第41話 結婚攻防

 現在、僕達は子爵様の屋敷――――エイミーさんの部屋で優雅にお茶を飲んでいる。


 テーブルには美味しそうなお菓子がずらり並んでいて、僕と妹、エイミーさんの三人がテーブルを囲って、お茶を楽しんでいるのだ。


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


 4人の中に沈黙が続く。


「お、お兄ちゃん……」


 小声で僕の腕を揺らす妹。


「いいんだよ。あの変態は少し反省しなきゃいけないから」


 変態――――――もとい、子爵様。


 死んだふりをして、僕とエイミーさんの婚姻を成そうとして、エイミーさんの特大平手打ちを喰らった子爵様は、左頬が真っ赤に腫れてテーブルの脇に正座させている。


「全く、お父様ったら…………まさか【ライトニング】特製の偽装血袋まで使われるなんて」


「偽装血袋?」


「ええ。【ライトニング】は基本的に一人任務が多いので、もしもの時のために死んだふりをするために用意しているんです」


「…………その袋って、まさかもっこりの中に入れてます?」


「そうですね。大体男性の方はそこに入れておりますね」


 おかしいと思ったわ!


 いくらなんでも、子爵様の玉があんなにデカいなんておかしいと思ったよ!


 決して自分が小さい訳じゃなかった! 良かった!



 ベシッ!



「うふふ、ホロ様のは可愛らしくて、とても好きなのですが、殿方はそういう所を気になさるのですね」


 ちょっと恥じらいながらそう話すエイミーさん。


「それにしても子爵様はなんであんな悪ふざけをしたんですか?」


 みんなの視線が子爵様の向く。


「う、うむ! ホロくんには【ライトニング】の素質があると思ってな! それにうちの娘は自慢じゃないがに似てとても綺麗なのだ! そんな娘を嫁がせるならホロくんのようなかっこよくて強い男にしたいと常日頃思っていたのさ!」


「お父様! たしかにホロ様はかっこよくて強くて時々可愛らしいけど家族を大切にして素晴らしいお方ですが、卑怯な手で結婚など許されません!」


 二人がものすごく早口だ。


「だがエイミーよ! この街で【デモンシーズン】がいなくなったからには、ホロくんはこれからまた次の【デモンシーズン】を追いかけていなくなってしまうのだ! 急いで婚姻を進めた方がいいのではないか!?」


 いやいや、なに勝手に【デモンシーズン】を追いかける話になってるんだよ。


「そうでしたわ。そうなるともう会えないかも知れませんわね。ここは急いで婚姻を――――」


 ベシッ! ベシッ!


 思わず妹のハリセンを借りて子爵様とエイミーさんの頭に叩き込む。


「二人とも悪ふざけはいい加減にしてください! それはそうと、子爵様。あの爆発は何があったんですか!」


「あ、ああ。あの時にな――――孤児院を襲撃した後にだな」


 孤児院を襲撃って、悪者みたいな言い方すんな。


「わしの敵センサータマが反応してしもうてな。急いで屋敷に戻ったところ、とても強そうな男がやって来たのだ。彼は【デモンシーズン】の幹部だと名乗り、捕まえていた幹部を取り返しに来たそうだ。わしは一撃でやられて気絶している間に、捕まえていた幹部を奪われてしまったのだ」


「やっぱり幹部が取り返しに来たんですね。まあ、無事で何よりです」


 命あっての物種だからな。


 今はとにかくみんなの無事を喜ぼう。


「エリー? 孤児院の方はどうなった?」


「お兄ちゃんが行った後、兵士さん達を説得して孤児達をまとめて貰ったの。最初は怖がられていたけど、コドラちゃんのおかげでみんな心を開いてくれて、そのままお城に移動したよ」


 きゅいー!


 珍しくコドラちゃんがドヤ顔だ。


 コドラちゃんの頭を優しく撫でてあげる。


「今回はコドラちゃんも大活躍だったね。これからも頼むぞ?」


 きゅいー!


「…………」


「…………」


「あの…………エイミーさん?」


「はい?」


「それは?」


「あら、お構いなく~」


「いや! 構うわ!」


 いつの間に僕の左手を持ち、朱印を付けようとするエイミーさん。


 それで押そうとしたるのって、結婚証でしょうが!


「うふふ、ホロ様? わたくしとの婚姻を認めておられたと思うのですが?」


「え!? そ、それは子爵様が…………」


「いくら危篤な状況だったとはいえ、男が一度口にしたのならな~守るのが筋というものだろうな~」


 くっ……この変態は口が減らないな。


「わたくし…………ホロ様のお嫁さんになりたかったな…………」


「ほらほら、男としてぱーっと判子はんこを押すがいい!」


 くっ、どうしよう。


 このままでは断わりにくいじゃんか!


 考えろ、ホロ!


 考えるんだ!


 思考を止めるんじゃねぇぞ!


 …………。


 あっ。


「ふふっ。お二人とも」


「はい?」「うむ?」


「お二人とも、とても重大な事に気付いていませんね」


「えっと……?」


「そもそも、僕が結婚を許可した・・覚えはないのです」


「なっ!?」


「よくよく思い出してみてください。僕が言ったのは――――」





 ――――「分かりました。子爵様。エイミーさんは僕が――――――」。





「ほら! 結婚しますとは一言も言っていない!」


「なんだとぉおおおおおお!」


「そ、そんなぁ…………」


「ぎゃーはははは! これで僕が結婚するとは一言も言っていないので、この話はなしです!」


 勝った!





 ベシッ!


 僕の頭に妹のハリセンが叩き込まれた。


「みんないい加減にしてください!」


 妹よ。


 せめて僕だけじゃなくて、みんなの頭に叩き込もうぜ……。

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