第20話 犯罪臭
僕たちの目の前にいる一人の少女はロープで縛られている。客観的にみて犯罪の香りがする。
この少女に法律が適応するかは知らないが。
少女が深い眠りから目を覚ます。眠そうな目を擦ろうとしたが、両手が後ろに固定っされていることに気づいた様子。
目の前にいる僕たちに気づき睨んでくる。完全に僕たちのことを敵と認識しており、隙を見てこの拘束を解いてやろうという意思を瞳から感じれる。
「先輩、私良心というものを失ってしまった気がします」
横で心を抑える後輩ちゃん。
どう弁解しても僕たちが少女を拘束したという事実は真実であるからな。普通の一般人がするような行為では絶対ない。犯罪者でない限り断じてあり得ない。
だけど僕たちは探索者だ。この少女が敵対し、僕たちの安全を害する可能性がある限り、僕は鬼でも龍にでもなろう。そして、僕はこの少女をこれから朝になるまで、
きゅぅぅぅ〜
と、シリアスな雰囲気を壊すように可愛らしい音が聞こえてきた。音の発生源はなんとなくわかる。音の鳴った方向には先ほどまでの鋭い視線はどこえやら、少しだけ頬を赤らめて、斜め下の方を向いている少女だった。
「……先輩、この子にご飯を与えてもいいですか、ほら手元にカレーを持っていますから」
準備がよろしい。
パカっとタッパーを開けて、香ばしいスパイスの匂いが少女を襲う。多分異世界の方にはカレーなどないだろう。
とても美味しい匂いにタッパーの中身を注目してしまう少女。
「……先輩、あげますよ。この子にカレーをあげます。後水を持ってきてください」
「カレーをあげてもいいが、水は自分で持ってこい。何かされたら危険だからな」
「分かりました!スプーンも取ってきますね」
どうやってカレーを与えるつもりだったんだ。後輩ちゃんがキッチンの方に向かい、カレーも持って行ってしまったので多少残念な顔をしながらこちらを睨んでくる少女。
改めて対面する。
「……名前はなんていうんだ」
僕たちの聴き慣れない言語を話していたので、特に希望を持たずに質問をするが、特にこれといった反応はしていない。
完全に言語の壁があるらしい。
これまでに異世界に人が向かう事例は何度かあったが、向こうからこちら側にやってくる事例は初めてだ。異世界の方に探索をして帰ってきた探索者もいたが、人がいない荒野だったらしく、これが初めての異世界人とのコンタクトなんじゃないだろうか。まぁ、アメリカとかでかい国々はやってそうだけどな。
「持ってきましたよ」
水の入ったコップを片手に迫る後輩ちゃん。これ飲んでくださいと元気よくいっても伝わってないことに気づいたか、ジェスチャーで意図を伝えようとしている。
後輩ちゃんが何をしたいのかが分かったようで大人しく水を飲む少女。この二人の間には警戒心なんて存在しないのか。なんかあっさりと溶け込んでいく、人身掌握術に長けていたっけ?
「はい、あーん」
今度はカレーを差し出す。匂いに釣られたのか、後輩ちゃんが敵ではないと認識したのか、パクッと擬音を鳴らしてカレーを食べる少女。
そして二人の行動を観察している僕。
仲間はずれ感が否めないが、特に仲良くしなきゃいけない訳ではない。逆に、情が生まれたら判断能力が鈍くなる。僕はこの少女が変なそぶりを見せたら、即殺せと言われてるし(なるべくしたくはないが)、いまだに危険を抱えていることには変わりない。
マジでなんで僕に預けたんだよ。
こんな心情を知る由もなく、後輩ちゃんはご飯を食べさせてる。少女は満足そうな顔をする。
凄くのほほんとするな〜。
「いやぁ、喜んで食べてくれましたね。私は満足です」
キッチンへと行き、使ったスプーンなどを洗うようだ。遠ざかっていく後輩ちゃんの姿を見ている少女の目に薄らと涙が溜まってきた。
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