第86話
「お疲れ様、また今度な」
『ありがとうございました~』
『ちょっと待って!!!!』
その流れで俺とターバンは通話を切断しようとしたのだが、ながめの大きな声によって遮られた。
「なんだ?変な事でもあったか?」
『ターバンさんがファンアートを自重していたってどういうこと?』
「ターバンはイラストレーターとして結構な影響力があるからな。突然特定のVtuberのファンアートを大量に投下しだしたら本人に迷惑だろうってことで避けていたんだよ」
『別に迷惑ではないけど。ファンアートって嬉しいよね?』
「ファンアート自体は嬉しいな。だが、こいつの場合ながめのイラストを描くペースがあまりにも早いのが問題なんだ」
『そんなに早いの?』
「ああ。ながめの配信が2回あれば最低1枚は描いているぞ。ながめの配信頻度は週5とか6だろ?分かるな?」
酷いときは1回の配信に対して2枚描き上げたこともある。イラストレーターじゃないのでちゃんとした感覚は分からないが、明らかに異常だろう。
『イラストレーターとしての仕事もあるはずなのに凄く早いね……』
「だろう?ながめはそんな高速で上げられる絵に対して反応を強要されるんだ。ターバンの知名度が高いせいでな。しかしそんなことをしてしまうと特定のファンに肩入れしすぎだとファンから文句が出て炎上しかねない」
『確かにあり得る話だね……』
ながめは納得したように頷いていた。何か思い当たる話があるのだろうな。
「これはついでだが、俺とながめがコラボしている理由がターバンが絵を描きまくって圧力をかけたからだって変な勘繰りをされないようにってのもあるらしい」
推しと友人が仲良くコラボしているのにターバンは殆ど関わりを持てていないのだから、嫉妬心はかなりあってもおかしくないのだがな。
『ターバンさん、優しいんだね』
『あ、いやそんな……単に俺が無理やりVtuberにしたやつを俺が炎上させるのは筋が通らないからであって……』
ながめに突然褒められたターバンは分かりやすく慌てていた。
「それを優しいって言うんだぞ」
『ただ仕事をする社会人として当然なことをしただけだ!』
「高校生だがな」
『高校生だろうが仕事をしていれば立派な社会人だ!』
「それは立派な心掛けなことで」
ターバンがそう言う割に結構な頻度で締め切りに間に合わない間に合わないと焦っている様子を見かけるのだが、ツッコむべきだろうか。
「っとこれ以上話していたら明日に響くな。ながめ、今日はありがとう。またな」
この調子で話していると11時を回ってしまいそうだったので早々に切り上げることにした。
『うん、またね。ターバンさんも今日はありがとう。またコラボしようね』
『勿論です!ありがとうございました!!!』
そして俺は通話を切り、パソコンの電源を落としてから部屋を出た。
「一真!最高の一日だった。ありがとう!!!!」
すると扉の前で待ち構えていた樹が、俺の手をぶんぶんと振り回してお礼を言ってきた。
「それはよかった」
どこからどう見ても俺とコラボするための中継役として使われただけなのだが、本人が幸せと感じているのなら良いか。
「色々と話したい事があるからこっちに来てくれ!!」
「明日学校早いんだけど」
「別に1日くらい良いだろ?それに遅かったらここから学校行けばいいじゃねえか」
「あのなあ……」
「ほら、どうせ学校に教材は全て置いてきてるんだろ?」
「そうだけどな……」
こっちは身バレを避けるために葵に不審がられてはいけないんだよ。
「ってわけでリビングに行くぞ!」
「分かったよ」
まあ、今日の葵はさっきまでのコラボを楽しそうに振り返るだろうから俺に意識が行くことは無いか。
「よし、じゃあまずは……」
そして俺は12時過ぎまで今日のながめがいかに素晴らしかったかを語り続けられた。
「楽しかった!おやすみ!」
「ああ、おやすみ」
樹による長い長い話が終わった後、俺は寝る前にエゴサを始めた。
「あ」
エゴサを始めて早々に飛び込んできたのは、散々ながめがコラボ名を付ける理由を話していたのにコラボ名付けないまま終わってね?という指摘のツリート達だった。
完全に忘れていたな。明日にでも連絡して決めておくか……ん?
更にエゴサをしていると、見たことも聞いたことも無いハッシュタグでツイートしているリスナーが大量に見つかった。
そのハッシュタグとは『#無名コラボ』だった。
なんだと思いそのタグで検索をしたところ、どうやらこれはリスナーが勝手に作ったタグらしい。3人が名前を付け忘れているのであれば勝手に俺たちで付けてやろうぜという感じで出来たらしい。
確かに名前は付けなかったが無名コラボって色々響き悪いだろ。それに一応全員有名人だぞ。
まあインパクトとしては強いのでツリートで何か文句を言うことなくそのまま放置することにした。
後日無名コラボになったことに気づいた葵が若干へこんでいたのだが、それはまた別の話だ。
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