音楽嫌いの天沢君

平岡 和

第1話 出会い

音楽が多くの人の心の拠り所となり、多くの人が音楽を作っている日本では、毎週のように音楽の人気ランキングが変動している。しかし、ここ数年である1つのグループが1位と2位をずっとキープし続けている。そのグループの名は『キキナ』。男1人女2人の計3人からなるバンドグループは、中高生を中心に人気が高まり、今や日本でこのグループの名前を知らない人はほぼいない。だが、人気絶頂だった約3年前に突然無期限活動休止を発表すると表舞台から姿を消し、現在も進展はない。それでも1位と2位をキープしている様子から『消えた伝説』と呼ばれている。最近では、このグループを人気ランキングで抜かそうと日々多くの人が世の中に音楽を発信している。そんな音楽の絶えない日本で生活している天沢樹あまざわいつきはあまり音楽を好ましく思っていない。

学校からの帰り道、今日は先生の手伝いをしていたためもう外は暗くなっていた。いつもと同じ帰り道を黙々と歩いていると、ギターの音と共に歌声が聞こえてきた。いつもなら無視していくだけなのに、何故だかその時は体が勝手に音に釣られた。もう音楽とは関わらないと決めたのに。気づけば小さな公園に来ていた。昔はよく遊んでいた見覚えのある公園だった。そこに1人の少女がギターを弾きながら歌っていた。


♢♢♢♢♢


 私、七瀬佳奈ななせかなは今日、ここに引っ越して来た。ママに頼まれて荷物の整理をしていたけど飽きてしまったのでギターを持って家をこっそり飛び出してきた。朝、車で家まで行く際に見つけた小さな公園に向かった。公園に着いくとすぐギターを弾いて歌った。私の作ったオリジナルの歌は完璧ではないけれどなかなかの自信作だ。歌い終わってまわりを見ると私と同じくらいの歳の男子高校生がいた。私はこの自信作の感想を聞くべく、その男子高校生に近づいた。


「ねぇ、私の歌どうだった?」


驚いた反応を見せる彼を見て私はクスクスと笑う。


「どうって、よかったんじゃない?」


「なんで疑問系なんだよ。」


「ごめんなさい。」


「謝らなくていいって。私七瀬佳奈。君は?」


「天沢樹です。」


「天沢君かぁ〜。よろしくね。」


「よろしくお願いします。」


「それで...」


続きを言いかけた時、スマホが鳴った。


「ママからだ。ごめん天沢君また明日。」


(また明日?)


俺は最後の言葉に疑問を持ちつつも七瀬さんと言う人と別れ、家に向かってまた歩き出した。



翌日


いつも通りの登校を終え、クラスの自分の席に座る。今の俺の先は1番後の端っこの席。幸い隣がいないことで静かに授業に取り組める席だ。朝のホームルームが始まるまで本を読んで時間を潰す。これが俺の朝のルーティーンだ。


「おはよう。天沢。」


「おはよう。」


今挨拶をしてきたのは田中敦たなかあつし。俺の席の前の席と言うこともあり、この席になってからはよく話すようになったクラスメイトだ。時間になり担任の綾瀬愛希あやせあき先生が教室に入ってくる。いつも通りの何の変わりのない朝のホームルームが始まると思っていたが今日は違うようだ。


「今日は転校生を紹介しようと思います。入ってきてください。」


クラスがざわつき出す。


「女子だといいな。」


田中が俺に言ってくる。正直俺はどっちでもいいのだが、まさかな。

俺の予感は見事的中し、昨日の少女が入ってくる。

クラスの男子は喜びを爆発させクラスは動物園と化した。確かに客観的に見れば昨日あった七瀬さんはかわいい部類に入ると思うがそこまで興奮することか?


「七瀬さん自己紹介を。」


「七瀬佳奈と言います。よろしくお願いします。」


自己紹介が終わると田中が急に立ち上がった。


「七瀬さんって彼氏とかいたりしますか?」


「いないけど...」


返事を聞いた途端またクラスの男子は騒ぎ散らかしクラスに動物園が再来した。

綾瀬先生は周りを見渡し、空いていた俺の隣の席を七瀬さんの席にするよう指示をし、七瀬さんは俺の隣の席に座った。


「よろしくね。天沢君。」


そう七瀬さんは俺に向かって言う。すると田中は俺の肩を掴んで揺らしながらどう言うことか問いただしてくる。


「ひ・み・つ」


七瀬さんが意地悪そうな顔でそう言う。


「どう言うことだぁ〜」


田中が騒ぎ出す。

俺の平穏な学校生活の終わりをこの時実感した。

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