授業風景
航海計画は立てたものの、実際に海に出るための準備が必要になる。
特に今回は初の外国への長期航海になるため、入念な準備をしなければならない。
お金は当然かかるが、同時に時間もすごく掛かる。1ヶ月はかかるのではないかと僕は考えている。
そのため、この準備期間中はきちんと学校の授業を受けなければならない。
さて、僕の所属するオーナークラスは船を持っている学生を集めたクラスだが、実は一口に『船主』と言ってもおおむね3種類のタイプに大別される。
まず自分は船に乗らず、街にある拠点から指示だけ出すタイプ。『完全オーナータイプ』と僕は呼んでいる。
大貿易商に多いタイプで、複数の船を保っているパターンが多い。
そのため、自分がどれかの船に乗り込む訳にもいかず、拠点で全体的な船の動きを考えて指示をする必要があるので、自然と指示を出すだけで直接船と関わる機会が少なくなるのだ。
2つ目は『乗組員タイプ』と僕が呼んでいるタイプ。
このタイプの人は自ら船に乗り込み、目的地まで連れて行ってもらい、そこで自分の目的に従って行動をする。
前世風に言えば、自動車の運転手を雇っている状態に等しいか。
主に行動力があって小回りが効く商人や羽振りの良いハンター、それと一部の貴族もこんな感じか。
僕の父様や兄様もこのタイプに近いかもしれない。
3つ目は『船長タイプ』。もちろん、この呼称も僕個人がそう呼んでいるに過ぎない。
船の持ち主でありながら船員としての能力を持つ。航海士や船長といった船の要職に就いていることも少なくない。
要は、自分の船を自分で乗り回しているようなものだ。もちろん、通常の船は一人では動かせないので、他の船員に指示を出しながらにはなるが。
僕はこの部類に含まれるだろう。
とまあ同じオーナークラス所属の生徒でも事情が個人によって違うため、必要な知識が違ってくる。
完全オーナータイプの生徒に船員としての知識は必要最低限だけでいいし、逆に船長タイプの人はかなり深い知識や技術を習得しなければならない。
そういうわけで、オーナークラスの生徒は自分に必要だと思う授業を受けるシステムを採用している。前世の大学に近いな。
しかし、オーナーとして共通で必要な知識というのは存在する。
船に出来ることや出来ない事をきちんと知っておくのは重要だし、海運に関する法律も知っておかなくてはならない。
そういうわけで、4月いっぱいはそういった基礎知識を学ぶ授業に当てられている。
僕としては、すでに海運ギルドで教わった事なのであまり新鮮味がなく、退屈な時間であったが。
授業が終わると、メアリーとエリオットと共に航海に向けて準備を行う。ジェーン姉様はそんなことをするタイプではないので、僕達に一切付き合っていない。
必需品を買ったり、交易品となる物を探したりしているのだ。
「へぇ、ウィルのクラスは座学だったのか」
「エリオットのクラスはどうだったの?」
「訓練航海中の船に乗ったね」
エリオットとメアリーの話によると、特殊クラスの新入生は基礎クラスや経験者クラスの先輩達が動かす船に乗り、船や航海というものを実体験し、今後の活動に生かすという事をしていたらしい。
もちろん、今まで一度も船に乗ったことのない子ならものすごく得るものが大きいだろう。
しかし、この二人はちょっと違った。
「俺は昔から父様やお祖父様の船に乗せられていたしなぁ」
「私は、お兄様と出会う前から何度か船に乗る機会がありましたし。それにお兄様の船にはもう数え切れないくらい乗っていますから」
経験豊富な二人には、あまり意味が無い時間だったらしい。
「乗ったのは昔からある旧式の船だからね。商船学校に新しく入ったっていう新型の訓練船だったら話はまた別だっただろうけど」
以前から僕が何度か関わっている新型船の開発プロジェクトだが、かなり大きな成功を収めておりカッタータイプの船は民間にもかなり浸透してきている。
2本マストもようやく実証試験が終わり、徐々にだが運用され始めている。まだ軍や一部の貴族のみだが、これもそのうち広く出回ることだろう。
商船学校はアングリア王国が運営している学校の1つなので、最新式の船も1隻のみながら早期に導入出来ているのだ。
ちなみに、帆装は『トップスルスクーナー』と呼ばれているタイプ。
マストの数が2本以上で、全ての帆が縦帆である船を『スクーナー』と呼ぶ。
その縦帆の上にある帆、すなわち『トップスル』が横帆になっていると『トップスルスクーナー』になる。
非常に扱いやすいため、訓練船として最適な帆装であると言われている。
ただ最新式で学校に1隻しかないので、現在は主に経験者コース、基礎コース在籍の生徒の中でトップクラスに優秀な生徒を選抜して試験航海しているとか。
それで実習に使用する際の注意点を洗い出している最中らしい。
「まぁ、自慢するつもりはないけど僕の船はどの船よりも最先端を行っているからね。授業を受けるよりも得るものが多いと思うよ」
「期待しているよ」
そして、今日やる予定の準備を、雑談を交えながら進めていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます