第14話 侯爵令嬢のお茶2

「ひっ。」


侯爵令嬢は、堪らずその場に座り込んでしまった。

その時、部屋の隅で待機していた騎士が駆け寄ってきた。


「大丈夫ですか?」


そう言って、侯爵令嬢を優しく介抱する。


「あ、貴方は……。」


侯爵令嬢は、何故か目を見開き驚いていた。


「大丈夫です、貴女の事は私が守りますから。」


騎士はそう言うと、侯爵令嬢の肩を持って抱き寄せてきた。

突然起こった遣り取りに、呆けた顔で見守っていた第一王子が、我に返って声を張り上げてきた。


「お、お前は、騎士団長の息子!何故、お前が気安くフリージアに触れているんだ!?」


本来なら護衛の騎士は、その護衛対象を護るのが常である。

先程、名を呼ばれた騎士団長の息子とやらは、国王を護衛するために部屋に配置されていた。

彼が動くには護衛対象に命令されたか、その対象が危機に瀕したときだけである。

そして国王は令嬢が倒れた時、誰にも命令は下していなかった。

しかし、彼は誰に命令されたわけでもなく自分の意志でその規律を破り、侯爵令嬢の許へ行った。

その事実に、周りにいる者たちは、二人の関係を悟る。


侯爵令嬢は、周りの視線に気づき、騎士団長の息子の腕を振り払ってきた。


「フ、フリージア??」


振り払われた騎士団長の息子は、訳が分からないといった顔で侯爵令嬢を見る。


「こ、こんな人、知りませんわ!」


侯爵令嬢の言葉に、団長の息子は更に目を見張った。


「そんな、俺の事を好きだと言ったのは嘘だったのか!?」


「そ、そんなこと言った覚えなんてありませんわ。」


騎士団長の息子の爆弾発言に、周りの者たちから、どよめきが沸き起こる。

その中心人物になってしまった侯爵令嬢は、辺りを見回しながら「違う、違う!」と髪を振り乱しながら否定してきた。


「何が違うというんだ。」


そこへ、低く恐ろしい声が響いてきた。

声のした方を見ると、第一王子が拳をぶるぶると震わせながら侯爵令嬢を見ていた。


「俺というものがいながら、お前は……。」


「ち、違います!わたくしは第一王子様だけです!信じてください!!」


そう言って、第一王子に縋りつこうとした侯爵令嬢を、王子は払いのけた。


「きゃあ!」


「フリージア!!」


床に倒れ込む侯爵令嬢を、騎士団長の息子が助けようと手を伸ばす。

しかし、侯爵令嬢はその手を避けたため、盛大に床に転がる事になってしまった。

無様に床に這いつくばる侯爵令嬢に、冷たい視線が突き刺さる。

そして、茶番は終わりだと第一王子が国王の方へ視線を戻して目を見張った。


そこには、呑気にお茶を飲みながら国王と談笑している第一王子妃がいたからだった。

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