第35話「とりあえず、リコさんのクラスの展示見に行くのはどうですか?」
「冥土喫茶、普通だったね」
「そうですね」
名前が名前なだけに、サプライズを期待したオタク君と優愛。
本当におじちゃんおばちゃんが普通に給仕してるだけの、学園祭レベルの喫茶店だった。
学園祭という事で、料理の値段は格安ではあるが。
「学園祭どこ見に行こうか?」
「とりあえず、リコさんのクラスの展示見に行くのはどうですか?」
「おっ、良いね。行こう行こう」
「急ぐと危ないですよ」
オタク君の手を引いて駆け出す優愛。
優愛に手を引かれ、一瞬もつれながらオタク君も駆け出した。
リコのクラスまで到着したオタク君と優愛。
ドアの前には展示内容がでかでかと張り付けられている。
『クラゲの生態』
物凄く興味をそそられないタイトルだ。
一部クラゲマニアや、クラゲ好きなら興味を持つかもしれないだろう。
だが文化祭の展示でやる物なのだろうか?
「クラゲだってさ」
「クラゲですね」
事前にリコからクラス展示はクラゲという事は聞いていた。
だが、何の捻りも無さ過ぎて反応に困るオタク君と優愛。
「とりあえず中を見て見ましょうか」
「そうだね」
他に客が入る様子はないが、立ち止まって居ては迷惑になるかもしれない。
意を決してドアを開ける。
「ようこそ1年C組へ。ここではクラゲの生態を、我らクラゲガールズが案内しながら説明いたします」
「「……」」
更に反応に困るオタク君と優愛。
ドアを開けると、多分C組の女生徒3人が、薄い青色のひらひらしたワンピースと、頭にクラゲのような物を被りながら出てきたのだ。
多分クラゲをモチーフにした格好なのだろう。グラゲガールズと名乗っているわけだし。
「あはは。リコ何その恰好。可愛いんだけど」
クラゲガールズと名乗った生徒の内の一人はリコだった。
優愛、その姿を見てバカ受けである。
「ちょっ、優愛笑うな!」
「ヤバイ、マジ可愛いんだけど。オタク君もそう思うでしょ?」
「ははっ、そうですね」
リコは顔を真っ赤にして必死に言い返すが、完全に優愛のおもちゃにされている。
「リコの友達なんだ。じゃあリコが案内した方が良いよね」
「ウチら戻っとくから、後よろしくね」
そそくさと逃げるように去っていく女生徒。
実際、恥ずかしいから逃げ出したのだろう。恰好的な意味で。
「あっ、待て」
「ほらほら、クラゲガールズさん。案内してよ」
「優愛さん、からかっちゃ可哀そうですよ」
リコを
「えーなんで。めっちゃ可愛いじゃん」
だが言う事を聞こうとせず、リコに抱き着く始末である。
「おさわりは厳禁だ。離れろ。小田倉も見てないでどうにかしろ!」
どうにかしろと言われても、くっ付く二人。男であるオタク君が変な所を触れば停学物である。
どうするべきかあたふたしながらも、なんとか引き離すオタク君。
「クスクス」
「ほら、笑われてますし優愛さんもうやめましょう」
リコのクラスメイトが3人の様子を見て笑っているのが見えた。
馬鹿にしているというよりは、生暖かい目で見ている感じである。
オタク君とリコが顔を赤くしているが、優愛は全く気にした様子はない。
「ほら、早く案内してー」
「ったく。誰のせいだと」
ブツブツと小声で文句を言いながらも案内を始めるリコ。
ここで問答をすれば、また優愛がちょっかいをかけてくるだろうから、大人しく案内する事を選んだのだろう。
部屋の中は、窓を暗幕で覆い昼間だというのに薄暗い。
青いセロハンを張ったライトが所々照らし、やや幻想的な空間になっている。海底をイメージしているのだろう。
リコの案内に従い、展示されている物を見ていくが、内容は思ったよりも分かりやすい上に深く書かれていて、興味を持てるものであった。
それなりに博識のオタク君ですら知らない知識だらけで、気が付けば夢中になって読みふける程だ。
「見て見てオタク君。クラゲって大きいのだと30m超えるんだって!?」
「みたいですね。こっちは年老いたクラゲが若返って不老不死になるって書いてあります」
オタク君と優愛、少々はしゃぎ過ぎのような気がするが、他に客は居ないので問題ないだろう。
あえて言うなら、2人がそんな風にはしゃぐせいで、クラスメイトが余計にニヤニヤして見てくるのでリコが恥ずかしそうにしているくらいだ。
「いやぁ、思ったよりも凄かったね」
「そうですね。読み始めると一気に引き込まれました」
展示物を読み終え、満足そうなオタク君と優愛。
「リコ、もうお客さん来ないと思うしもう交代して良いよ」
「友達と一緒に回って来なよ」
「おっ、リコもう交代して良いって。一緒に文化祭回ろう」
「一々大声出さなくても聞こえてるって、着替えたら行くから外で待ってて」
「えー、そのままで良いじゃん。可愛いよ」
「もういいから。小田倉、早くソイツ連れて行ってくれ」
「はい。それじゃあ外で待ってますね。ほら優愛さん、行きますよ」
「えー」
やや不満げな優愛が、オタク君に背を押されリコのクラスから出ていく。
そんな様子を見て、リコは盛大にため息をついた。
「勿体ないなぁ。オタク君だってリコの格好可愛いと思うでしょ」
「まぁ確かにリコさんは可愛かったと思いますけど」
出ていく際に、特大の爆弾発言を落としていく優愛とオタク君。
スカートの裾を抑え、恥ずかしさのあまり顔がゆでダコのように真っ赤になったリコをクラスメイトの女子達がからかったのは言うまでもない。
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