幕間 エキドナの引越し
1 後始末
敵対から友好へ急変する美魔女エキドナ。こんな綺麗な人が傍にいてくれると、それだけで嬉しいんだが……。卯月の視線が痛い。なんか俺の胃が痛いんですけど…。
事が一旦落ち着くと、俺は辺りを見回して溜息をついた。戦いの跡地は殺伐として物凄く荒れ果てていた。大くの木々が薙ぎ倒されて、土砂が抉り取られている。どこぞの、戦争地区の空爆にあったような状況だ。
【夏草や、
「ふぅ~卯月ちゃん、この後始末はどうしたらいいと思う?……」
「うぁ! そうよね。こんなになってるとは思わなったけど、エライ事になってるわね。うわ~どうしよう~」
「どうしよ~って言っても、ルークは居ないしなぁ。このまま逃げるか? 逃げるが勝ち! って言うしな」
「ちょっと、聖也さん。こんな時に、オヤジギャグは止めてよ、もう~」
「こんな時にだからこそなんだけどなぁ。でもなぁ……」
俺達がグダグダ言っていると件の美魔女が俺達の話題に入って来た。
「ちょっと、何か問題でもあるのかしら?」
「はぁーって問題、ありノありありでしょうが。どーすんのこの後始末。って、うわースミマセン」
俺は言ってしまった。恐れ多い美魔女に向かってため口だ。後悔の嵐が吹き荒れる。何せ先程までルークの振りまわす剣をエキドナは鉄扇で応戦していたからだ。あのルークの剣を鉄扇で受け止めるなんて、凄まじい能力者だ。いくら記憶を取り戻して俺達と友好関係を保とうとしてくれているが、俺達からしては恐れ多い。
馴れ馴れしい態度の口調を取った俺を怒らないで下さい。その鉄扇で殴らないで下さい。オネガイシマス。女王様。御代官さま〜。ヘヘぇー……。
「何が、問題なのかしら?」
相変わらずのポーカーフェイスで振る舞う美魔女。よかった。気にしてはいないようだ。命拾いした感じで、ほっと胸を撫で下ろした。
俺の替わりに卯月がフォローに入る。
「あの~この辺り一帯が、エライ事になってしまって……。どうしましょうか?」
「なにかしら? エライ事って? 意味が分からないわ」
確かに魔界の住人には分からないだろう。幾ら未開の地。富士の樹海とはいえど、空爆の跡の様になっている。この辺りは民間や空軍の領海だから荒れ野原になっているのは上空の飛行機から見れば直ぐにもバレてしまう。
俺は、ふと思った。前回のインキュバスの戦いの時には、多くのビルや道路は残骸と化したが、一夜明けると元の状態に戻ってしまったじゃないか。今回のこの荒れた樹海も元に戻るんじゃないんだろうか? ルークが居ないから試しに聞いてみるか?
「あの~エキドナさん?」
「なにかしら? エナでいいわ。アナタ、名前は?」
「あ、はい聖也です。あの、エナさん。この戦後の荒れ野原ってどうにかなりますか? 勝手に元に戻っちゃったりしますか?」
「セイヤね。はぁ~何なの? 勝手に元なんか戻る訳ないじゃない。何言ってんの? そんなの無理無理! でも~
「——えっ——! 元に戻せるんですか?」
なんだ? 今回は勝手に元に戻らないのか? それでもこのエキドナは元に戻せるという。疑問は後でルークが目覚めたら聞けばいい。
取り合えず、この状態を修復出来るなら直して欲しい。航空自衛隊に見つかりでもしたら、他国のミサイルによる侵攻かテロ行為と取られ、戦争になってしまうかも知れない。つい最近も北の某国は、ミサイルを打ち上げてはこの国を挑発しては喜んでいる。一体何がしたいんだ? あの太っちょは?
「エナさん、元に戻して下さい。お願いします」
俺はエキドナに深く頭を下げた。
「うむ! 任されたわよ。よ~く、見ててごらんなさいな」
そういうと、エキドナは右手に持っていた大きな扇を畳む。畳まれた扇は杖に姿を変える。その杖を地面に向けて突き刺した。
「
鈴の音のような透き通る声が、エキドナの口から洩れる。すると突き刺した杖の先から地面にヒビが入っていく。そのヒビ割れは破壊されつくした樹海の残骸へ向かって伸びていく。まるで蜘蛛の巣が広がる感じだ。
ビシビシビシ――――。
大地を揺るがす振動が辺り一帯に伝わっていく。すると、どうだろう? ビデオの逆再生を見るかのように倒れた多くの木々や、抉れた地面が元に戻っていく。その状態を見て、俺と卯月は同時に声を上げた。
「「うぅ~ひゃぁ——! すんご~い~」」
見ていて気持ちいい。あっという間に樹海は元通りになった。俺達のアゴは驚きで開きっぱなしだ。久々のアゴンゲリオン発進!だ。ガオォ~ン!
すっかり元通りになるとエキドナは俺達に向かってドヤ顔で胸を張った。
「どうかしら?」
豊満な美乳が更に胸を張る事で、俺の視線はエキドナの胸に全集中常中する。誠にもって、実にけしからん胸だ。もう~鼻の下が伸びるじゃないか~ウホウホってな。
俺の事は放っておいて卯月がエキドナに話かける。
「エナさん~。さっきのは一体どうやって、どうなったんですか? 凄いです~」
エキドナを見る卯月の瞳がキラキラしている。まるで憧れの人をみる目だ。卯月ちゃん~目に星が浮かんでいるよ。
「アタシはね。
「すご~い。お姉サマって呼んでいいですか? 私も、そんな術使いたいな~」
「なに言ってるの? 人間のアナタに出来る訳ないじゃないの。あなた名前は?」
「卯月っていいます。お姉サマ、私、木や花と話せるんです」
「ウーツキね。まぁ、アナタそんな事が——」
卯月とエキドナは話が盛り上がっている。楽しげな会話が弾んでいる。まるで女子会じゃないか。卯月ちゃん、百合に走らないでくれよ……。
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