内容証明
さらに一か月が過ぎ、そろそろ学年も変わろうという時期になったある日の事。
急にあたしがお兄ちゃんのクラスのいじめっ子グループを晒した張本人だって噂が流れ始めた。
今までは佐々木をイジメるか突き落とすかしたんじゃないか?って噂はあっても、お兄ちゃんのクラスの事は学年が違うから誰も疑っていなかったのに。
そしてある日、お母さんが思いつめた顔であたしに話があると言い出した。
「お母さん、いきなり何??」
「いきなりじゃないわ。あなたって子はどうしてこんなとんでもないことを……っ」
「なんの話?? あたし悪い事なんて何もしてないよ」
訳が分からず聞き返すあたしにお母さんは1通の封書を見せた。
「弁護士事務所?」
「あんたがイジメをしてるって晒した谷田部さんのご家族から、名誉棄損で訴訟を起こされたの。プロバイダに情報開示請求して、ちゃんと証拠を押さえた上での訴訟よ。警察にも被害届を出したそうだから、近々刑事さんからも事情を聞かれると思うわ。示談には応じないそうだけど」
あたしは驚きすぎて頭の中が真っ白になった。
あたしが晒したって事がバレたのもびっくりしたけど、それで被害届を出したって事にもっとびっくり。
だってあたし悪くないでしょ?事実をネットに書き込んだだけ。
書かれて困るような事やる方が全部悪いんじゃない。なんで被害者ヅラして警察に泣きついたりできるわけ?
「え?なんで??あたし本当の事言っただけだよ。それなのに逮捕されちゃうの??悪いの全部あいつらじゃん」
「そういう問題じゃないの。逃亡の恐れがなければ逮捕はされないわ。証拠はもうあちらがおさえているから隠滅しようがないし。そんな事はどうでもよくて、大事なのはあなたが書き込んだことのせいでよそ様のご家庭をめちゃくちゃにしてしまったって事。ごめんなさいじゃすまないの。まして自分は悪くないなんて言い分、通る訳ないでしょう」
お母さんはいつもより早口のかん高い声で一息に言い切って、血走った目であたしを睨みつけた。
言ってる内容がどれだけイミフで筋が通らないってわかってないみたいだ。
「はぁ!? 家庭がめちゃくちゃって、自分らが悪いんでしょっ!? お兄ちゃんの事イジメたりするから……っ」
「だからって何をやってもいいって事にはならないの。それに、あなた自身も似たようなイジメをしていて、学校に来れなくなってるクラスメイトが何人もいるそうじゃない。佐々木君だって自殺って噂があるけど……あんたの仕業じゃないの!?」
あたしが当然の抗議をしたのに、お母さんは途中でさえぎって全然違う話を持ち出した。あたしがお兄ちゃんを虐めたやつを晒した事と不登校になってるうちのクラスのゴミクズどもは全く別の話じゃないか。
「何言ってんの!? あたしは指導してるだけ!! リーダーとしてクラスの平和を乱す空気読めないゴミクズどもをちゃんと躾けて皆を守らなきゃ!!」
「何を寝ぼけた事言ってるの!? それがイジメだってどうしてわからないの!? あんたが晒した谷田部さんだって妹の美穂ちゃんをアンタがさんざんイジメて学校来れなくしたのに、
「何それ、美穂のこととお兄ちゃんは関係ないでしょ!?」
「もちろん蒼星にした事については赦せないしあんたのせいにするのはおかしいけど……あんたはそれ以上のことしでかしたのよ!! そのせいで、
「ナニ言ってんのっ!? あたしはクラスの和を乱すゴミに教育的指導をしてやってただけだよっ!! あんなクズどもと一緒にしないでよっ!?」
お母さんはあたしの話に聞く耳を持ってくれなかった。それが何よりショックだ。
あたしは何も悪くない。どうして娘のあたしを信じてくれないんだろう。しっかりしてて可愛くて賢いあたしを「自慢の娘」って言ってくれてたのに。
だけど、あたしが訴えられたことも被害届を出された事も覆しようのない事実で。今更あたしが何を言ったところでどうにもならなかった。
あたしのSNSが荒らされるようになったのはお母さんに訴状の話をされた次の日のことだ。だからあたしは誰にも相談できずに一人で裏切り者と学校で対決する事を選んだ。
ぞの翌日、佐々木の動画の事を先生たちにしつこく訊かれて、あたしは何も悪くないって何回言っても信じてもらえなくて。結局は裏切った奴を絞めるどころか、晒したのが誰なのかを探し当てる事すらできなかった。
結局、あたしが何もかも悪いってことでクラスの他のみんなは一致団結してしまったようだ。
美穂も佐々木も、あたしが命令してイジメさせてた。あたしが怖いからみんな言う事聞くしかなかった。
クラス全体がそんな話でまとまって、あたしは美穂へのイジメや美穂の姉たちへの名誉棄損の他に、佐々木への暴行、傷害、強要、恐喝でも被害届を出されることになった。
生徒も先生も親たちも、みんな知っててあたしを見ると顔をしかめてひそひそと
そんな学校に行ってもしょうがないので、あたしは学校に行くのをやめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます