第37話「オタク君、リコ誘ってお昼一緒に食べよう」

 文化祭が終わり、翌日は体育祭。

 オタク君のクラスは前日の文化祭に続き、体育祭もやる気満々である。


「よっしゃ、E組いくぞぉ!」


 男子生徒が手作りの応援旗を振りながら声を上げると、他のクラスメイトも「オー」と声を上げる。

 オタク君も少し恥ずかし気だが、ちゃんと声を上げていた。


 掛け声を上げた後、それぞれが自分の出る競技の場所まで移動する。

 ちなみにオタク君が出る種目は男女混合2人3脚。

 オタク君は体は鍛えているが、鍛え過ぎた筋肉のせいで、普通に飛んだり走ったりするには適さないのである。

 なので、ちょっと変わった種目を選ばされている。


「小田倉君、大丈夫ですかぁ? きつくないですかぁ?」


「うん。大丈夫ですよ」


 オタク君の相方は委員長である。

 2人は足を赤い布で結び、スタート地点までやってきた。

 お互いの腰に手をやり、準備は万全のようだ。


 スタートの合図と共に、サクサクと走っていくオタク君と委員長。

 息がぴったりである。


 まだ自分の競技まで時間があるクラスメイトの歓声を背に、オタク君達はそのままゴールまで独走。

 見事1位を勝ち取った。 

 

 喜びの声を上げるE組の面々。若干一名程素直に喜べない者も居るが。


(うぅ、オタク君と出たかったのに)


 最初にオタク君と2人3脚を立候補した優愛である。

 あまりにオタク君と息が合わないため、委員長と交代させられたのだ。


 まぁ、息が合わなかったのは、オタク君が恥ずかしがって上手く合わせられなかったのが原因なのだが。

 優愛とぴったりくっつきながら腰に手を回すのは、今のオタク君にはハードルが高いので仕方がない。


(ちっ、優愛以外の奴が小田倉とくっ付いてる)


 いや、もう1名ほどオタク君の活躍を素直に喜べない者が居るようだ。

 オタク君と委員長の様子を、睨むように見つめている小さな影。リコである。


 そんな優愛とリコの様子に気付くわけもなく、オタク君は委員長と仲良く話しながら、紐を外すのも忘れて歩いている。

 どれだけ息があっているのやら。結局2人は指摘されるまで紐をつけたままだった。


 クラスメイトの応援をしながら、気づけば時間は12時を回っていた。

 昼食の時間である。


 食べる場所は教室でもそれ以外でもどこでも良い感じだ。

 なので、あちこちで仲良しグループがシートを敷いたりして一緒に昼食を取っている。


「オタク君、リコ誘ってお昼一緒に食べよう」


「良いですよ」


 特に断る理由もないので、二つ返事でOKをするオタク君。

 

「私も一緒に良いですかぁ?」


「うわぁ」


 思わず驚きの声を上げるオタク君と優愛。

 気づくとオタク君の後ろには委員長が立っていた。いや、実際は優愛が話しかける前から立っていたりする。

 なのに気づかれなかったのだ。ピンクの頭に地雷メイクは目立つはずなのに。恐ろしく存在感がない。


「僕は構いませんけど、優愛さんは?」


「私も良いよ」


(委員長、たまにオタク君と仲良くしてるの見かけるけど、どういう関係なんだろう) 


「ありがとうございます」


(優愛さん。いつも小田倉君と一緒に居るけど、どういう関係なんでしょう)


 女同士の腹の探り合いである。

 何はともあれ、昼食である。


 リコを誘い、校庭の一角でシートを敷いてそれぞれがお弁当を広げている。優愛を除いてだが。


「優愛さん、パンだけで足りるんですか?」


「ん? 大丈夫だよ?」


 優愛の昼食はパンである。

 というのも、お小遣いだけではどうしても欲しい物を買うには足りない。

 なので、昼食代を削るしかないのだ。


 お弁当を買うお金でパンを買い、差額を懐に入れる高校生あるあるである。

 自炊を出来ればもうちょっとはマシな昼食を食べられるだろうが、優愛の自炊スキルは壊滅的なので無理な話だ。

 

「それだけだとキツイだろ。ほら、アタシの分けてやるから」


 リコが弁当の蓋に、自分の弁当のおかずを乗せて優愛の前に置いた。


「じゃあ僕のも少し分けますよ」


「私のも分けてあげますね」


 オタク君と委員長の差し入れのおかげで、そこそこの量にはなっていた。

 しかし、一つ問題が。


「箸が無い……」


 流石に手づかみで食べるのは、抵抗がある。

 優愛はオタク君をチラっと見た後に、口を開ける。


「あーん」


 あーんしてという要求だ。

 あわよくば間接キスなんて考えているのだろう。少し頬が赤くなっている。


「はい、どうぞ」


 そんな優愛に、委員長があーんをしてあげている。

 明らかにオタク君をチラチラしている優愛なのだが、委員長はお構いなしだ。


 鈍感と気遣いの合わせ技である。まるでどこかの誰かさんのようだ。

 そのどこかの誰かさんは、生暖かい目で優愛と委員長を見ていた。

 

「そういえばリコさん、前貸したラノベどうでした?」


 2人の邪魔にならないように、あえてリコに話しかけるオタク君。

 鈍感と気遣いの合わせ技である。


「あ、あぁ良かったよ。主人公の父親が主人公を庇って死ぬシーンとか感動したよ」


「リコさん、ちょっとお話があります」

(訳:あっ、それ私も好きなラノベ、一緒に話そう(*'▽'))


「ひっ!」


 リコの言葉に、オタク君よりも早く反応する委員長。

 相変わらず口下手で無表情なせいか、リコが完全に委縮している。


「小田倉君とはそういう話、良くするんですかぁ?」

(訳:リコさんもラノベ好きなの?(*'ω'*))


「そ、そこそこかな~?」


 リコから隠れオタク臭を感じたのだろう。共通の趣味を見つけた委員長が、リコにあれこれ質問をしている。

 しどろもどろになりながらも、会話が成立するリコ。


 仲良く(?)おしゃべりをするリコと委員長。

 委員長がリコに興味を持った隙を、優愛は逃さなかった。


「オタク君。あーん」


 口を開けてあーんの要求だ。

 まだおかずは残っている。


 戸惑うオタク君だが、優愛に促され、箸でおかずを摘まみ優愛の口へ差し出す。

 差し出されるたびにパクパクと食べて行く優愛。すぐにおかずは無くなった。


「オタク君ありがとう」


「いえいえ」


 そう言って、そのまま自分の箸で弁当を食べ始めるオタク君。

 間接キスになる葛藤はあったが、箸を洗いに行くのも失礼だし、普通にお腹がすいていたのもある。

 そもそも反対側で食べさせれば良かっただけの話である。 


 昼休憩の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。

 既に食べ終わったオタク君達は、シートを片付けて、それぞれクラスへ戻っていく。


「いたっ」


「ふんっ!」


 戻る途中、オタク君が割と本気でリコに蹴られたのは言うまでもない。

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