監獄ライフです

 私たちはお城の地下にある牢獄に連れていかれた。その牢は石造りで、粗末なトイレしか無かった。牢は鉄格子がはめられていて、牢の外には兵士が一人見張りに立っていた。セネカとヒミカは牢の中に入ってからずっと下を向いていた。無理もないだろう、殺されるかもしれなかったんだから。私はセネカたちの側にしゃがみこむと、二人に優しく話しかけた。


「セネカ、ヒミカ。ごめんね、怖い思いをさせて」


 私の言葉にセネカはゆるく首を振る、そして小さな声でうめくように言った。


「どうして、どうしてもみじは俺たちを命がけで守ってくれるの?」


 私は驚いてセネカたちを見た、二人は大きな瞳に涙を浮かべていた。私はほほえんで答えた。


「それはね、セネカとヒミカの事が大好きだからよ」


 セネカとヒミカが、ハッと息を吐いた。そして私に勢いよく抱きついてきた。


「俺も、もみじが大好き!」

「私も、私ももみじ大好きよ!」


 私は二人を強く抱きしめた。私は心に誓った、絶対にセネカとヒミカを守ると。その時鉄格子がガンッと音を立てた。音を立てた方を見ると、監視の兵士が鉄格子を足で強く蹴ったのだ。兵士は私に大声で叫んだ。


「おい!聖女!獣人なんか放っておいて、俺たち人間を助けろよ」


 兵士が憎々しげに私を睨む。私も負けじと兵士を睨んだ。その兵士はまだ若かった、二十代位だろうか。私は兵士に食ってかかる。


「獣人なんかって何よ!この世界の人間たちはおかしいわ。獣人だからといって首輪をしたり、お金で売り買いしたり。人間でも獣人でも、心と心を通わせられる人同士よ。少なくとも獣人なんかなんて言葉が出る人なんか助けません」


 私の言葉に若い兵士は憎々しげに睨んだ。私はそんな兵士を無視し、怖がっているセネカとヒミカをもう一度抱きしめた。それから私は立ち上がって、鉄格子の前に、大きなパーテーションを出した。パーテーションを三つ出した所で私たちは兵士から見えなくなった。焦った兵士が大声を上げる。


「おい!聖女!この壁どかせ。中が監視できねぇじゃねぇか!」


 私はすかさず言い返す。


「あんた私がおトイレしてる所見るつもり?!変態!」

「見ねぇよ!バカ!!」


 うるさい兵士には無視を決め込む。私はパーテーションで仕切られた牢屋内を見回す、あるのはトイレだけ、あまりにもさびしい。私はふと思いついてトイレに触れる、すると私の家にある洋式トイレになった。フタもあるし便座カバーもある。そして私ははたと気がついた。異世界に来てから一度もお風呂に入れていない。思い出すとお風呂に入りたくて仕方がなくなった。ふとトイレの横を見ると、お風呂があった。しかもお湯がはってある。私はキャアッと声を出して喜んだ。セネカたちに声をかける。


「セネカ、ヒミカ、お風呂入ろう!」


 セネカとヒミカは嫌そうな顔をした。お風呂に入りたくないなんて言わせない。逃げ回るセネカとヒミカをとっ捕まえて、服を脱がしてお風呂に入れる。セネカとヒミカはお湯に入って熱い熱いと騒ぐ。私からしたらぬるいくらいなんだけど。そして私はセネカとヒミカが首につけている鉄の首輪に目を向ける。セネカたちが狼にならないように、城の兵士たちにつけられたのだ。


 お風呂の時だけでも取れないかしら、私はセネカの首輪をカチャカチャさせて外そうとする。カチャッと音がして案外簡単に外れてしまった。セネカは首輪が取れて楽になったのか、フウッと息を吐いた。次はヒミカの番だ、ヒミカの首輪も外してやる。ヒミカも嬉しそうだ。私はシャンプーとコンディショナー、ボディーソープを出して、セネカとヒミカを洗ってやる。セネカとヒミカは泡が目にしみると騒ぐが、無視して洗う。二人を綺麗にして、セネカたちがグッタリした所で自分の身体も洗う。


 自分の身体を洗い終わると、もう一度目をつぶる、目を開くとお湯が新しくなっていた。セネカとヒミカは熱いと言ってお風呂から飛び出てしまった。私はバスタオルを二枚出して、セネカたちにちゃんと身体を拭くように言う。私は肩までゆっくりお湯に浸かった。あー、と声が出てしまう。やっぱり身体の疲れを取るにはお風呂が一番ね。のんびりしているとセネカとヒミカがお腹がすいたと騒ぎ出す。私は仕方なしに、湯船から上がり、身体を拭いてパジャマに着替える。そして裸のままのセネカとヒミカにもパジャマを着せる。二人にはお揃いのパジャマが似合ってとっても可愛い。


 私はテーブルとイスを三脚出した。そして少し思案してからあるものを思い浮かべた。すると目の前にコンビニのお惣菜のハンバーグが現れた、しかも加熱済み。私はお皿を出して熱々のハンバーグをのせる。そしてやはりコンビニのサラダ、お湯を入れてできるコーンスープを出す。そして強力粉、バター、イースト菌を出してパンを作る。コンビニのご飯で申し訳ないけど、セネカとヒミカは美味しいと喜んでくれた。ご飯の後セネカたちに歯みがきをさせて寝支度をする。私は目をつぶると自宅のベッドを思い浮かべる。私が目を開けると、目の前にはベッドが現れた。セネカとヒミカは大喜びで、ベッドの上に乗ってピョンピョンジャンプする。私は二人をたしなめてベッドの中に入らせる。寝かしつけようとしたらヒミカが言った。


「ねぇもみじ、お話して?」


 私はほほえましくなってヒミカに聞いた、どんなお話がいい?と。するとヒミカはお姫さまが出てくる話がいいと言い、セネカは強い英雄ヒーローが出てくる話がいいと言った。私は少し考えてから話し出した。


「昔々、あるところにおじいさんとおばあさんがいました。二人には子供がいませんでした、そこでおじいさんとおばあさんは神さま子供をお授けくださいとお願いしました。神さまはその願いを聞き入れ、親指ほどの小さな男の子を授けました。おじいさんとおばあさんはたいそう喜び、一寸法師と名付けて大切に育てました」


 セネカとヒミカは興味深げにお話に聞き入っている。ヒミカが言う。


「いっすんぼうしは親指の大きさなの?親指トミーみたい」


 親指トミー?親指トムの事かしら。この世界にも親指トムの童話があるのかしら。確かに日本の昔話の一寸法師とヨーロッパの童話の親指トムはよく似ている。まぁ、トムの方は大分イタズラ好きだけどね。私はそうね、と相づちを打って話を続ける。


「一寸法師はすくすく育ちましたが、やっぱり大きさは親指ほどのままでした。ある時一寸法師がおじいさんとおばあさんに言いました。私は見聞を広めるために都に行きたいです。と、おじいさんとおばあさんはとても心配しましたが一寸法師の決意は固く、最後には都に行く事をゆるしてくれました。一寸法師は腰に針の刀を差して、お椀の船に乗り、お箸のかいで川を下って都に行きました」


 話の途中で、セネカとヒミカに、オワンて何?オハシって何?と言われてしまったので、木でできたスープボウルの船に乗って、木でできたスプーンのかいで川を下りました。に、変更した。


「都に着いた一寸法師は、都の宰相の館で働く事になりました。一寸法師は一生懸命働きました。ある時一寸法師は、宰相の娘のお姫さまのお宮詣に同行します。そこでお姫さまが赤鬼と青鬼にさらわれそうになりました。一寸法師は勇敢に戦いました、ですがなにぶん小さいので青鬼にパクリと食べられてしまいました」


 ヒミカはキャアッと声をあげる。私はヒミカに大丈夫よ、と言って安心させてから話を続ける。


「しばらくして青鬼がお腹を抱えて痛がり出しました。一寸法師が青鬼のお腹の中を針の刀でチクチク突き刺したのです。これはたまらないと青鬼は一寸法師を吐き出しました。そして一寸法師は赤鬼のまぶたに針の刀を突き刺して、青鬼と赤鬼を追い払いました。鬼の去った後には打ち出の小槌が残っていました」


 ヒミカたちは打ち出の小槌がわからなかったようなので、小さなハンマーだと説明した。


「お姫さまは一寸法師に向けて打ち出のハンマーを振るいました。すると一寸法師は立派な若武者になったのです。館に戻った一寸法師とお姫さまは結婚する事になり、宰相は喜びました。お姫さまが打ち出のハンマーを振るうと、米俵と金銀財宝が現れました。一寸法師はおじいさんとおばあさんを都に呼んでみんな幸せに暮らしました。めでたしめでたし。はい、じゃあセネカもヒミカももう寝る時間です」


 セネカもヒミカももう眠そうだった。ヒミカはいっすんぼうしとお姫さまが幸せになって良かったと言った。セネカは小さくても強いいっすんぼうしが気に入ったようだった。私は男の子は強い者に憧れるものね、と単純に考えていた。その時は。



 私はしばらく目をつぶってセネカたちの寝息を聞いていたが、グズッグズという音でふたたび目を開けた。私は静かにベッドから起き上がり、鉄格子の前のパーテーションまでやってきた。私はパーテーションの一枚を消す。そこには鉄格子に寄りかかり、しゃがみこんでグズッグズいっている兵士の姿があった。私は近寄って小さく声をかけた。


「泣いてるの?」

「バカ言え、目から鼻水が出てるだけだ」


 私は、やっぱり泣いてるんじゃんと思ったがそれ以上は何も言わず、鉄格子から手を出し、オボンの上にコーンスープの入ったマグカップと、焼きたてのパンを取り出した。そして兵士に言葉をかける。


「食べて、お腹すいてるでしょ?」


 兵士は手でパンを掴むと、一口かじった。


「美味い、白いパンは久しぶりに食った」

「私はもみじ、あなたは?」

「・・・、ダグ」

「ダグ、さっきあなた、俺たち人間を助けろってどういう意味?」

「・・・、俺はガキの頃捕虜としてトーランド国に来た。捕虜のガキなんてトーランド国の人間にとっちゃ厄介者だ。学もねぇ、金もねぇ。生きるためには盗賊になるか兵士になるしかなかった。トーランド国の兵士と捕虜の兵士には明確な身分の差がある。俺みたいな敵国の兵士には人権なんかはねぇんだ」

「・・・、ダグのご両親は?」

「トーランドの兵士に殺された」

「!」

「もみじがガキどもに寝る前にお話を聞かせていたら、昔のお袋の事を思い出しちまった。ガキども、怖がらせて悪かった」


 このダグという兵士は根は悪い人じゃない。きっと優しい青年なのだろう。


「ねぇ、ダグ。みんなは私の事を聖女だというけれど、私は自分に何ができるかなんてわからない。だけど、セネカとヒミカのお母さんを探したらきっとここに戻ってくるわ」

「ガキどものお袋は生きているのか?」

「私はそう信じてる」

「そっか、ガキども、お袋に会えるといいな。もみじ、もう少しだけここで待ってろ。じきにリュート様がお前たちを出してくれる」


 リュート。彼の名前に、私はハッとした。私たちをお城に連れて来た人。


「ねぇダグ、リュートって何者なの?王さまが信頼しているようだったけれど」

「リュート様はトーランド国の騎士団長だ。とても立派な方で、俺たち半端もんの希望なんだ。いずれ俺たちみたいな半端もんたちも安心して暮らせる国にしてくれるって言ってくださったんだ」


 ダグは顔をほころばせてリュートの事を語った。でも、と私は考える。ダグのような敵国の捕虜たちが暮らしやすくなるのはいい事だけど、あのトーランド国の王さまがハイそうですかなんて実行してくれるわけないだろう。もしリュートが捕虜たちも安心して暮らせる国にしたら、それってクーデターって事にならないかしら。私が考えても仕方がない事を考えていると、鉄格子の前に二人の男が現れた。一人は先ほどの話にも出ていた騎士団長のリュート。その隣には十五、六歳くらいだろうか、金髪で青い瞳の美少年が立っていた。リュートは私を見て、というか牢屋の中を見て驚いたようだ。リュートが慌てて話しかける。


「遅れて申し訳ありません、聖女さま。ですが何ですかこの牢屋の中は、ここで暮らすつもりですか!?」

「はぁ、そんなつもりはなかったんですけど、何もなかったもので」


 どうやらリュートは早く私たちを逃がそうとしてくれているようで、セネカたちを起こしてくれとせっつかれた。せっかく寝たのに。可哀想だけど私はセネカたちをゆり起こす。セネカもヒミカも寝ぼけまなこだ。私は起きた二人のパジャマをズボンとワンピースに変え、私自身も登山ルックに変える。そして出現させたベッド、テーブル、いす、お風呂も消してしまう。すべて元どおりの牢屋にした。リュートはセネカとヒミカの姿を見てひどく驚いたようだ。


「聖女さま、獣人の子供たちの拘束魔法具の首輪はどうされたのですか?」


 私が邪魔なので外しましたと言うと、さらに驚いているようだっだ。リュートはセネカに声をかけた。


「獣人の少年、この鉄格子を壊す事できるかい?」


 セネカはうなずいて、鉄格子に手をかけた。すると、まるで粘土のように鉄格子がグニャリと曲がり、私たちが通り抜けられるくらいの出口ができた。私たちは牢屋から出る事が出来た。リュートはしきりに私の事を聖女さまと呼ぶので、私はいたたまれなくなり自分から自己紹介をした。


「助けてくれてありがとう。貴方はリュートというんでしょ?私はもみじ。そう呼んでください。そしてこっちがセネカとヒミカです」


 リュートは目を丸くして私たちを見た。そして私たちに笑顔で言った。


「はい、もみじさま。セネカ、ヒミカ」


 私は少し笑ってリュートの横に立つ美少年を見た。美少年は、私の視線に気づくと笑顔で話した出した。


「申し遅れましたもみじさま。私はトーランド国第二王子ユーリと申します」


 えっ、トーランド国の第二王子って、あの失礼な王さまの子供って事?!あの太っちょの王子さまの弟って事?!全然似てない、本当に血がつながっているのかしら。そう思いながら、私はある事に気がついた。ユーリは首輪をしているのだ。セネカたちがしていた魔力を抑える首輪を。私の不躾な視線に気づいたリュートが補足の言葉を続ける。


「ユーリさまは第二王子ですが、お母さまはお妃さまではありません。市井の方でした、そしてユーリさまのお母さまは獣人だったのです。国王陛下はユーリさまのお母さまが獣人である事を知ると、たいそうお怒りになり、お母さまを処刑しました」


 私はヒュッと息を飲んだ。なんてひどい事を、ユーリのお母さんは、獣人だったというだけで殺されてしまうなんて。リュートはさらに続ける。


「ですが国王陛下も御身の血が流れているユーリさまを殺めるのは気がとがめたのでしょう。半獣人のユーリさまが逃げないように拘束魔法具の首輪をつけてこの歳まで監禁していたのです。もみじさま、ユーリさまの首輪も外していただけませんか?この首輪は鍵かないと外す事ができないのです。もみじさまの能力ちからなら外す事ができるはずです」


 私はうなずいてユーリの首輪に手をかけた。ユーリは小さい頃からずっと首輪をしていたなんて、なんて可哀想なのだろう。私はカチャカチャと音をさせて首輪を外す。ユーリは自身の首をさすりとても嬉しいそうだ。私にありがとうと言ってくれた。だがリュートは私にもう一度お願いをした。


「ありがとうございます、もみじさま。ですが、ユーリさまの首輪をもう一度作ってもらえますか?今度は魔力の無い見せかけだけの首輪を」


 私は理解した。ユーリが首輪を外すと、周りの人間が恐れるのだ、半獣人の力で攻撃されないかと。私はうなずいて目をつぶった。すると私の手には先ほど外した首輪と似たような首輪が現れた。でも似ているのは見た目だけで素材はプラスチックだ。今までの首輪よりとても軽い。リュートはその首輪をユーリにつけた。ユーリは今までのより軽くて苦しくないと言って、私にまた礼を言った。私はユーリからリュートに向き直って言う。


「次はあなたの番よ。リュート、あなたも拘束具しているわね?」


 リュートはハッとしてからためらいがちに右手を差し出した。リュートの右手首には鉄の腕輪がされていた。私はリュートの腕輪も外す。そしてその腕輪にそっくりなプラスチックの腕輪をリュートの右手にはめる。リュートは、ユーリの首輪とリュートの腕輪を右手で掴むと、あっと言う間に粉々にしてしまった。リュートは私の顔を見ると厳しい表情で言った。


「ありがとうございます、もみじさま。あまり時間がありません、この場から離れましょう。ダグ!」

「はい!」


 リュートの言葉にダグが答える。ダグはセネカとヒミカの側にしゃがみこむと二人に声をかけた。


「お前ら、八つ当たりして悪かった。お袋さん見つかるといいな」


 ダグの言葉にセネカとヒミカは笑ってうなずいた。それからダグはリュートの側まで行くと、リュートに背中を向けた。私は訳が分からずそのまま見ていると、リュートがいきなりダグの後頭部を殴ったのだ。私はキャアッと悲鳴をあげた。


「ダグ!リュート!何するの!?」

「ダグに嫌疑をかからなくするためです。あくまでももみじさまとセネカとヒミカは自力で逃げたと思わせなければいけません」


 そうか、ダグが何の怪我もなく牢屋の前にいれば私たちの脱走を手助けした事になってしまうのか。私は納得はしたものの、どうしたって可哀想と思ってしまう。私は手の中に空の香水瓶を取り出し、わさびのチューブを取り出した。チューブからわさびをひねり出し匂いをかぐ。ツーンとした匂いで私の目から涙がポロポロ出てきた。私がヒミカに香水瓶を渡すと、ヒミカは心得たように私の涙を香水瓶の中に入れる。私はヒミカから香水瓶を受け取り、しっかりと栓をすると、リュートに渡した。


「私の涙は怪我を治す事ができるみたいなの。ダグが起きたらかけてあげて」


 リュートは驚いた顔をした後笑ってうなずいた。そして隣のユーリに声をかける。


「ユーリさま、いけますか?」

「はい、何とかいけそうです」


 ユーリはギュッと目をきつくつぶった。すると突然ユーリの頭から狼の耳がとび出した。そしてお尻からは尻尾が出ている。それを見たリュートも目をつぶる。リュートの頭からは角が二本生えていた。そしてリュートはツカツカと私の前まで来ると、おもむろにに私を抱き上げた。私はびっくりしすぎてキャッと声を出した。ユーリはセネカとヒミカを両脇に抱えた。


 すると二人は目にも留まらぬ速さで地下から駆け上がり、城内を抜け、城壁の前まで来た。ユーリは止まらずにセネカとヒミカを抱えながら見上げるほどの城壁を駆け登った。そんなユーリを私は呆然と見上げていると、リュートは私の耳元で、しっかり掴まっていてと言った。私は訳がわからずリュートを見ると、リュートの背中からコウモリのような翼がとび出した。リュートは翼をはばたかせると上空に飛び上がった。リュートは城壁を難なく飛び越え、先を走っているユーリにすぐさま追いついた。私今空飛んでる、私は顔に当たる風の強さを実感した。リュートが私にささやく。


「このまま山まで行きましょう」


 リュートとユーリはセネカたちが暮らしていた山まで私たちを送ってくれた。別れ際リュートが私に小さな手鏡を手渡した。私が手鏡を見つめると、リュートが説明した。


「これは通信用の魔法具です。何か困った事があったら私に連絡できます」


 そう言ってリュートはユーリを脇に抱えて飛んで帰ってしまった。辺りは明るくなり、もう夜は明けていた。







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