第16話 隠謀崩壊
「ひっ!」
そこには宰相の令息が、何故かサロンの横にある扉から、出ようとしている姿があった。
「何処へ行こうとしているのですか?」
第一王子妃が得意の笑顔でそう質問すると、宰相の令息は「ひぃぃっ!」と何故か悲鳴をあげながら、後退った。
その時、運悪く側にあった花瓶に躓き、盛大に頭から水を被ってしまう。
「大丈夫ですか?」
あらあらまあ、と第一王子妃はそう言って心配するが、宰相の息子はそれ所では無いらしかった。
何故か「ぼ、僕は関係ない!」と意味不明な言葉を呟きながら、必死で首を横に振っていた。
「あら、そんなに慌ててどうしたのですか?ああ、二年前に国王様のお茶に毒を仕込んだことがバレると心配しているのですか?」
「え!?」
第一王子妃が、心配そうな顔をしながら聞いてくると、宰相の息子は真っ青になって聞き返してきた。
その反応に、第一王子妃は
「ええ、大丈夫ですよ、もうバレてますから。」
「!!!!!!」
第一王子妃はそう言って、またしても何かの書類を出してきた。
「調べによると、二年前のあの事件で、宰相のご令息様は、給仕係に直前になってある茶葉を渡してきたとか?その時の給仕係だった侍女からは、証言が取れています。」
「う、嘘だ!」
王子妃の報告に、宰相の息子は抗議してくる。
「その給仕係には、国王様からのご命令で取り寄せたと言って、そのお茶を出させたそうですわね。しかし、そのお茶は事件の後、行方不明になっているのだとか。国王様、そのような茶葉を取り寄せたというご記憶はありますか?」
「いや、予はそんな命令をした覚えはないぞ。」
「と、いう事ですが。宰相のご令息様、何故そのような嘘をおつきになったのですか?」
そう言って、宰相の息子を見た。
「ち、違う!僕が指示したんじゃない!!僕はフリージアからお願いされて」
「な、何をいい加減な事をおっしゃいますの!!」
宰相の息子が縋る様に見てきた相手は、そう言って必死に否定してきた。
そして人目も憚らず、言った言わないの言い争いが始まってしまった。
「あらあら、意見が食い違ってしまいましたわね。まあ、その辺の審議は後程ゆっくりと、専門の方にお願いするとしましょう。」
「そうじゃな。」
いつの間にか、第一王子も加わって騒いでいる三人を他所に、第一王子妃と国王はそう言って頷き合い話を纏めにかかった。
「衛兵、そこの四人を連れていけ。」
「「「「はっ。」」」」
国王の命令で、周りにいた騎士たちが一斉に動き出す。
そして、あっという間に彼らは捕らえられ、サロンの外へと連れられて行く。
その時、衛兵の手を振りほどいて、宰相の息子が第一王子妃に襲い掛かってきた。
「お前さえ来なかったら!!」
宰相は懐に隠していた短剣を、王子妃に向かって振りかざしてきた。
その時、キン、という音と共に宰相の息子が吹き飛ばされる。
見ると、折れた短剣と宰相の息子が床に倒れていた。
「ありがとう。」
第一王子妃は、助けに入った己の侍女に感謝の言葉を告げる。
「な、なんで侍女如きが!?」
掌底を喰らい、頬を抑えながら驚きに目を見張る宰相の息子に、侍女はふふんと胸を張って言ってきた。
「わたくし達は、お嬢様の護衛兼世話係として付いて参ったのですから、これ位出来て当り前ですわ。」
何故か他の侍女も加わり、三人揃って無い胸を張ってくる。
その威圧的な態度に、勝ち目はないと悟った宰相の息子は、がっくりと肩を落とし、そのまま騎士に連れられて行ったのだった。
「お嬢様、お怪我はありませんか?」
三人の侍女たちは、息もぴったりに心配してくる姿に、第一王子妃はくすりと笑むと
「ええ、大丈夫よ。」
と言って、にっこりと微笑んだのであった。
その後――
王宮側で再度詳しく調べたところ、侯爵令嬢と宰相の息子が国王暗殺に加担していたことが分かった。
侯爵令嬢の着ていたドレスの裏側に、小さな毒の入った瓶を隠し持っていたことが決定打となった。
侯爵令嬢は、ドレスの裏側に縫い付けられていた毒薬を見て「こんなの知らない!」と、目を丸くして驚きながら否定していたが、ベテラン尋問官の取り調べで、とうとう国王暗殺計画を白状したのだった。
そこからは、あれよあれよという間に関係者が割り出され、なんと首謀者は、侯爵令嬢の父親である侯爵だった。
侯爵は、幼い頃から娘に王子を誑かすように教育を施し、ゆくゆくは第一王子の正妃になった侯爵令嬢を通して、この国を意のままに操ろうとしていたそうだ。
国家転覆を目論む陰謀は瞬く間に国中に流れ、侯爵家は土地と爵位返上を余儀なくされた。
そしてその後、侯爵令嬢と宰相の息子は罪人として島流しにされ、毒の茶葉を取り寄せた商会の息子は勘当され牢屋に入れられているらしい。
騎士団長の息子は余罪こそ無かったが、性悪女に現を抜かした腑抜け者と、父親である団長から鉄拳制裁された挙句、勘当と共に騎士の除隊を言い渡されたそうだ。
第一王子はというと、国王暗殺には直接加担していなかったが、間接的に手助けしてしまった形になり罪が問われた。
しかし、国王同様廃人にされかけていたという事もあり、王の恩情で廃太子され離宮の奥で軟禁されることになったそうだ。
そして2週間後――
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