8 いざ、鞍馬山へ!
下関から新幹線に乗って京都を目指した。とは言っても、帰りにチョッと寄り道する感じだ。新幹線の車内でまた、駅弁大会をするのかと思っていたら、卯月とエキドナは大人しくしていた。エキドナは妖の旅館で、一升飯の
帰りの便ではエキドナのスィッチが入らなかったのかも知れない。
「京都って、何が名物かなぁ~?」
卯月はスマホ相手に何か検索していた。
京都と言えば、湯葉と
名前が気になる衣笠丼。一見見ると、親子丼だ。軽く切った油揚げとネギを出汁で炊いて、卵でとじてご飯にかける。シンプルな丼だ。「疑惑の〇民SHOW」で知名度がアップしたそうだ。by卯月談。
そんなこんなで、はい着きました、京都――。
新幹線を降りると、早い昼食にすることにした。グーグル先生の指示に従い、店に着くなり注文した。予定通りのメニューを頼むと十分程度で料理が出てくる。
湯葉。
本当に、よく食うな~! 取らないから、ゆっくり食ってくれよ……。
京都駅から、鞍馬山まで結構な距離はある。知らない場所だから、タクシーを利用した。タクシーに乗って移動するが、京都の道は碁盤の目の様に古都を縦横無尽に走っている。
これは、平安時代に古都を造った時の名残。道に迷っても方向を間違わなければ、辿り着けるそうだが、これが中々の曲者。方向音痴だと、迷路から抜け出せないような気がする。
古都という多くの神社仏閣を残しながら近代的な建物と融合している不思議な都市。
平安時代には安倍晴明という、陰陽師が暗躍していたそうだが、昔には妖怪が居たのか? そういえば、下関には妖が居たな。海座頭や妖の宿もそうなんだな。
京都は不思議な居心地がする都市だ。又今度、京都にくる機会があれば、ゆっくりと、神社巡りをしたいものだ。
ひとり窓の外を見ていると、やがてタクシーは止まる。
「お客さん、着きましたよ。ここからは歩きです。鞍馬寺は有名なパワースポットらしいんで、パワーを沢山貰って帰って下さいね」
「そうなんだ?」
「そうなんですよ、行けば分るさ、
「あれっ? どっかで聞いたセリフ……」
俺達はタクシーから出て鞍馬寺を目指した。
鞍馬寺には樹齢800年の杉の木がある。境内に入った瞬間、ピーンと張り詰めた空気が漂っている。ルークは俺のポケットから出てきて自分の翼を広げ、宙に浮いている。辺りの気配を探っているのだろうか?
本堂には千手観音、毘沙門天、護法魔王を三身一体で祀っている。床には何と六芒星が描かれている。ルークとエキドナは、その六芒星を見てギョッとしていた。
その瞬間、空が一瞬チカっと光った。
「何だ? 夕立か?……」
俺は空を見上げてみたが稲妻らしきものは無く、傍に居たルークとエキドナの姿が無かった。消えたのか? なんだ、辺りの色まで消えてしまったように薄暗く感じてしまう。
側に卯月は居たので少し安心したけど、色が抜け落ちたセピア色の世界って変だ。鳥肌が立ってきた。
「卯月ちゃん、ルークとエナさんは?」
「分からないわ、私達だけみたいだけど、どうしちゃったのかしら?……。聖也さん、ちょっと、何か居るわ」
「何が居るんだ?」
「分からない……。殺気は無いみたいだけど、威圧は凄いわ。これ、何だろう……」
卯月が様子を伺っている最中、空から声が響いて来た。
「そのまま、奥の院まで進むがよい」
何だか分からないが、このままこの場所に居続けるのは賢明ではないようだ。隣の卯月を見ても怖がっていないから、魔物の類ではないようだが?……。ここは、素直に従ってみる事にした。
声の主に従い、本来行くつもりであった奥の院へと向かう。
数分で空を覆う木々の奥に足を踏み入れた。
この鞍馬寺の奥の院へ向かう参道には特徴がある。岩盤が地表近く迫っている為、木の根が地表を覆っていて歩き辛い。昔、牛若丸が天狗と修行した場所らしい。足場が悪いから跳躍の練習になったそうだ。後の八双飛びの起こりだな。
少し変わった雰囲気に俺達は立ち竦んだ。
やがて、ある場所で再び空から声がした。
「
重低音の声が光を遮っているこの場所に響く。
「俺達は、とある理由で三種の神器を捜している。下関の壇ノ浦で、地震の時に海底から何かが浮き上がった物を、翼の生えた人型が取りに来た。と聞いた。だ、だから、調べに来たんだ。天狗の仕業かと思って……」
「何、三種の神器だと?」
「ってか、アナタは一体誰なんですか? 姿を見せて下さい。私は、アナタから邪気は感じられないので、姿をお見せください」
「—―うっむ、良かろう」
卯月の懇願するような言葉に声の主は姿を現してくれた。
—―バサバサバサ—―。
空から、いや何もない空間から、翼の生えた人型の容姿をした者が現れた。
身長は凡そ150㎝位で低い。見た格好は山伏の衣装を着ている。片手には自分より長い穂先には刃も無いし石突きも無い只の長い木の槍を持っている。長い棒だな。
背中越に見えるのは両脇に生えた鳥の様な翼。そして一番驚いたのは、顔が鳥の顏。
「な、なんだ、一体?……」
「我は
「烏天狗?……」
「如何にも、
何だ、この鳥の顏した天狗は?
「ま、待って下さい。烏天狗様。貴方様が言っている西洋の妖は、私達の仲間です。決して悪意の有る妖ではございません」
「果たして、そうと言い切れるのか?」
「まだ、出会って数か月ですが、彼等にとって悪意はございません」
「何と、あれだけの妖力を垂れ流しながら、そのような言い訳を……。口では何とでも言えよう。武を持って示すが良い! 行くぞ――!」
何が何だか分からないが、俺達はこの烏天狗にとっては、招かざる客のようだ。
問答無用に手にした長い槍を振りかざしてきた。
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