第17話 水族館②


『みなさん、こんにちはー!』


「「「こんにちはー!」」」


イルカショーのお姉さんの掛け声に、子供達が反応する。よく見ると、親子連れの人が多いように見える。


『さて、今日はイルカショーに来てくれてありがとう!』


『今日頑張ってくれるイルカさん達を紹介するよー』


お姉さんが、一匹ずつ名前を呼び合図を出すと、一匹ずつ水面から大きくジャンプする。


会場中から盛大な拍手が送られた。


「わぁ、すごいね!」


「あぁ、初めて見るけど、凄いもんだな」


初めて見るイルカショーに俺達は、終始興奮気味だった。水上から、かなり上に吊るされたボールを尻尾で叩いたり。飼育員さんが投げたフラフープをキャッチしたりと、イルカ達はかなりの芸達者だ。


『では、次が最後になりまーす!』


『前列の方にいる方たちは心の準備をして下さいねー!』


も、もしかして、水飛沫が飛び散るアレが来るのか?


「ね、ねぇ、もしかしなくても来るよね」


「あぁ、てか、もう来そうだぞ」


『3、2、1、ゴー!』


掛け声と共に、イルカ達が一斉に飛び出した。そして、勢いそのままに、水槽のふちぎりぎりにダイブした。


「うわぁ、冷たーい!」


「すげぇ濡れた」


「もうびしょびしょー」


イルカ達の勢いは想像以上に凄く、水飛沫はかなりの範囲に広がった。もちろん俺達もびしょ濡れだった。


「これじゃあカッパも意味ないね」


「そうだな。でも、服はほとんど無事だったからよしとするか」


俺達はイルカショーを楽しんだ後、残りの水族館内を見て回った。巨大なマンボウの剥製が置かれていたり、エサやり体験など様々なコーナーを見て回ったが、香織が一番食いついたのが、クラゲのコーナーだった。


様々な色の照明で照らされたクラゲ達は、見る者を惑わす謎の魅力があり、とても幻想的だった。


「見て見て、ハルくん。クラゲだよ〜、可愛いよ〜」


「香織はクラゲ好きなのか?」


「クラゲ可愛くない?一匹くらい持ち帰りたい気分だよ」


「ははは、よっぽどだな」


流石に、水族館にいるクラゲを持ち帰るわけには行かないので、帰り際にクラゲのぬいぐるみを買ってあげることで手を打った。


ーーーーーーーーーー



「ハルくん、今日はありがとね。連れてきてくれて」


「いや、香織とデートしたかったし、俺の方こそありがとう」


俺達は水族館から出ると、敷地内にある有名スポットを目指す。


この水族館には『幸せを呼ぶ鐘』というものがあり、鐘を鳴らすと、一緒に鳴らした人と幸せになれるというものだ。家族で鳴らす人ももちろん多いが、一番は恋人や恋人未満の人達が鳴らすことが多いらしい。


例の鐘のところには、水族館の従業員が一人待機しており、お客さんに説明したり、写真を撮ってくれたりしてくれるらしい。


「こんにちは、説明は必要ですか?」


「いえ、大丈夫です。写真撮ってもらっても大丈夫ですか?」


「いいですよ、では鐘のところに並んでください」


俺達は、鐘から垂れているロープに手をかけると、従業員さんの方へ向き直った。

俺達がきた時は、たまたま空いていたが、タイミングが良かったのか、今は行列ができている。


『すごーい、美男美女のカップルだよ』


『あ、私あの男の人知ってるよ!』


『私も知ってる、HARU様でしょ!?』


なんだか注目されてるな。早く済ませて移動しなくちゃ。


「ハルくん、人気者だねぇ。てか、すっかり有名人」


「そんなことないさ。たまたまだって」


「なんだか、ハルくんが遠くに行っちゃいそう」


香織は笑顔だったが、なんとなくしょんぼりとして見える。俺は、そっと香織を抱き寄せた。


「ずっと一緒にいる。約束だ」


俺は、香織の額にキスをした。


「えへへ、うん!ずっと一緒だよ」


良かった、元の香織に戻ったようだ。一安心だ。


「いやぁ、ラブラブですねぇ。いい写真が撮れましたよ!」


手渡された携帯を見ると、ちょうど俺が香織の額にキスをしたところであった。まさか、このタイミングで撮られるとは思わなかった。恥ずかしかったが、この写真を見ると幸せな気分になる。


『羨ましいなぁ。あんな彼氏欲しい〜』


『私の彼氏はあんなことしてくれないわ。いーなー』


やべ、注目されてる。さっさと移動しないと。


「香織、そろそろ移動しょうか」


「うん、行こっか」


俺達は手を繋ぐと、その場を移動するため、人混みから離れていった。しかし、俺達はすぐに呼び止められてしまった。


「すみません!」


「はい?」


俺達が振り返ると、数人の女性がそこにはいた。さっき、俺のことを知っていると言っていたグループだ。


「あの、HARU様ですよね!?」


「私達ファンなんです!」


「サインください!!」


まさか、俺を知っている人に出会うとは。世間は狭いもんだ。しかしサインか。そんなの考えてなかったなぁ。


俺が困っていると、ちょん、ちょんと隣から香織が俺の肩を突いていた。


これ見て、と渡された携帯には、誰かのサインが書かれていた。


「これ、私が考えたハルくんのサイン。どう?」


「え、これ俺の?使っていいのか?」


「うん、もちろん。じゃんじゃん使って下さい」


「ありがとう」


俺は、香織が考えてくれたサインを頭の中に焼き付けると、目の前の女性達にサインをしていった。サインを書くものは皆バラバラで、一様に同じものはない。ハンカチだったり、俺が載っていた雑誌、携帯の背面なんて人も中にはいた。


「ありがとうございました!」


「すみません、写真もいいですか?」


「もちろんいいですよ」


サインを書き終えると、次は写真をねだられた。ツーショットはお断りして、みんなで撮ることにした。


「「「ありがとうございました!」」」


「いいえ、こちらこそ」


ふぅ、やっと解放された。


「香織、あっち行こう」


「うん」


やっと解放された俺達は、この辺でパンケーキが美味しいお店があるとのことで、そこに移動しようとしていた。


そんな時、ある人物に遭遇した。


「やっと、見つけました。HARU様!」


振り返ると、先日スタジオでお会いした女優さんだ。こんなところで会うなんて驚きだ。


「あっ、田沢桃華!」


「そういうあなたは、HARU様の彼女さんですね」


なんだか険悪な雰囲気を感じる。2人とも笑顔だが、そんな時ほど女性は怖いものだ。


「まぁ、あなたは放っておいて、HARU様お久しぶりです!」


「あ、あぁ、久しぶり?昨日合わなかった?」


「一日会えないと寂しいですよー。そうだ!今、近くで撮影してるんですけど、お暇なら見学どうですか?」


「へぇ、撮影か。興味はあるけど・・・」


香織とパンケーキを食べに行くところだからな。ここは断ろう。そう思ったのだが。


「撮影行きたい!」


香織は目をキラキラさせていた。これは、もうパンケーキのことは忘れてるな。仕方ない。


「じゃ、じゃあ行ってもいいかな?」


「是非!あなたもついでにいいですよ?」


「私とハルくんはセットなの。一緒に居るのは当たり前よ」


ふん、と勝ち誇った香織に対し、苦虫を噛む表情の田沢さん。2人とも仲良くしてくれると嬉しいんだけどな。



ーーーーーーーーーー



「監督、すみません」


「おぉ桃華ちゃん。どうしたの?」


大柄な男性で、サングラスをかけた人物に話しかける田沢さん。どうやらこの人が監督のようだ。なんだか、すごく優しそうな人だ。


「あの人達、私の知り合いなんですけど、端っこで見学しててもいいですか?」


「知り合い?」


監督と思われる男性がこちらを見る。しばらくこちらを見ていたと思ったら、こちらに向かって歩き始めた。


「もしかして、HARUくんかな?」


「え、は、はい、そうですが。僕を知ってるんですか?」


「あぁ、もちろん。うちの子がファンみたいでね。いつも写真を見せられるんだよ」


「そうなんですね。ありがとうございます」


とりあえず、お礼を言ったが、俺の写真を度々見せられる監督さんには申し訳ない気持ちが込み上げる。


「いやーこうして見ると、本当にイケメンだね?今度僕の作品に出てみない?」


「えっ、作品って、ドラマとかですか?」


「そうだよ。君なら絶対良い画が撮れると思うんだよね!」


返事に困ってしまったが、「まぁ考えといてよ」と言われてしまったので、とりあえず恵美さんに相談して見るか。


「じゃあ、見学してて大丈夫みたいなので、HARU様、私頑張るので見ててください!」


「うん、ありがとう。頑張ってね」


「はい、頑張ります!」


それだけ言うと、タタタタッと走っていってしまった。その後、しばらく撮影を見学させてもらった。見学をしているうちに、恵美さんに先ほどの監督の話をしたところ、「今すぐ行く!」と言って電話を切られてしまったので、到着するのを待った。

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