18.ミルティア捕獲大作戦

「これよりミルティア捕獲大作戦を決行する!!!! ただし傷つける事は許さん!!!! 協力者には金一封!!!! 捕まえた者には望むものを与える!!!! 者共、かかれー!!!!」

「「「「おおう!!!!」」」」


 ドン、と太鼓の音がなった途端、下からは意志疎通の取れた掛け声が。と同時に、突風が私と竜達を襲ってきたんですけど?!


 お父様?! 何なの、ミルティア捕獲大作戦て?!


「がうがう!」

「え、ちょっ、何?!」


 しかもクロちゃんが警告の鳴き声を出したように、ただの風じゃないわ! 領民一丸となって、各々風魔法の角度を調整して合体させた特大の竜巻じゃない!


 うちの領民てば、どんな戦闘民族なの?!


「え、冷たい?!」

「ぷぎゃっ」


 ミニお花ちゃんの可愛らしいお口に、魔力の高まり!?


「やだ! 待って、お花ちゃん!」


 慌てて両手でお花ちゃんの上顎と下顎を閉じる。


「がう!」


 クロちゃんも、ちょっ、待てよ、とばかりにお花ちゃんに制止の鳴き声。


 何とかを私とクロちゃんでお花ちゃんを止めたものの、あっぶな!? 焦土と化してもおかしくなかったわよ?!


 氷の魔法の得意な領民が、竜巻の真ん中に冷気を発生させたせいで気温が下がったの。意図的に竜巻の角度を調整しているから、合わせ技で下降気流の威力が増す。


 何事!? この領民達の一致団結ぶりは?! クロちゃんの体が地面の方へ流されちゃう!?


 とはいえ下手に今、クロちゃんの巨体で抵抗すれば、領民が怪我しちゃうわ!


 更に! ご丁寧に風圧だけでぶっ飛びそうな、領の未来を担う小さな子供達が前衛組に入っているって、どういうつもり!? 攻撃する側が自分達の子供を人質に取るなんて、意味不明よ!


「がうがう····きゅい!」


 クロちゃんも子孫達を傷つけたくないって判断したのね。ポン、とミニサイズになったわ。


「わぁ!」

「可愛い!」

「俺も抱っこする!」


 そうしたら子供達ってば、口々に褒め称えるじゃない!? こんな時なのに、ドヤ顔しそう!


 当のクロちゃんなんて、わざと無害な光るだけのキラキラ振り撒いたわ。嬉しかったのね。


 だけどそれは一瞬のこと。お花ちゃんの尻尾をパクッと咥えたかと思ったら、私の影に逃げこんだわ。


「うわぁ、金ぴかの竜巻ー!」

「すっげー!」

「私もやってみたい!」


 遅れて子供達の歓声が上がる。いくら辺境領でも、もうちょっと危機感持ちなさい?!


「もう、何なの?!」


 上空に放り出された私は、すぐに風と火の魔法を使う。一瞬で無害な風に変えてから着地する。


 と、思ったら……。


「「「「「せーの!」」」」」


 今度は赤ん坊から幼児までを抱えたお母さん組の出番みたい。皆で一丸となって土魔法。


 ドーンと落とし穴を掘ってくれちゃった?! 落下地点まで計算されていた!?


 ぐぬぬぬ。女子供を使った巧妙な心理戦には恐れいるわ! かなり深い落とし穴ね!


「はっ?!」


 こんな時こそ、どこぞのヒロインもびっくりの「きゃあああああ!!」をお見舞いするタイミングだったんじゃない?! 思わず間抜けな声を上げても後の祭りだったわ!


 一瞬、転移してやり直そうかと思ったものの、もしやこれも余興の一つ?


 そう思い直した私は、そのまま重力操作だけをする。空中をふわふわと漂いながら、背中から着地する格好で素直にゆっくりと落ちていってあげたの。


 余興のやり直しは、興ざめの元。


 上を見上げつつ、風魔法で舞い落ちそうな土埃を巻き上げて、穴の外に出しましょうか。


 そう思って風を吹き上げた時よ。


 とっても綺麗な色とりどりの花々や花弁が下から舞ったのは。真っ青な空に彩りを添える幻想的な光景。


「……綺麗」


 予想だにしない光景に、思わず見入ってしまう。


 もう少しで地面に着くけれど、この光景を寝転がったまま、暫く楽しみましょうか。


 そう思った時よ。


「それは、用意した甲斐があったな」


 懐かしい声と共に、逞しい腕が私を抱きとめる。世の乙女達の憧れるお姫様抱っこ。


 私をのぞきこむお顔は、記憶よりも渋さと少し甘くなったように感じる素敵なご尊顔。


 さらさらストレートな青銀の髪は、あの時と違って切り揃えているのね。


「………………カイン?」


 あまりに予想外な現実に、思考停止。五年間口にしなかった名前だけを、ただただ呆然と呟く。


「ああ。やっと見つけた。俺の愛しい人」


 うっすらと涙を浮かべ、蕩けるように微笑むカイン。


 彼はこの五年という時間を、きっと有意義に過ごしたのね。五年前の別れ際のような、くすんだ瞳ではもうなかった。とっても綺麗な……深く澄んだ青。


「ずっと探していた。会いたかった」


 一度私を降ろしたカインは、私を強く抱きしめてそう告げた。


 もう冒険者を止めたかもしれないと思っていたけれど、鍛えた筋肉は衰えていないのね。


「カイン? まるで愛の告白みたいね。私、都合の良い夢でも見ているのかしら?」


 現実味のない現実に、何だかふわふわとした感覚になるのは何故かしら?


 それを聞いたカインは、両手を私の肩に添えて少しだけ体を離す。


「ミルティア、夢にしないでくれ。ちゃんと俺の言葉を聞いて欲しい」


 とても真剣な眼差しに、大人しく頷いた。

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