神命下賜 -Nomination Activities-

こざくら研究会

Ⅰ 運命の時 -The Fateful Moment-

 リーフ・チャイルドは荒い息を吐く。滲む汗、それが髪を伝い、額を通り、まつ毛を乗り越え目に入る。くっと小さく呻くと、目を拭った。

 まだ負ける訳にはいかない。わたしは、決して諦めない。そう、明けの明星ティンクルスターをその目で見るまでは。この二年、神々の黄昏ラグナロクを生き抜いて来たわたしには、その資格があるはずだ! そう思ってリーフは頷く。

 眼前は戦場への道。多くの鉄騎戦車アイアン・チャリオットが行きかう。砂塵が舞い、地獄タルタロスの中心、魔宮デーモンズパレスへの道がついに開かれたのだ。軍楽隊の演奏が鳴る。魔道術師マジックユーザーの力か、進軍の合図、蒼の信号が頭上に灯された。

 リーフは脳内で叫んだ。変わった! 出る!!

 信号を合図に駆け出した。戦場へと続く道。そこには、目を覆いたくなる惨状があった。かつて人々が住んでいたであろう家々には、すでに灯はなく、打ち捨てられた遺体には、魔鳥フレスベルクがたかっていた。

 リーフは思う。今すぐにでも、あの魔鳥フレスベルクを打ち払いたいと。だが、リーフの目指すものは決まっていた。そう、魔宮デーモンズパレスへ。あそこにこそ、己が討つものがあるのだと。

「すまない」

 リーフは魔鳥フレスベルクに食い荒らされる死体へと呟く。

 それは自らへの偽り、欺瞞。すべての者を救いたい。だがその力のない自身への諦めですらあるのだと思い、歯を噛み締める。

 ふと、曲がり角から、魔獣ガルムが顔を出す。

『どけ!!』

 リーフの殺気、その念を視線に乗せ、魔獣ガルムを睨む。リーフの神翼しんよくの騎士の力の源は、その精神に有った。リーフの眼力に恐れをなした魔獣ガルムは背を向けて逃げ出した。

 今は、戦っている暇はない。少しでも、少しでも早く、あそこに辿り着かなくては。リーフは思う。

 運命の時フェイトフル・モーメントは、迫っていた。


 そしてついに、リーフは、魔宮デーモンズパレスの前へと立ったのだった。

 禍々しい、黒き鉄の門、そこには巨躯の偉大なる悪魔バエルが立ち塞がった。だがリーフはそれも想定済みであった。誘惑と混乱の魔法シャイニング・ジェラートの神術によってその心を乱す。

 いまだ!

 リーフは黒き鉄の門を抜け、ついに地獄タルタロスの中心、魔宮デーモンズパレスへと足を踏み入れたのであった。

 だが中はシンとしていた。おかしい。リーフは思う。先遣隊はどうしたのかと。いかに偉大なる悪魔バエルであろうと、あの大軍をすべて斃す事等叶わないはずだ。

 だが、魔宮デーモンズパレスは恐ろしい程に静まり返っていたのだった。

 不気味な予感に襲われながらも、リーフは足を止めない。そして運命に導かれるようにして、その扉を開いてしまったのだ。

 その時だった。魔鐘イビル・レクイエムが鳴り響いた。

 くっ、これは罠か!! リーフがそう思った時、悪夢の再誕ルキフグロフォカレが目の前に姿を現したのだった。

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