第15話 戦闘狂犬

-side 第三者-




(レオンさんが弟子にしたい程の逸材とは)

(“狂犬”レオンの弟子か。あのガキも只者ではないのだろう)

(ついに、あいつが動き出したか。これから何かが起こるのかもしれない)



 一気にギルド内が騒々しくなる。

 それもそのはず。この場でレオンがどういう人物かを知らない人間はいないのだから。



 “狂犬、レオン”



 誰にも従わない。

 だからと言って自分が勢力を拡大したいとも思っていない。群れない。

 10歳で冒険者になってから、15年の戦績、対人戦負けなし。勿論魔物にも負けなし。


 

 圧倒的な才能で、最年少でSランクまで上り詰めた彼はその一匹狼の戦闘狂っぷりからそう呼ばれている。



 例え、ギルド上層部や貴族であっても彼を従わせることは不可能と感じさせる。

 彼が王位を望めば喜んで譲る人物が出るだろうとまで噂されている。



 そんな彼が、初めて自分から弟子にしたいと言った人物を連れてきた。

 そのことについて、周りにいる者たちは必死に考えを巡らせる。

 リアムと呼ばれ、いきなり現れた少年は一体何者なのかとか。

 将来、大物になるのは確実。今のうちに唾をつけておこうとか。

 


 ちなみに余談ではあるが、人と関わるということに関していえば、

 Sランクなので名目上、パーティのリーダーということにはなっている。



 しかし、今のパーティーメンバーと一緒に行動していたのは、彼がBランクに上がる1年間だけ。

 以後、他のメンバーとは基本別行動。彼の所属しているパーティは事実上、アレクがリーダーの3人パーティである。



 これは、レオンがある程度強くなってから以降、オールラウンダーで魔法剣士である彼にとって、一緒に戦うメンバーは必要ないどころか、足手まといだと感じるようになり、レオンが一人で戦いたいというのもあったが、アレクがB、サリーがA、マリーがBなので、単純に実力的にもかけ離れすぎているため、全員合意の上での行動である。



 そして、余談のことも含めてギルドにいる者なら全員が当然のように知っている情報である。

 当然職員もということで、美人敏腕女性ギルドマスターは内心かなり動揺しながらも対応する。

 表情に出さないのは、流石組織のトップに上り詰めるだけはあると言ったところだろうか。



「失礼ですが、レオン様が弟子にしたいというそちらのお方、まだ幼い子供だとお見受けしますが」

「ああ。そうだな。まだこいつには戦闘経験はないだろう」



 実はこの時既にアクシデントもあり、

 リアムにはオークとの戦闘経験があったのだが、リアム自身はそのことをひた隠しにしていた。



「(流石にバレていないだろう。これだったら、逃げ切れるかもしれない)」とルーカスとも相談して、なんとかやり過ごそうとしている最中である。



 しかし、続く言葉に絶望する。



「だから、これは“勘”だ」



 リアムは知っている。

 この手の師匠ポジの化け物が、「“勘”だけど、こいつ伸びそうだから育てるわ」という感じで言った場合、その手のイベントから逃れることは不可能だということに。

 異世界だから、その手の事が起ってもおかしくは無いということに。



「“勘”ですか。レオン様の勘はよく当たるといいますからね。分かりました。ギルドとしては全面協力という形で承ります」

「(ほらきた……。やっぱり、レオンの勘はほぼ100%の確率で当たると確信している雰囲気だ。となると、俺の意志はほとんど完全無視だな。今この場で断ったり、時間をもらったりしたところで、どうせ最終的に弟子になるのが落ちだろう)

 ……わかった。俺も弟子になる」

「……!!本当か!」



 レオンは嬉しそうな顔をする。



 この時、ギルドマスターと周りは気づく。

(((…こいつ。許可とってなかったのか)))と。



  ♢ ♢ ♢ ♢ ♢



 その後、レオンにしてやられたリアムはそのまま、ギルドマスターの部屋に連れていかれ、弟子入りの際に必要な書類を持って帰り、記入して下さいと言われた。

 その際に、「よく考えてから、記入するように」と散々きつく言われた。

 ようやく解放された、帰り道のことである。



「はー。疲れた」

「俺もだ。全く。あのギルド長の話はなげえんだ」

「む……」

「なんだ?」

「いや。疲れた理由ギルド長の長い話ではなく、レオンのせいなんだけど」

「え……。ああ。悪いとは思っているぞ。でも、ああでもしなければ、弟子になって貰えなかっただろ」

「なんでそこまで、俺のことを弟子にしたいと思ったの?」

「だって、お前の従魔ドラゴンに近いだろう」

「は?」

「ん……?違うのか?……あ!ああ……。そうか。えっと……、お前が精霊使いでは無いってことは、俺も分かっているから大丈夫だ。何か事情があって隠してる事は分かってたし、他の奴らにバラすつもりもねえよ」

「……。(おい、ルーカス。どうしよう。なんか、ほぼ確信してるようだけど)」

『そりゃ、もうバレてるんだろう。全く、お前も悪運強いよな。ノアといい、レオンといい厄介な奴に俺のことがバレるなんて』

「(理不尽すぎる呆れられ方されてるような?

 で、どうしたらいい?)」

『バラすしかねえよ。姿を現すか』

「(ちょっ……!)」



 そう言ってルーカスは、レオンにも姿が見えるようにした。



「な……!!こいつは……、強えな。

 間違いなく、今の俺よりも強えだろう」



 突然、レオンの目の色が変わり、口元に笑顔を浮かべながらそう言った。



『言っとくけど、おめえと戦うつもりはねえぞ。第一、お前では相手にもならねえ』

「(流石に分かってる。リアム、お前こんな化け物従魔にしてたのか。やべえやつだな)」

『俺からしたら、お前の方がやべえけどな。どうして分かったんだ?

 こう言ってはなんだが、気配を消すことに関しては、得意だと自負していたんだが』



 当然のように念話で話しかけられて戸惑っているリオンが答える前に、ルーカスが言う。



「(そうだな。まあ、それも“勘”だな。気配は消せても、強者の感覚は消せてねえと言うか。いつでも、リアムの方からびんびんと伝わってきたぜ)」

『はー。俺もまだまだということだな。

 ところで、お前以外ももしかして気づいていたのか?』

「(いや、多分ねーと思うな。“勘”が優れている人間がいたら、気づくとは思うが、あのメンバーの中にはいねえと思うな。強いて言うなら、ノアくらいだろう)」

「(ああ。ノアだったら、色々あるから大丈夫だね。それよりもこの事は内密に)」

 


 頼むしか選択肢のないリアムは心から願った。



「(ああ。分かっている。それより、リアム。お前自身も魔物と戦った経験あるだろ。

 そして俺の“勘”だと、相当強い)」

『「…!!」』



 異世界化け物の“勘”えぐすぎだって。



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