甘い話には裏があるもの

これまでもラズラリーは度々、鉱山で採れた一層上等な宝石を使って、自分好みのアクセサリーを作らせていた。そしてそれを、知り合いの貴婦人達に買ってもらっていたのだ。


ラズラリーは商売をするつもりは毛頭なく、ただ自分の作ったものを売ることで自分が認められた気分になっていたのだろう。原価や相場などの知識は全くないので、言ってしまえば値段は適当。


それでも、例え高額であろうと周囲の貴婦人達はそのアクセサリーを買ったのだ。公爵夫人から言われて断れなかったのだろうと、リリーシュはいつも気の毒に思っていた。


仮にそれが素敵なものであれば、リリーシュもそんな風には思わなかっただろう。しかし彼女のデザインしたアクセサリーはどれも、宝石をドンとあしらった華美なもの。


宝石をメインにしても、その台座やチェーンを考えれば問題はないだろう。しかし派手好きのラズラリーに掛かれば、上等な宝石もあっという間に成金が着けるような下品なものに変わる。


ラズラリー本人はとても気に入っている為、誰もハッキリとそれは変であると言えない。父親に至っては、素敵だ素敵だと褒めそやすだけで、ラズラリーはそれを間に受け益々派手なものを作るという、完全なる悪循環だった。


それでも今まではあくまで趣味の領域で、数も多くはなかった為問題はなかったのだ。しかしそれを商売にするとなれば、途端に話は変わってくる。


リリーシュの本音は、一つだった。


(宝石の無駄遣いだわ)


この心の声を、そのまま口にする訳にはいかない。リリーシュは必死に頭を働かせながら、どうにかラズラリーを傷付けることなく辞めさせる方法はないものかと考えた。


「お母様、確かにそのネックレスには一目で上等だと思われる宝石があしらわれています」


「でしょう?」


「ですが、いつも必ずしもそれと同じ宝石が出来上がるという訳ではありません。一言で言ってしまえばそれは、貴重なものなのです。もっと加工方法を変えれば、それを一つ売るよりも多くの利益を生むことができるでしょう」


「そういうことは、私にはよく分からないわ。でも旦那様は素敵だと言ってくれたし、手伝ってくれることになった豪商の方もこれはきっと向こうで高値で売れるだろうと、とても褒めてくださったのよ」


「豪商の方ですか?その方は、以前からうちと取引のある?」


「いいえ、旦那様は初めてお会いする方だと言っていたわ。何でも、たまたま私が着けていたブローチを見たらしく一眼で気に入って下さったんですって。嬉しいわよね」


確かに、ラズラリーはよく自分がデザインしたアクセサリーを身に付けている。しかし、貴族でもない豪商がそれを目にする機会があるのか疑問だ。


それに、例え本当にそれを見て気に入ったとしても、普通はそれを既製品だと思うだろう。それとも鉱山を所有しているアンテヴェルディ家の公爵夫人だから、きっと独自のデザインだろうと考えたのだろうか?


リリーシュの中で、少しずつ不安が大きくなっていく。本来ならば、両親がやろうとしていることに娘であるリリーシュが口を出すべきではない。


しかし、何となく胸がざわざわする。声を掛けてきた豪商が全くの初対面だということも、一層リリーシュの心を不安にさせた。

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