第47話「それなら大丈夫だって。体調管理はちゃんとしてるから」
12月。
11月はまだ暑い日はあったものの、12月になれば流石に冷え込んでくる。
この日は朝から冷え込み、誰もが冬服を着て寒さ対策をしている。
そんな中、オタク君のクラスで薄着の者が居た。
優愛である。
席に座ったオタク君の近くで、村田姉妹と談笑している優愛。
他の生徒たちは長袖のブレザーを着ているというのに、優愛は袖が無いタイプのセーターを着ている。
一応学校指定の長袖カッターシャツを着てはいるが、ボタンはいくつも開け広げられ、胸元とヘソが露出している。
ここまでくれば、当然スカートも短い。
その姿は、冬場で雪が降っても半そで半ズボンの小学生に通ずる物を感じる。
「おやおや~、小田倉君さっきから優愛見てるけど、どうしたの?」
「あ、いえ。優愛さん、その恰好で寒くないのかなと思って」
あえて誰も優愛に尋ねなかった事を、オタク君が尋ねた。
そんなオタク君の言葉に、優愛が笑いながら答える。
「そんなの、寒いに決まってんじゃん」
「ですよね」
じゃあ、なんでそんな恰好をしてるんだと言わんばかりのオタク君。
クラスメイトも内心そう思っている。
オタク君達の学校は各教室冷暖房が完備されている。
とはいえ、それでも薄着でいるのは寒い。
外に出れば、更に寒くなる。
「寒いなら、ちゃんと服を着た方が良いですよ」
オタク君。アドバイスが意味深である。
ちゃんと着るとは、薄着の事を指しているのか、露出の多さを指しているのか。
多分前者であるだろうが。
「だってさ、ブレザー来たら可愛くなくない?」
「ブレザーはブレザーで可愛いと思いますけど……」
オタク君の言葉に、一部の男子が頷く。
制服の素晴らしさを分かる者達だろう。
夏服の半そでシャツも良いが、ブレザーはブレザーで
どうやら優愛にはそれが分からないようだ。
「せっかくオシャレしたいからこの学校に入ったのに、寒いからって厚着したら勿体なくない?」
優愛のその言葉に村田(姉)も同意のようだ。
「優愛、その気持ちわかる!」
優愛と違い、冬服をちゃんと着ていた村田(姉)だが、バサッとブレザーを脱ぎ、自分の椅子にかけて、優愛と同じようにシャツのボタンを外していく。
「ブレザーも最初は可愛いと思ったんだけどさ、やっぱ体系隠れるから可愛さが微妙に感じるんだよね」
「そうそう。スタイルが隠れちゃうんだよね」
優愛と村田(姉)の言葉に、一部の女子が俯く。
それはスタイルの良い者が得られる特権だからである。
優愛と村田(姉)のスタイルはかなり良い方だ。
それ故に、他の女子から共感は得られないようだ。
「オタク君は、ブレザー着てた方が可愛いと思う?」
「それは……」
優愛の為を思うならブレザーのが可愛いと言うべきだろう。
しかしオタク君、目線は優愛の胸元やお腹に行ったり来たりである。
返答に詰まるオタク君。
そんなオタク君をからかうように、村田(姉)が前かがみをする。
「小田倉君。私もブレザーよりこっちのが良いよね?」
そう言ってにやにやしながら、オタク君に胸元を強調している。
最近は優愛やリコのおかげで女性耐性を持ち始めたオタク君だが、優愛やリコ以外にそういう行動を取られるのは慣れないようだ。
思わず赤面して俯いてしまうオタク君。俯きながらも目線は村田(姉)の胸元を行ったり来たりしている。
オタク君の反応に、村田(姉)は少し顔を赤らめ胸元を手で隠す。
「あはは、冗談だって」
村田(姉)
目立ちたがり屋で見栄っ張りだが、本当はシャイというめんどくさい性格である。
なおも、オタク君に詰め寄ろうとする優愛。
しかし、タイムアップのようだ。キンコーンカーンコーンと予鈴の音が鳴り響く。
「もう少ししたら先生が来るから、自分の席に戻りましょう」
「ちぇー」
「それと、寒いですから風邪ひきますよ」
「それなら大丈夫だって。体調管理はちゃんとしてるから」
体調管理をちゃんとしているなら、冬服を着るべきなのでは?
のどまで出かかった言葉を飲み込むオタク君。多分、今の優愛に言っても聞かないだろう。
本人が大丈夫と言うのなら、大丈夫なのだろう。
翌日。朝のST。
予鈴と同時にアロハシャツを着た担任、通称アロハティーチャーが教室に入る。
号令をかけた後に、彼はクラスの空席を見てから朝のHRを始めた。
「あー、今日は鳴海と村田が風邪をひいて休みだ。最近は冷えてきたから、ちゃんと暖かい格好をするように」
「優愛さん、体調管理出来てないじゃないですか」
思わず小声でツッコミを入れるオタク君。
どうせなら、担任の格好にもツッコミを入れて欲しい所である。
机の影に隠れて、こっそり携帯を操作するオタク君。
担任の視線を気にしながら、ラ●ンで優愛にメッセージを送っている。
『風邪大丈夫ですか?』
『マジしんどい。死にそう』
いつもならメッセージを送ると大量のメッセージが返ってくるのだが、今日はその一通だけだ。
優愛の様子が気になるオタク君だが、あいにく授業中だ。
「……帰りにお見舞いに行くかな」
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