チート!!
こんにちは平重盛です。
それなりにこの時代を楽しんでいる僕ですが、どうしても我慢ならないことが2つあります。
1つ目が風呂。
「母さま。風呂に入りたいです。」
「風呂殿?はい、どうぞ」
「・・・」
床下から湯気を送り込んで、部屋に蒸気をためて、湯帷子ゆかたびらを着て入った。
「重盛ちゃん、風呂敷の上にすわってー」
最初は何のことかと思ったが、どうやら風呂に敷いた敷物のことみたいだ。
「体があったまったら、垢すりしてあげるからなー」
「ん、ありがとう・・・じゃなくて!」
僕が入りたいのは、サウナじゃなくて風呂なんだ。
「お湯に浸る?ああ、重盛ちゃんが言っているのは風呂殿じゃなくて湯殿なのね。」
次に連れてこられたのは、首までは浸かれそうにない浅い風呂。
それでも風呂は風呂だ。
まずはしっかり垢を落としてと・・・
「あんまり垢を落としすぎたらあかんでー」
「え、どうして?」
「垢が全部とれてもうたら、毛穴から邪気が入ってしまうやろ?」
・・・ひどい迷信だ。
「いや、これだけは譲れないっ!」
垢をゴシゴシこすって、ドブンと湯船に浸かる。
母さまは、呆れたようにこちらを見ていた。
-後日
「母さま、家がウ○コ臭いです。」
「まあ。まあ、まあ、まあ!」
母さまが部屋の中を右往左往しながら、イカ踊りをはじめてしまった。
-四半刻後
「落ち着きましたか。母さま?」
「え、ええ。」
「で、ウ○コの「わーわーわー!聞こえなーーい!」」
「ダメですか?」
「ダメです!!」
どうやら受け入れてもらえないようだ。
「しかし、何とかしたいのです。」
「でも何ともならへんやろ。」
母さまが困った顔をする。
「分かりました。原因と解決策を
転生してからこんなにやる気に満ちあふれているのは初めてかもしれない。
まず、原因は分かっている。
一見、小物入れのような箱だが、実は、オマルのようなポータブルトイレで、用を足すときは、部屋にこれを持ってきて、フタを開けて、事を済ませる。
事が済めば、そそそ、と持ち去ってくれる係の人、いつもありがとう。感謝しかない。
しかし、すぐにどこかで処分してくれる訳ではない。
どうやら一定量が溜まるまでは、邸宅の中に置いているようなのだ。
そして、我が家の造り。いや、我が家だけではないが、歴史の授業で習った、いわゆる寝殿造だ。
寝殿造といえば、10円玉の平等院鳳凰堂をイメージすると分かりやすい。
広大な邸宅は壁がまったくないワンフロア。そこを屏風や几帳で区切っている。そういった建物が複数棟、廊下でつながっている。とても開放的だ。
冬の寒気もだし、じいちゃんも清盛パパも、基盛も、僕も、あまつさえ母さままでが日々産み出す黄金色の災厄の香りが容赦なく共有される。
-2日後
会心の
はじめは幼子の宿題を見るような目で、木簡に目を通していたじいちゃんと清盛パパの目が次第に真剣味を帯びてくる。
「この川屋というのは?」
じいちゃんが質問する。
「はい。他家で導入しているという噂を聞き、参考にしました。敷地内に川から水路を引き、邸宅の下を通します。水路の真上の床に穴を開け、そこで用を足すという仕組みです。」
「なるほど!あとは水が流してくれる訳か!」
清盛パパが愉快そうに膝を叩いた。
この「
「うむ。よく調べたの。して、この次の案は?」
さあ、ここからが勝負だ。
「はい。実は糞尿を川に流してしまうだけでは利を生みません。利を生むためにはやはり糞尿を溜めるのがよろしいのです。」
「溜める?何のために?」
清盛パパが胡乱な目で見てくる。
「糞尿は畑の肥料になります。」
「肥料じゃと?」
「はい。プリニウスの『博物誌』にも記されておりますので、間違いありません!」
「ぷり?なんじゃと??」
・・・しまった。大口真神の農業指南書(4話登場)に引きずられて、言わなくてもいいことまで言ってしまった。
「コホン、とにかく一度、お試しください。方法は木簡に記したとおりです。」
強引に話を戻す。
「しかし、溜めるための課題は、この寝殿造の構造です。こう、開放的な造りでは匂いが広がってしまいます。そこで、邸宅の構造を変えてしまうのです。」
「それがこの書院造とやらか?」
そう、歴史の授業で平安時代の寝殿造に続いて登場する、室町時代の書院造だ。構造はさして寝殿造と変わりないが、空間を壁で区切り、一つ一つの部屋が明確に区分されている点で大きく異なる。
この書院造を考えた人は天才だ!これでトイレ事情が劇的に改善される!
まさか、書院造を考えた人も同じ悩みを・・・。
遠い未来の時代の同士とがっちりと握手した気分だ。
「しかし、それでは宴をひらく折などに不便であろう?採光の問題もあるしな。」
「そこはこのように襖や障子を取り外せるようにすると・・・。」
このあと、母さまや、ばあちゃんまでやって来て、遅くまで白熱した議論が続いた。
翌々日にはじいちゃんが、知り合いで宮内省に勤める建築に詳しいお役人さんまで呼んで話を詰め、邸宅の大改修を行うことが決定した。
やったよ!遂にチートだ!
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