第76話
「なんのためだ?」
『それぞれが別の場所に移動していることを気取られないためだ』
「音声だけ聞いてゲームに集中していたとしても普通にウォールハックでばれるだろ」
いくらプレイ中に相手の画面を見る余裕が無かったとしてもゲームで常に位置を確認できるだろうから意味がない。
『普通はそうだが、今回はゴースティングとは関係ない別パーティが居たから確認は少々難しいのだ』
「なるほど。IDの判別とかまで出来るウォールハックは稀だものな」
探せばあるのだろうが、文字で画面が見にくくなるだろうし無駄に値も張るだろうからわざわざ買うやつは居ないだろう。
『最後に上から突っ込めと指示したのは、上に居るパーティの中にヤイバが居ると勘違いさせるためだ』
「大体は分かった。しかし、引っ掛かるか普通?サロメが一人で飛び上がって俺が取り残されたのも一人で下に居続けたのもちゃんと見ていれば誰でもわかるぞ」
多分FPSを殆どやっていない人間がチーター側の視点だったとしても半数くらいは気付くだろ。動きはしっかり見えているのだから。
『これに関しては相手が馬鹿だからとしか言いようがないな。チートを導入するのにも金がかかっている筈なのに、わざわざ配信者のゴースティングをするのだから』
「普通にチートを使うよりも圧倒的にBANされやすいから自己顕示欲を満たすためのリスクが高いってことか」
『ああ。なんなら配信者に訴訟されるリスクがあるからな。個人勢のヤイバはともかく企業勢の私は比較的しやすいからな』
「訴訟しやすいのか」
『そうだ。知名度や人気度、Vtuberの在籍数で言えば上の箱は数多くあるが、うちの会社は長い方だし親会社もかなり大きい会社だからな』
「そうなのか」
『だから今頃マネージャーが動いているだろうな。ゴースティングチーターよ、震えて待て』
「これを見た視聴者は絶対にこんなことするなよ。企業にボコボコにされるからな」
とここまではっきりと忠告してからはゴースティングチーターなんて相手が現れることは一切なく、いたって平和な配信となった。
『よし。10キル2000ダメージだな』
「やるな」
『そっちこそ。8キルもしていてダウン0だろう?』
「今回は後衛で戦ったからな。後衛が死んでどうする」
『それでも凄いがな。終盤は殆ど私と変わらない立ち位置だっただろう』
「それは俺が強いからだな」
とは言っても画面で繰り広げられている戦いに関しては視聴者がドン引きするレベルだったのだが。
『何はともあれ、ゴースティングチーターで削られたポイントは取り返した上にポイントを結構盛ることが出来たな』
「そうだな。俺が300位でサロメが47位か」
俺は100個近く順位が上がり、サロメも3個ほど順位を上げた。
上に行けば行くほど当然順位は上がりにくくなるのでかなりの収穫と言えるだろう。
『私としてはこの調子でもっと続けたい所だが、今日は時間が来てしまったからここまでだな』
「そうだな。お互いに明日の用事があるからな。絶対にまたやろう」
『ああ。というわけでまた次回、よろしくな!』
「またな!」
途中で色々な事があったが、最終的には無事に配信が終了した。
それから軽くサロメと今後のコラボについて話し合った後、解散した。
「さて、今日の配信はどうだったかな」
それから配信部屋を出て、家に帰ってから今日の配信のエゴサをしてみた。
すると『Vtuber最強コンビ誕生』だとか、『プレデター47位』等俺とサロメの強さに言及するコメントが多数見つかった。
会話自体も割と良かった気はするのだけれど、それ以上にあの強さの方が目立つよな。
「プロも結構見ているんだな」
そんな話題を聞きつけたのか、それとも俺たちのファンだったのかは分からないが、俺たちについてVALPEXのプロが多数反応を見せていた。
「プロは凄いな……」
大半のプロはただただ俺たちのプレイを賞賛してくれていただけだったが、何人かはこの局面だと突っ込まない方が良いとか、俺やサロメのエイム力と立ち回りだったらこちらの方が合っているかもしれないとアドバイスをくれていた。
そしてそんなアドバイスをくれていた人も俺たちの実力が足りないと言いたいわけではなく、これが出来ればプロになれるといった趣旨のコメントだった。
プロがVtuberの皮を被ってVtuberっぽく配信しているケースはあるものの、Vtuberがプロになるケースが現状存在しないため俺やサロメがプロになることは難しいだろうが、VALPEXが強くなれば配信がより一層盛り上がることは間違いないので非常にありがたい。
「完全に大成功だね」
サロメとの配信も大成功だった。
途中で炎上騒ぎはあったものの、無事に解決したことだし総じて大成功だろう。
クロから半ば強制的に依頼された今回のコラボウィークだが、受けて良かったな。
そんなコラボウィークが終わってから二日ほどが経ち、俺はいつも通り葵の家で料理を作っていたのだが、
「ねえどうしたの?」
「なんでもない」
何故か葵がやたら不機嫌なのである。
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