第13話 家族

-side リアム-




「「「(ど、どうするんだよこの空気!)」」」



 みんなが、そう思っているのが伝わってくる。原因が俺の父親だから、俺がなんとかしなければいけない立場だろう。



「あの……、別に関わりのなかった父親なので、なんとも思っていません。他人です」



 事実、俺は転生者だから本当に他人なんだけどね。



「ご、ごめん。まさかそうとは知らず」



 それでも、ヒーラーのサリーが申し訳なさそうに言う。まあ、言ったところで信じては貰えないだろう。そもそも、会って数日で関係性も薄いのだから。

 困っていると、料理係のラルが助け舟を出してくれた。



「さっき、リアム様が仰ったことは本当です。

リアム様は生まれて以降父親と会ったことはありません」

「(へーそうなんだ。ルーカスは俺のこと見てたんだろ?なんか他に知らない情報ある?)」

『んー。転生前のお前に興味はなかったから、あんまり深くは監視してないんだよな。

そもそも転生するまではお前の寝てる時間が長すぎてつまんなかったしな!』



 たしかに。5歳児までの子供なんてそんなものだろう。



「(父親がどう言った人とかは?クズガーって名前だし、この屋敷を見る限りだと相当ヤバい人だと思うけど)」

『ああ。お前の父親がクソ野郎だと言う話はよく耳にしたな。お前以外の人間に興味はないから、詳しくはよくわかんねえけどよ!ただ、お前に必要な情報だったら収集しとけばよかったぜ』

「(クソ野郎という事実が確定しただけでも、充分な収穫だよ。ありがとう)」



 そんな話をルーカスと俺らがしている間も場は沈黙していた。寄せられるのは、俺への同情の視線。本当に他人で申し訳ない。すまんかった。



「リアム。俺達は何があってもお前の味方だ。だから、困ったときは遠慮なく助けを求めにこい。お前は少し大人っぽすぎる」



 レオンが俺に言ってくる。



『めっちゃ、子供扱いされてるの面白いな!』

「(そこ、茶化さない。そりゃ、実年齢レオンと変わらないけども)」



 むしろ、前世の俺とそう変わらない年齢の人がここまで大人びた発言をできること自体が驚きだ。冒険者の20代は覚悟が決まっている分、成熟がはやいのかもしれない。

 そんなことを思っているとリサが俺を抱きしめてくる。



「リアム様。これからは思いっきりあなたを甘やかしますね。なので、あなたも甘えてきてください!」

「(え?これって励まされてる?もしかして合法JD?)」

『お前……、今すぐ全世界のリサに謝れ』

「(どう言う意味だよ!?)」



 俺とルーカスがそんなやりとりをしているとも知らず、全員がこちらに生暖かい目を送ってくる。



「そうと決めたらまずは飯だな!みんなで美味しいご飯を食べようぜ。ドライ王国到着を祝して今夜は宴会だ!」



 レオンが明るく声をかける。



「お前は飲みたいだけだろーが」



 それに、アレクが突っ込み始めなんも変わらない日常の会話に戻る。だけど、なんだろう。少しだけこの人たちとの距離が近づいた気がした。



 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢



 そのあと、アレクとラルが料理をしてくれている間、俺は自分の部屋で過ごしていた。

 部屋……、と言うにはかなり広い。イメージとしては高級ホテルの一室のような感じだ。家具は備え付けで、ふかふかのダブルベッドに、丸テーブル、椅子、本棚などがある。お風呂とトイレ、簡易的なキッチンも付いている。



 みんなが気を遣って俺の部屋は一階のリビングの隣になった。常に誰かと一緒にいやすいかららしい。最初俺は、角部屋がいいなと思ったのだ。高級な家の角部屋は見晴らしや日当たりが良い場合が多いからである。



 だが、「お前はもっと人と関われ!」とレオンに叱られてしまったので、大人しく言うことを聞くことにした。まさか、異世界に来てまで人と関わる事の重要性を説かれるとは思ってなかった。だが、これも人間に生まれた宿命なのかもしれない。



「さて、アレクとラルも料理してくれてるけど、一応俺の料理も持っていくか!」

『それがいいな!最近主人の料理手抜きばっかりだったからな。久しぶりに手の込んだ料理も食べたいぜ!』

「あ、バレてた?」

『当たり前だぜ。作る時間が短すぎるからな。味は美味しいけどよ!』

「たしかに。うーん、手の込んだ料理か。だったら、酢豚とかいいかもなあ。持ち寄りやすいし」



 そう考えて、俺は酢豚を作り始める。

 すっかり触るのに慣れたオークの肉を切り、塩、胡椒を振ってから、揉み込む。

 それから、片栗粉をまぶし、2度揚げして、黒酢と醤油、砂糖を混ぜた調味料で完成だ。

 本当なら、玉ねぎも同時に炒めとけば、もっといいけど、時間の都合上とこの世界で玉ねぎの存在を確認できてないからやめた。

 玉ねぎを美味しく炒めるのは地味に時間がかかるからな。その上、怪しまれるリスクがあるときたらやらないメリットが大きすぎるのだ。断じて、手を抜いた後ろめたさのいい訳ではない。



 いざ実食である。



 --パクリッ!



『「あっっつ」』



 二人揃って撃沈した。必死に冷ましながら食べていると、サクサクサク……っとASMRでも聴いているかのような音が脳内に響いてくる。同時に中からジューシーな肉汁が口の中に溢れてきた。2度揚げした事で余分な水分が飛び、衣がカリッと中はジュワーっとなっている。



『「うっっまいい」』



 なんだこれ。こんな美味しい食べ物がこの世の中にあるのかって言うレベルで美味しい。特に最近、調味料を作って絡める料理とか食べてなかったから、なおさらだ。



『な、なあ。もっとくれ。もっと』



 ルーカスが上目遣いでねだってくる。

 愛犬ならぬ愛竜の上目遣いは強烈だが、ここは我慢だ。



「お前が食べ出すと、他の人の分がなくなるだろ?」

『ちょっとだ。ちょっとでいいから』

「だーめ」

『(うるうる……)どーせ俺の価値なんてそんなもんだよな。転生まで5年間、お前のために一生懸命働いてたって言うのによお』



 う……。



『(チラチラ)いっそ、この世界破壊しちまおうかなあ。俺こんな頑張ったのに、誰も認めてくれないからよお』



 半分くらい本気で言ってる感じ出すのやめてほしい。



『お願いだ。お前の料理が食いたいんだ』



 く……。敗北。



「はー。わかったよ。作ればいいんだろ。作れば」

『本当か!』

「だけど、宴会が終わってからね。もうそろそろ時間だし」

『わかった!やったぜ!』



 はあ……。本日も残業決定である。

 けどまあ、ルーカスの嬉しそうな顔が見れたからいいか。



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