Bパート

 それから1週間が経った。クラスのみんなも転校生の存在に慣れ、彼女と接する人も親しくなった人だけになったようだ。まぁ問題はその人が誰とも親しく接するハイパー陽キャってことなんだけど。

「あーし、今日は闇狐と一緒に食べたいなー。だって闇狐、いつも一人で食べてるでしょ?それってちょっとさみしーなーって思ってさ?」

「しょうがないわね」

 そういえば待夜さん、まだ私服なんだ。確かにあの胸じゃ合うサイズが無さそうだけど……

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 そうして今日も授業が終わり、放課後になる。……右を見るともう亜夕子ちゃんがいなくなっている。いつも一緒に帰るのに、珍しいな。そういえば今日は彼女があまり話しかけてきていない気がする。どうしたんだろう?

 そんな事を考えながら下駄箱の蓋を開けると、そこから何かがひらひらと飛び出て僕の足元に滑り込んでくる。なんだろうと思いそれを拾うと、それは長い封筒だった。

「えっ?もしかしてラブレター!?」

「でも太郎ってもう彼女がいるよね?それを知らないのかなぁ?」

 僕が持っている封筒を見て回りの友達が目を見開いて驚いた。でも流石に僕に彼女がいるってことを知らない人はいないだろうし……と思い封筒を開けると、中に入っていた紙にはこんな事が書いてあった。


【太郎君、これを見たら実習棟の屋上に来てください

 来てくれたらいいものをあげる

 でも友達は連れてこないでね

 亜夕子より】


「えっ!!!!!!」

 それは彼女からの手紙だった。屋上に行ったら良いものをくれるって、何をくれるんだろう?でも、友達は連れてこないでってどういうことなんだろう?その贈り物は秘密にしてほしいものだったり?

「うおおおおおお!!!!!多分教えちゃまずいものだろうから何を貰ったのかは秘密にしてもいいから、良いもの貰ってこいよ」

「もしかしてこれが逆プロポーズってやつ?でもまだ年齢的に結婚はできないよね?もしかして結婚の予約っていうの?」

「うああああ!!!!俺も欲しい!!!!どうやって彼女を作ったのか教えてくれー!」

「どうやってって、普通にしてたらいきなり告白されただけなんですけど……」

 下駄箱の周囲が手紙のせいで阿鼻叫喚になってしまった。これに巻き込まれちゃアレなのでさっさと実習棟の屋上に行こう。


 この学校は教室棟と実習棟に別れており(正確には他にも倉庫とか体育館とかあるけどここでは関係ないので省く)、教室棟は3階、実習棟は4階まである。多分教室棟の屋上だと実習棟4階から丸見えになってしまうので実習棟の屋上を選んだのだろう。


 実習棟の階段を登って屋上へ続く扉を開けると、その中央に亜夕子ちゃんがいた。が、何かかすかに嫌な予感がする。とはいえそれで彼女に嫌な思いをさせるのは嫌なので彼女に少しづつ近寄っていく。


 歩いていって亜夕子ちゃんの隣に行くと、

「意外と早かったわね。あんまり待たなかったわよ」

「そ、そうかい?いやー、手紙を読んですぐに来て良かったなぁ」

 僕はそう言いながらも、心臓は爆発しそうなくらいドキドキしていた。これは彼女の近くに来た事によるものだろうか。それともさっきからかすかに伝わってくる嫌な予感によるものだろうか。もしかしてこれが吊り橋効果?


「それじゃ太郎君、目を閉じて頬を私に近づけて?」

「頬を!?」

 びっくりして大きな声が出てきてしまった。ほ、ほ、頬ってもしかしてキ、キ、キ、キス!?この言葉により僕の心臓のドキドキは最高潮になっていく。


 とりあえず言われたとおりに目を閉じて頬を差し出す。

「それじゃ、いくよー、すぐ終わるニャー……」



 ガキーン!ボカッ!

 金属が打ち鳴らされた音が目の前で鳴ると同時に、僕の顔に鈍い衝撃が走り、体が吹き飛ばされる。

「いつつ、どういうこ、と、だ……?」

 目を開けると自分の体は屋上への出入り口の前にあり、目の前では待夜さんと黒猫の化け物が刀と爪を打ち合わせていた。待夜さんの体をよく見ると、頭の上には動物の耳のようなものが、お尻からはもふもふした尻尾が飛び出している。彼女が持っている刀は髪と尻尾の毛と同じく紺色に光り、化け物の持つ爪と打ち合わされて火花が散っている。


「ごめんなさい、ちょっと乱暴にしちゃって。でもここは危ないわ。下に車を呼んであるからそれに乗ってすぐに逃げなさい。【Red Cloth】って書いてある車よ。あなたならすぐに分かるわ」

「一体何がどうなって……!?」

 背筋にゾクリとしたものが走って思わず言葉が出なくなる。黒猫の化け物から異常なほどの黒いオーラが発せられているからだ。

「全く、あんた―隣の席の子の彼女―がターゲットとはね。【狐の窓】はまだしも【魔力探知機】でも探知できないとは、恐れ入ったわ。これまで何人食べてきたの?」

「30から先は数えてないニャ。まったく、幸せの絶頂にいる時に殺すのが一番気持ちいいのにニャー、なんで邪魔するのかニャ?」

「仕事だからってのと、あんたみたいな悪い妖怪が許せないからよ」


 強く打ち合わされる音が鳴ったのと同時に双方が距離を取る。そういえばと待夜さんが言っていたとおりに逃げようとするが、足がすくんでうまく動かない。

「足がすくんじゃったの?しょうがないわね、だったら、ほりゃ」

 そう言って待夜さんは僕の足元に御札のようなものを投げた。そうすると、僕の周りに透明な虹色に光る立方体の壁が作られた。

「それは外側からの攻撃は防ぐけど、内側からなら触れればすぐに解ける結界よ。立ち直ったらそれを使ってすぐに逃げなさい。こいつは私が処理するわ」

「そうは言ったって……」

 すぐに逃げろなんて言われてもまだ足がガクガクしてまともに動きそうもない。これは待夜さんに頼るしかない……か?


 しばらく経っても二人の戦いはまだ続いている。しかし化け物は非常に強いようで、待夜さんの方が劣勢になってしまっているようだ。このままじゃ……

「くっ、強い……こんなことになると思わなかったからバックメンバーしか呼んでなかったのが裏目に出たわね。一応援軍も呼んだけど、いつの到着になるか……」

「さっさと私にぶっ殺されろニャー、太郎君はその後で食ってやるニャ。ウニャ!」

「うぐっ!」 ドゴッ!

 化け物の大ぶりの攻撃を鞘でガードした待夜さんは大きくふっ飛ばされて屋上を覆う柵に激突した。彼女はそのまま柵にはまって動けなくなってしまったようだ。

「さぁ~て、どう料理してやろうかニャ~?」


 その光景を見た僕に、2つの感情が浮かんだ。

 ―一つは「初めから僕を食べるために告白したのか」という怒りの感情。

 ―一つは「待夜さんを助けたい」といった優しさの感情。

 でも僕には力なんてない。でも、僕に力があれば亜夕子ちゃん、いや、亜夕子という化け猫を倒すことが出来るし、待夜さんを助けることが出来る。


 「力が欲しいか?」というお決まりの言葉は聞こえてこなかった。しかし、その代わりに僕の胸の中央がカッと熱くなった。

「う、ぐ、あぁ……」

 それと同時に耳とお尻の辺りも熱くなる。周りから聞こえてくる音に違和感を覚えたような気がするが、そんなことを気にしている余裕はない。


「決めたニャ、喉元を掻っ切って仕留めてやるニャ~!」


 自分の体が燃えてしまいそうなほどの熱が引くと同時に1つの決意が生まれた。

 ―待夜さんを、守る!

 そう思うと同時に僕の体は結界を越えて駆け出していった。


 ガキーン!

 僕の左腕に付いた光の盾と化け猫の爪がぶつかり、大きな火花を散らす。

「あなた……なるほどそういうことね。」

 盾で化け猫の攻撃を防ぎながら、右腕から伸びた光の鎖を待夜さんに巻きつけて引っ張り、柵から救出する。

「ありがと。この借りはすぐ返すわ」

「ありがとな、さぁ、あの化け猫をぶっ倒すぞ!」

 僕は右手に片手で持てるサイズの光の剣を構え、化け猫の方に向き直る。


「あなたと私の力を合わせたらやれると思う。さぁ、やって!」

「行くぞ!奥義、【ブレード・オブ・チェリーブロッサム】!」

 そう叫びながら剣を逆手に持ち化け猫の横を駆け抜けると、周囲から無数の白い魔法剣が降り注ぎ化け猫に突き刺さる。

「う、ニャ、ニャ、」

 この攻撃で化け猫は相当参っているようだ。しかし、これではまだ倒せないらしい。だったら!


「待夜さん!後詰めお願い!」

「了解した。これで決める……」

 そう言いながら待夜さんは刀を鞘に収め、それを左脇に構えて力を溜める。そして、

 ザシュザシュ

 化け猫の周囲を分身とともに切り裂き、僕の隣に抜刀した状態で来る。

「【星空せいくう斬・連閃】!」

 チン

 彼女が納刀すると同時に化け猫の体が無数に切り裂かれ、空中に光の粒となって散っていく。

 ・

 ・

 ・

「や、やったー、勝ったー」

 先程の攻撃で全力を尽くした僕は床に横たわった。

「まさか、亜夕子が悪い妖怪だったとはね。千年の恋も完全に冷めたよ。さて、僕は少し休んでからかえr……?」

 喋りながらふと手を頭の上に向けると、そこにあるはずのないものがある。しかも、触れた感覚はしっかりと伝わってくる。これは、待夜さんと同じ耳だ。


「あっ、そうそう、あなた狐娘になってるわよ」

 待夜さんは軽くそう言い放つ。僕は驚いて飛び起き頭の上にあるものに触れると、確かにふにふにとした感触がある。しかも人の耳があった所に手をやるとそこにはつるつるとした肌しかなかった。そしておしりの方に触れると狐のしっぽがあるのが分かる。それを体の前に回して見ると、黄色のもふもふとした毛に覆われている。そして胸は少し膨らんでいるし、股にあったものがない。そういえばさっきから声が高くなっている気さえする。


「待夜さん、これってどういうことなんです……?」

「あなた、先祖に変な人はいなかった?こう、『年を取らない』とか」

「そういえばひいおばあちゃんが、90年も若者の姿を保っていたのに死ぬときには一気にしわがれたおばあちゃんになってたって聞いたことがあるな。あくまで言い伝えだけど」

「それ、私の友達よ。ここだけの話、あの死体はそのひとが妖力で作った偽物ね。つまるところ、あなたは妖狐の子孫ってわけ」

「でも、僕以外はこんなことになってなかったけど?」

「多分、あの化け猫の強い妖気に当てられて先祖返りしちゃったんでしょう。まぁ、この先の話は拠点でするとして、って、もう来たわね」


 そう言われて上の方を見ると、僕たちがいる屋上に向けてドローンが2機飛来してきた。その下にははしごのようなものがぶら下がっている。

「あれは?」

「そんな姿で学校内を通って行くわけには行かないでしょ?それに乗って拠点に向かって」

「えっ、えっ、えっ~~~~~~!!!!!!!」

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