第105話

『次は御影月さんの自己紹介動画だね。この問題は他の問題と比べても短かったから簡単だよね?』


 次の問題は四天王の一人、御影月だ。


 四天王唯一の男で、日本の男性Vtuberの中で一番チャンネル登録者が多い。


 イラスト、音楽、物語を融合させた動画の投稿が主な活動で、他のVtuberと違う特殊な立ち位置に居る。


 OurTubeだけだと一切素が見えず、近寄りがたい存在に見えるが、ツリッターを見てみるとそんなことはなかったりする。


 男女問わずありとあらゆるVtuberを口説きに行き、絵師が描いたエッチなイラストを大量にいいねするただの変態である。


 当然のように俺もデビュー当時ツリッターで口説かれた。ほぼほぼVtuberを知らない状態で入った俺としては恐怖以外の何者でもなかった。


『そんなわけないだろ!!』


『分かるかこんなもん!!!』


『日本語でも分かんねえんだよ!!』


「せめて真っ当な言語にしてから問題にしてくれ」


 ばけるはクロの時と同じノリで俺たちを煽るが、今回は誰も乗らず真っ向から文句を言っていた。


 理由はクロと違って御影月相手なら何言っても許される風潮があるから、というわけではなく御影月の造語があまりにも多すぎて英語を読むとかそれ以前の問題だったからである。


『ふわふわなパン』の事を『ふパ』と言ったり、『歌枠』の事を『喉見せ』と言ったりしているのだ。どう対応しろと。


 一応自己紹介動画は見た事はあるし、造語についてもある程度は覚えているが、英語に直されたものは流石に解読不可だし、造語の英訳方法は更に意味不明である。



『そっか。そんなにみんな自信あるんだね。じゃあ早速みんなの解答を見ていこうか』


『話聞いてた!?!?』


『じゃあ早速問題だね。一つ目は【Shif】を訳せだね。皆の解答は——』


 そこからの答え合わせで出てきた解答の9割は大喜利だった。


 どう頑張っても分かるわけが無いのだから当然である。


 俺は大喜利が苦手なのでそれっぽい回答を書いて逃げたわけだが。


『答え合わせしている時に思ったんだけどさ。真面目にやった、皆?』


 ばけるはどう考えてもふざけてくださいと言っているようにしか見えない問題で大喜利をした面々に対し、怒ったような口調で質問してきた。


『問題が真面目じゃないのに真面目にやっても意味ないでしょうに』


 とストレートに答えてきたのは誰よりも真面目にふざけた回答をしてきた修士だった。


『だからといってせめて可能性は残してよね?こんな正解が100%ありえないものにはしないでよ』


『どんな解答でも0%はありえない。私はこれを修士課程で学びました。だから私は当時の月さんが言っていた可能性に賭けたんです』


『……自分の出した答えを振り返ってから言ってくれないかな?』


『私の解答ですか?【12月25日、Depp東京にて修士初のワンマンライブ開催決定。テーマは『現実逃避』。会場、オンライン共にチケット販売中です。この日くらいは全てを投げ出して全力で楽しみましょう!】ですね』


 修士はこの問題が全員がボケるタイミングだと読み切り、自身の宣伝をしていた。


『放送後に宣伝タイミングはあるんだから今しなくてもいいでしょ?』


『別に宣伝なんてしていませんが?月さんがどんな事を言っているのかを想像し、最適だと思う答えを考えた結果ここに行きついたんです』


『さっきと言っていることが180度違うけど?』


 真面目な回答の結果だと押し切ろうとしていたが、先ほど真面目に答える価値が無いだろと言っていたので流石に無理がある。


『それは他の人の気持ちを代弁しただけで実際に私が真面目じゃない回答をするといったわけじゃありませんから』


『どれだけ真剣な顔で言っても流石に無理しかないよ』


『というわけで次に行きましょうか。次の問題は……』


『修士くん!?!?』


 静止しようとするばけるを横目に勝手に次の問題について解説を始めようとする修士。


 ……どうして俺たちの解答と模範解答を握っているんだよ。



『はい、というわけで色々ありましたが、全教科終了しました。これからお待ちかねの順位発表といきましょうか』


 暴走した修士を止めた後の答え合わせでは特に事件は起こらずに、淡々と進み遂に結果発表となった。


 とりあえずながめより高得点だったら良いか。

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