第124話 無人島までいくには
風が流れる音だけが聞こえてくる。
岩地で出来た迷宮内には、100軒以上の店が軒を連ねていた。
最近まで手入れがされていたと分かる建物であるが、商業ギルドからは人の姿が消え、少年神官の姿も無くなっている。
迷宮内主である土竜が扉を開き、亜弐羅をペンギンの元へ護送させるため、少年神官を地上世界へ帰したのだ。
七武列島近海で魚が捕れなくなってしまった謎を解決し、伐折羅海賊団を討伐しなければ、この商業ギルドが消滅してしまう。
商業ギルドが無くなると、七武列島の経済は一気に悪化し、少なからず餓死する者が出でくるだろう。
そう。それは同族を見殺しにした行為もみなされ、信仰心が下がる可能性があるのだ。
私には商業ギルドを護る使命はないが、この状況を放置しておくことが出来ない。
土竜へ別れ地上世界へ戻ろうとした時。
迷宮主の土竜から、地上世界へ一緒に行きたいとの申し入れがあった。
「三華月様。お願いがあります。」
「はい。伺いましょう。」
「私に三華月様の手伝いをさせてもらえないでしょうか。」
「私の手伝いとはどういうことでしょう。」
「はい。地上世界へ私を連れて行って下さい。」
「土竜さんは商業ギルドの迷宮主。ここを護る使命があるはずです。」
「三華月様。一刻も早く手を打たなければ、この商業ギルドはもう間も無く死んでしまいます。居てもたっても居られないのです。」
「それで私の手伝いをしたいというのですか。」
「はい。この商業ギルドを救う手伝いを私にさせて下さい!」
商業ギルドが死ぬと、新しいギルドが生まれてくる。
だが、この規模の商業ギルドに発展するまでには、相当の年数が必要になってくるだろう。
七武列島で生活している者達のことを考えると、存続させる方がいいことは目に見えている。
A級相当も魔物である土竜が戦力になるとは思えないが、戦闘行為以外のことならば役にたってくれるかもしれないか。
とはいうものの、連れていくにしても、確認しなければならないことがある。
「土竜さん。あなたを地上世界へ連れていくにしても、確認しなければならないことがあります。」
「はい。何でしょう。全て受け入れるつもりです。」
「まず一つ。魔物である土竜さんは、通常、地上世界で生きることはできません。」
「存じております。私を三華月様の眷属にして下さい。」
安全第一と書かれたヘルメットを被ったまま、土下座をしてきた。
魔物が地上世界で生きるためには、猛獣使い、もしくは、高位の聖女から加護をもらう必要がある。
使役された魔物は地上世界で生きる事を許される代償として、主従契約を結び眷属となってしまうのだ。
そしてもう一つ確認することがある。
私と主従関係を結んでしまうと、迷宮主の権利を失効してしまうのだ。
迷宮主を失った商業ギルドには、新たな迷宮主が生まれてくるのである。
「土竜さん。もう一つ確認させてもらいます。」
「はい。私は迷宮主で無くなってしまう覚悟も、出来ております。」
「そうですか。私の加護を得ると迷宮主の権利を失効することは知っていたのですか。」
「はい。商業ギルドの繁栄は、新しく生まれくるギルドマスターに託したいと思います。」
「覚悟は出来ているということですか。」
「もちろんです。三華月様の配下となり、迷惑系の魔物になることもいたしかたないと覚悟をしております。」
「迷惑系の魔物ですか?」
「一生、三華月様のために尽くすことをお誓い致します!」
土竜が誠心誠意の土下座をしている。
うんこを踏む呪いの件もそうだが、迷惑系の魔物とはどういう理屈なのかしら。
私のことを何だと思っているのでしょう。
チョイチョイと、おかしな話しを小出しにしてくるのだが、その情報元が気になるところだ。
だが、今は、私の優先事項は神託の遂行だ。
まずは、七武列島近海で、魚が捕れなくなった原因を調べなければならない。
少年神官に、情報屋の元まで連れていってもらう約束をしていたが、どうしたものかしら。
その時である。
土竜が、その情報に関し話し始めてきた。
「三華月様。目的地は、摩凛がいる南に浮かぶ無人島でよろしかったでしょうか。」
「どういうことですか。私の目的は、七武列島近海で不漁になった原因をつきとめて解決すること。その摩凛という者が何か関係しているとでもいうのでしょうか。」
「そうです。彼女こそが、七武列島近海が不漁になってしまった元凶です。」
「その話しを詳しく教えて下さい。」
「はい。摩凛はチート級の
「イルカの国ですか。」
「摩凛が拠点にしている無人島を中心にし、海から魚が消え始めたのです。」
「使役しているというイルカ達に原因があるということですか。」
「素直に考えると、使役しているイルカ達が、近海に生息している魚を大量に捕食し、それが原因でこの海域から魚が消えてしまったものと推測できます。」
猛獣使いの摩凛か。
土竜には嘘を吐く必要性がない。
逆に言えば、本当のことしか言わないはず。
更にいうと、その話しには整合性がある。
イルカを大量に飼育しているせいで、この近海の生態系か崩れているというのか。
土竜の話しが本当なら、その無人島に行けば問題は解決し、神託が達成されることになる。
次の問題は、無人島まで行く手段だ。
負傷している帝国旗艦ポラリスは使用できない。
誰かに連れていってもらうにしても、危険に巻き込むわけにはいかない。
どうしたものかと思っていると、土竜が思ってもいない提案をしてきた。
「三華月様。摩凛がいる無人島へ繋がる次元回廊を、私が掘削し開通させて頂きます。」
「次元回廊を掘ることが出来るのですか。」
「はい。私には闇商人から購入した、超古代機械があります。ご安心下さい。」
「そうですか。よろしくお願いします。」
「それでは早速、掘削ルートの検討に取り掛かりたいと思います。」
ここは七武列島首都にあるオープンカフェテラス。
空には星が広がっている。
帝国旗艦ポラリスにて物資が届いたことにより、街は活気を取り戻していた。
周りでは、まだ太陽が沈んだ時間帯ということもあり、子供達が勢いよく走りまわっている。
歓楽街に近い場所ということもあり、熱い風がお酒ににおいを運んでいた。
土竜は、安全第一と書かれたヘルメットに、真っ黒なゴーグルを装備し、正面の椅子に座りながら図面を引いている。
次元回廊を掘り進める計画図を作成しているのだ。
他のテーブルには、身だしなみを整えた男が優雅に新聞を読んでいたりし、お洒落なファッションに仕上げた女達が楽しそうに談笑している。
何もすることなく座っていると、ようやくといった感じで土竜が話しかけてきた。
「三華月様。掘削工事のプラン図が固まりました。」
「出発はいつ頃できそうなのですか。」
「今すぐにでも可能です。」
「それでは、摩凛がいるという無人島まで工事をお願いします。」
「三華月様へ一つお願いがあります。」
「お願いですか。伺いましょう。」
「書き上げた計画図のここをご覧ください。」
「目的地となる中間地点ですね。そこに何かあるのでしょうか。」
「はい。進行ルートの中間地点のここに、伐折羅海賊団の基地があります。」
「なるほど。摩凛がいるという無人島に行く前に、そこへ立ち寄るつもりですか。」
「はい。ご検討願います。」
「異論はありません。先に伐折羅海賊団を叩くことに致しましょう。」
土竜がしてきている提案について異論はない。
とはいうものの、不安要素もある。
摩凛がいる無人島までは、現在位置から直線距離にして20kmほど離れている。
次元回廊が開通するまでの時間。
出てきた残材はどう処理されていくのか。
疑問が尽きないところだ。
「土竜さん。いくつか質問があります。」
「何なりとお答えさせてもらいます。」
「先程、闇商人から掘削機械を購入したと言っておりましたが、その手に持っているスコップのことではないですよね。」
「もちろんです。これは全ての物質を砕くことが出来る最強のスコップですが、闇商人から購入した工作機とは異なります。」
「最強のスコップなのですか。」
「ちなみに私がかぶっているこの安全第一と書かれた最強のヘルメットは、全てを防ぐことが出来る優れものです。この最強のサングラスは日差しや強い照明から眼を守ってくれるだけでなく、相手の戦闘力を計測してくれるのです。」
心強い言葉ではあるが、大丈夫なのだろうか。
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