その8.涙
それは、ある日曜日の昼2時頃の出来事。
今日は朝8時に起きてテレビの前に貼りつきラブキュアのアニメを見た後、上機嫌で家を出て、12時に一度帰宅し昼ご飯を食べた後、再び出かけて行った優……が、ついさっき泣きながら帰って来た。
(どこのどいつが泣かせやがった……? 内容によっちゃぶち殺……)
「あらー! 優ちゃん今日も可愛いねー! ところで誰に泣かされた? 優ちゃんの代わりにお兄さんがそいつの首をキュッと締めてきてあげましょうねぇ。殺る時は殺るぞ! 樹久お兄さんは!」
今日も今日とて住居不法侵入して来やがった樹久は、泣いている優を見るなり笑顔でそう言い終えるとシャドーボクシングを始める。
だが、気持ちは痛いほどわかる。いや、むしろ俺が葬って……まあ、とりあえず理由を聞くべきだよな。遊んでいてうっかり転んだだとか、仲良しの友達とたまたま喧嘩になったというパターンもあr
「た、たかし、くんが……ひっく、たかしくんが……ゆ、ゆうのこと、ぶったの……」
「よしよし、パパに任せろ。その『たかし』とか言うクソガキを抹殺すれば万事解決だな」
「待て待て真也、落ち着け!! 何も解決しないから!! 暴力にモノ言わせるのはダメ!!」
玄関を出て行こうとした俺の服を掴み制止する樹久。
たしかに一理あるな……何でもかんでも暴力で解決するのはいけないな、優の教育上。
「たかしくんが、ね……ぱ、ぱぱのこと……バカにしたから、ゆうが……ひっく、ゆうがね、いいかえしたら……うっ、たたいてきたの……」
「優……」
「優ちゃんはやさしいなー」
俺のために言い返してくれたのか……嬉しすぎる……嬉しすぎて涙が……ただし“たかし”とやらは後で全力で呪う。
優を抱き上げ頭を撫でてやると、目尻に溜まっていた涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。それを指で拭いつつ「ありがとうな、優。パパはそれだけで嬉しいぞ」と言いながら微笑みを向けると、優は嗚咽を漏らしながら言葉を続ける。
「それにね? き、きっちゃん……きっちゃんのこと、ひっく……オッサンだっていって、バカにしたの……っ」
「こんのクソガキ……ッ!! オッサンの恐ろしさを骨の髄まで思い知らせてやろうかァ!?」
「まあ待てオッサン」
鬼のような形相で強い殺気をまといながら玄関を飛び出そうとした樹久……の、首根っこを掴んで引っ張り、バランス感覚が乱れたタイミングで片足を引っかけると、樹久の体はいとも簡単に床へ崩れ落ちたので、それを踏みつけて見下(みくだ)した。
「オッサンじゃないもん……つーか、踏んでる。真也……俺の頭、踏んでる……」
「もう泣くな、優。パパ達は大丈夫だ」
「ほんと……?」
「ああ、本当だ」
「あれ? 無視? 10年来の大親友を踏みつけた上に無視なの? 真ちゃん」
踏みつけている片足に全体重をかけると、樹久は「ギブギブ!」と喚いて床を叩く。が、あえて無視をする。
「本当だ。だからほら、また遊びに行ってこい」
「……うん!」
服の袖で優の涙を拭いてから床に降ろすと、優はアイドル顔負けなほどの眩しすぎるキュートスマイルを浮かべた。
玄関の扉を開けてやると、優は意気揚々と靴を履いてこちらに手を振りながら走り去っていく。
「優ー!! 知らない奴には絶対ついて行くなよー! それから、歩道を歩いていても車には十分気をつけるようになー! あ、犬にも気をつけろよ! 急に噛みつくやつもいるからなー! 溝にも気をつけるんだぞー! それから、」
「真也、長い。多分もう後半は優ちゃんに聞こえてないから。もっと短く要件伝えよう?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます