づくと険しい顔で強めの声をだした。


「お嬢様、一人で勝手に行かれては困ります‼ 本当に心配したのですよ?」


「ごめんなさい……」


迷子の女の子は、「シュン」として少女の言葉に頷いていた。


二人のやりとりから、迷子の女の子はどこかの令嬢で間違いみたいだった。


「じゃあ、またね。迷子にならないように気を付けてね」


「は、はい。ありがとうございました」


迷子の女の子と少女に一礼してから「じゃあね!」と言って別れた。


今度こそ家の馬車まで歩き帰途についた。



馬車で屋敷に帰る道の途中、ルーベンスはリッドに声をかけた。


「リッド様、迷子の女の子に名前聞かなくて良かったのですか?」


ルーベンスは迷子の女の子とリッドのやりとりを見た時、将来とんでもない「色男」になりそうだな、と感じていた。


恐らく、リッド本人はその気がない。


ただ、リッドの顔は他人から見て、とても綺麗で整っている。


服装次第で女の子にも見えるかも知れない。


そんな、リッドが間近に迫ってきて「大丈夫?」と言われたら、彼と同い年ぐらいの子供なら誰でも固まってしまいそうだ。


ルーベンスがそんなことを考えながら、リッドの言葉を待っていたが返事がない。


「……あれ?」


ルーベンスは気になって、そっと馬車の中を覗くと「スースー」と寝息を立てていた。


リッドの無防備な寝顔はとても可愛らしい。


ディアナもそのことに気付いたようだが、口元を両手でおさえて「か、可愛い‼」と目が爛々となっていた。


彼女の様子と表情を見て、ルーベンスは「おいおい」と心の中で呟いた。


「……リッド様が寝ている間に、屋敷に戻るかね」


ルーベンスはそう言って馬車を屋敷へと走らせた。

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