追放殿下は定住し、無自覚無双し始めました! 〜街暮らし冒険者の恩恵(ギフト)には、色んな使い方があってワクテカ〜

野菜ばたけ『転生令嬢アリス~』2巻発売中

第一章:マイペースに生きてると、たまにはオークに囲まれる。

プロローグ

第1話 目が覚めたらオークパニック



 ドスッと来た腹への衝撃に、思わず「ぐえっ」と声が出た。

 先に覚醒した意識が「何事だ?!」と心で叫び、遅れて重い瞼が上がる。

 

 無意識に衝撃の元を辿ってみれば、ちょうど腹にキツネ耳付きの金色頭がベタリとへばりついていた。

 見慣れた頭ではあるものの、起床の合図にしては少し過激が過ぎるような気がする。


「何だ? クイナ」


 そう尋ねると、安心したのか、したいのか。

 腹に回った小さな手がギュッと力を強くした。

 

「クイナ、怖いのぉ……」

「え、何が」


 起き掛けこそイタズラか何かと思ったが、この声色と温もりから伝わる震えの感触に切迫したものを感じる。

 更なる問いにこちらを向いた薄紫の瞳はうるうると潤んでいて、表情からも頼りなさげな懇願の念が見て取れた。


 極めつけは、もふもふだ。

 自慢のモフ耳はペタンと垂れて、モフ尻尾なんて足の間にすっかり引っ込んでいる始末。



 ――尋常じゃない。



 孤児のクイナと出逢ってから、時間にしてまだ2か月弱。

 それでも俺は、物怖じしない普段のクイナを良く知っている。

 ただそれだけで、そう思うには十分だった。



 震える背中をポンポンと軽くあやしながら、クイナの重みに抗ってまずは無理やり体を起こす。

 周辺の状況確認が出来たのは、この時だ。


 そして瞬時に異常を見つける。

 否、むしろ異常しか存在しない。


 思わずヒュッと息を呑んだのと、クイナが言葉を発したのとでは一体どちらが早かったろう。

 おそらく良い勝負だったんじゃないだろうか。


「クイナたち、にグルッて囲まれちゃってるのぉーっ!!」


 言うと同時に、クイナの頭が俺の腹にグリグリグリグリめり込んでくる。

 地味に痛いが、そんな事を一々気にしてはいられない。


 逃げ込む先などどこにも無い、この広い草原のど真ん中。

 逃げ込んでくるクイナの頭を、俺も気付けば反射的に体を丸めて庇っていた。



 今クイナが言った通り、オークの大群が俺達を中心にグルッと一周、包囲する形で立っていた。

 その上一体一体が、3メートルほどもある巨体。

 肉厚な腹に太い腕、手には斧を持っている個体もチラホラと居る。


 俺でさえ、突然出会って息を呑んだような光景だ。

 幼いクイナがこんな風に縮こまるのも無理はない。



 オークがこちらをノックする度に、相手を拒絶する音がビィーン、ビィーンと鳴っている。

 

 今のところはそう急いだ話じゃない。

 至近距離過ぎて驚いた心臓が少し落ち着きを取り戻し、冷静さが帰って来た俺はそんな風に思う。

 


 とりあえずの安全が確保されていると理解して、きっと余裕が出来たんだろう。

 「はぁー」とため息を吐きながら、俺は思わず空を仰いだ。



 ――どうしてこうなった。


 心の中で自問する。


 3時間前と全く変わらず爽やかな色のままの空が、俺に「これはお前の油断と今日の不運が絶妙なマリアージュを遂げた結果だよ」と言っているような気がした。


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