ノヴァの過去です
オヤツを食べてひと心地ついた頃、ノヴァがそろそろ帰ると言ったのだ。セネカたちは帰ってほしくないと不満げだ。私も驚いてしまった。ノヴァはこのまま私たちといてくれると思ってしまっていたからだ。私はノヴァと別れてから、ずっと心配していたのだ。こんな小さな子供が一人でどうやって暮らしていたのだろう。私といれば、ご飯もお家も用意してあげられるのに。私はノヴァに、このまま一緒にいないかと提案する。セネカたちもそうしろとはやし立てた。ノヴァは少し黙ってから、私たちを見回し、話し出した。
「もみじたちはいい奴らだから話す。俺は弟を探しているんだ」
「ノヴァに弟がいるの?」
ノヴァはうなずいて話し出した。
「俺たち竜人族は、寿命は長いが繁栄ができないんだ。人間とは逆だな。俺は父ちゃんと母ちゃんが大分歳をとってから生まれたんだ。父ちゃんは俺が生まれてすごく喜んで可愛がってくれた。でも俺が小さい時に死んじまった」
「お父さんはいくつだったの?」
私の問いに、ノヴァは寂しげに笑いながら言った。
「二千歳だから大往生だよ」
「二千歳?!」
私は驚きのあまり大声を出してしまった。ノヴァは続ける。
「母ちゃんは自分も、俺を置いて死んでしまう事をすごく心配してた。だから、人間の男と再婚したんだ。母ちゃんは年齢は二千歳近くだったけど、見た目は三十歳くらいの女に見えたから、人間の街で人間の男に見初められたんだ。母ちゃんは、俺が一人にならないように、人間の男と結婚して、俺に弟か妹を残してやりたかったんだ。竜人族は半獣人でも寿命が長いからな。母ちゃんは妊娠した。竜人族は出産する時、竜の姿にならないといけないから、母ちゃんはみおもの身体で俺を連れて山に行ったんだ。再婚相手の人間の男には、出産で里帰りするから待っていてくれと念を押して。だけど不審に思った男に後をつけられていたんだ。男は母ちゃんが竜になって子供を産んだのを見てしまったんだ。男は、赤ん坊を連れた母ちゃんと俺を素知らぬ顔で迎えた。そして産後の肥立ちが悪い母ちゃんがベッドにふせっている時に、赤ん坊を連れて姿をくらました。男は生まれたばかりの弟を金持ちに売ったんだ。竜人族はとても珍しいから、半獣人でも高値で売れるんだ」
「ひどい、自分の子供を売るなんて」
ノヴァの話に私は驚いて呟く。ティアナはうつむいて、じっと下を見ていた。ティアナも同じだ、人間である自身の父親に売られたのだ。ノヴァはフゥッと息をはいてから、苦いものを口にしたように顔をしかめた。ノヴァにとって話したくない事なのだろう。ノヴァはキュッとくちびるをかんでから話し出した。
「母ちゃんは、売られた赤ん坊を必死に探し続けた。俺を乗せて千里を飛び回った。だけど力つきて死んじまった。母ちゃんが死ぬ前に言ったんだ」
ノヴァは自身の胸元から赤い宝石のペンダントを取り出す。私がノヴァからもらったペンダントとよく似ている。
「これは母ちゃんが弟のために作ったペンダントだ。母ちゃんは、弟を必ず探し出してこのペンダントを渡してくれって言ったんだ」
私は胸が苦しくなった。小さなノヴァが必死になって、もっと小さな弟を探しているのだ。私はノヴァに聞いた。
「ノヴァ、弟の名前はなんていうの?」
「フォルトゥーナ」
「綺麗な名前、早く弟をその名前で呼んであげたいわね」
私の言葉にノヴァはうなずいて、また話を続けた。
「俺は母ちゃんの思いを継いでフォルトゥーナを探し続けた。俺は半獣人は奴隷市場にいると考えて、奴隷市場に乗り込んだ。だけど人間にだまされて拘束首輪をされて捕まっちまった。それでもみじに助けてもらったんだ」
私はしゃがみこんでノヴァを抱きしめた。ノヴァは身動きせずそのままだった。
「大丈夫よノヴァ、フォルトゥーナはきっと見つかるわ」
ノヴァはうなずいた。私はノヴァの肩に手をおいて言った。
「ねぇノヴァ、おみやげを持っていって、何がいい?」
ノヴァは少しモジモジしてから、どぉなつ。と言った。私がノヴァと最初に会った時に食べたお菓子だ。私はうなずいて、小麦粉、砂糖、バターを出して、それらに手をおいた。するとたくさんのドーナツになった。外側はサクッとして、中はモチモチだ。私はそのドーナツをビニール袋にいれて、さらにショルダーバッグに入れた。ノヴァが竜になった時に首にかけるためだ。ノヴァは喜んでありがとうと言ってくれた。ノヴァは帰り際私に質問した。
「もみじ、あのリュートって奴何者だ?」
「リュートは半獣人よ。でも何の半獣人かわからないわ」
私が答えると、ノヴァは少し考えるそぶりをしてから答えた。
「リュートは竜人族の半獣人だ」
そういえばリュートもノヴァの事を気にしていたなと思い出した。同じ竜人族同士なにか感じるものがあるのだろうか。ノヴァは竜の姿になり、私はノヴァの首にショルダーバッグをかけてやる。セネカとヒミカは口々にまたな、とかまた遊ぼうね、とか言っている。ティアナはヒミカの後ろでモジモジしていた。きっとティアナもノヴァと離れるのが寂しいのだろう。私はノヴァに、またね。と言うと、ノヴァはうなずいてくれた。ノヴァは空に飛びあがり、彼方に消えていった。
ノヴァが帰ってしまうと、子供たちは寂しくなったのか元気が無くなってしまった。その後は私のマンションの部屋に入ってゆっくりした。夕ご飯はちゃんと作ってあげたかったハンバーグにする。牛と豚の合挽き肉に塩、コショウ、ナツメグ、ゼラチンを入れて粘り気が出るまで混ぜる。四当分に分けて、小判形に形を作って、真ん中を少しくぼめる。油をしいたフライパンで焼く、三分くらいしたら裏返し、水を入れて蓋をして蒸し焼きにする。ハンバーグを押して肉汁が溢れ出たら焼けた証拠。ハンバーグをお皿に取り出し、ハンバーグを焼いた残りの肉汁にケチャップ、ソースを入れて、ハンバーグソースにする。付け合わせはニンジンのグラッセとマッシュポテト。トマトときゅうりとレタスのサラダ。コーンスープ。焼きたてのパン。子供たちは美味しい美味しいと喜んで食べてくれたが、心なしか元気がなさそうだ。今日は早くベッドに入った。明日はセネカとヒミカのお母さんを探すため、獣人の自治区に行かなければ。
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